23.縮小機能
惑星ヴァルシア。
ロボット研究所。
恭子は知人の研究員と話をしている。
「え、アストライアの縮小化機能が欲しい?」
「うん。そろそろないと今後に影響が」
「影響?」
「巨大化すると建物壊すし人踏んじゃうし」
「まあ……言いたいことはわかるけど」
研究員はモニターを操作する。
「でも縮小巨大化って、そう簡単な技術じゃないぞ?」
「ガリバーで見た」
「……は?」
「観光客向けに小さくしてた」
「何だそれ」
「物質状態変換装置」
研究員の手が止まった。
「待て待て待て。それって惑星ガリバーの観光技術か?」
「そう」
「お前まさか」
嫌な予感しかしない。
「応用できないかなって」
研究員は頭を抱える。
「私にあの技術を軍事転用しろと?」
「うん」
「あの技術はガリバーの専売特許で特許申請が出てるんだぞ。一体、いくらかかると思ってるんだ」
「いくら?」
「法人利用なら年間契約。個人でも使用料、保守料、技術提供料込みで——」
研究員は画面を見た。
「高っ!」
「なんであなたが驚いてるのよ?」
「まあ、アリスにはいつも世話になってるからね。交渉はしてみるよ」
「ほんと!?」
恭子の表情が明るくなる。
「ただし」
研究員は指を一本立てた。
「仮に許可が下りても、そのままアストライアに積めるとは思うなよ」
「え?」
「……というか、アストライアの構造、ほとんど解析できてないし」
「そうなの?」
「当たり前だ」
研究員はモニターを閉じる。
「超機械生命体なんて存在自体が規格外だ」
「空中元素固定装置の技術は理解できても、アストライア本体はブラックボックスだぞ」
「そんなに?」
「そんなにだ」
少しの間。
「例えるなら」
「赤ちゃんが宇宙船を拾って分解してるようなものだ」
「ひどい例え」
「事実だ」
「どのくらいかかりそう?」
「回答が得られてからだから、少なくとも二週間は待ってくれ」
「わかった」
恭子は立ち上がる。
「じゃあ、お願いね」
研究員は手をひらひらと振る。
恭子が研究所を出て行ったあと。
「……………………」
研究員はゆっくり椅子にもたれた。
「何を普通に引き受けてるんだ私は……」
画面には。
惑星ガリバー。
物質状態変換装置。
技術使用契約。
ライセンス申請。
特許利用。
「軍事転用申請……?」
研究員は頭を抱えた。
「絶対面倒な案件だこれ……」
そして画面の片隅には。
『ミニーマ・ガリバン様』
問い合わせ送信画面。
「……通るのか? 本当に」
不安しかなかった。
二週間後。
惑星ヴァルシア。
ロボット研究所。
「返事来たぞー」
研究員の声。
恭子は研究室へ顔を出す。
「ほんと?」
「ああ」
研究員の顔色は悪かった。
「……?」
「許可は出た」
「やった!」
「ただし」
嫌な予感しかしない。
「技術使用料、保守契約料、ライセンス料、軍事転用追加契約、利用環境監査費、サポート費、年間更新料込み」
研究員はゆっくり画面を見た。
「えげつない」
「え?」
モニター。
そこに表示された金額。
『初年度契約費:2億7千万ヴァル』
「高っ!?」
恭子が叫ぶ。
「だから言っただろ!」
研究員も叫ぶ。
「観光技術だぞ!?」
「なんでそんなするの!?」
「知らん! 向こうも特許だ!」
研究員は頭を抱えた。
「今月の研究所予算飛ぶぞ……」
「そんなに!?」
「そんなにだ!」
画面の下には追い打ちのように。
『※軍事利用申請のため通常料金と異なります』
「軍事利用で跳ね上がってる!?」
「当たり前だ!」
それでも研究員は仲間の力を借りて、アストライアに縮小巨大化装置を搭載した。
三週間後。
「完成したぞ」
研究員は疲れ切った顔をしていた。
目の下にはクマ。
机の上にはエナジードリンクの空き缶。
「おお!」
恭子が目を輝かせる。
「これが?」
「ああ」
研究員はモニターを操作する。
画面には、
『アストライア用可変サイズ制御ユニット』
と表示されていた。
「ガリバーの物質状態変換技術と空中元素固定装置を組み合わせた」
「通常五十二メートル」
「最低、人間サイズまで縮小可能」
「おおー!」
「ただし」
嫌な予感しかしない。
「試作品だ」
「また?」
「まただ」
研究員は真顔だった。
「サイズ制御が不安定でな」
「不安定?」
「一メートルずれる可能性がある」
「大丈夫大丈夫」
「何を根拠に!?」
研究員が叫ぶ。
「……と言いたいところだが」
研究員は少し得意げな顔をした。
「今回も自信作だ」
「え?」
「ガリバーの物質状態変換技術をそのまま流用せず、アストライア用に一から組み直した」
「縮小時の出力低下」
「再巨大化時の誤差」
「質量変動」
「全部解決済みだ」
「すごっ」
恭子が素直に驚く。
「誰に言ってる」
研究員は鼻で笑った。
「私はヴァルシアロボット研究所主席研究員だぞ」
「失敗する前提で話を進めるな」
「ごめん」
「いや否定しろ」
研究員は立ち上がる。
「実際のシステムの試運転だ」
研究員は恭子を連れて格納庫へ移動する。
巨大なシャッターが開く。
その先。
白銀の巨体。
アストライアが静かに格納されていた。
研究員が改良したスティックを渡してくる。
「外見は変わってないけど、中身は別物だ」
恭子はスティックを受け取る。
「何が変わったの?」
「サイズ制御機能追加。縮小、等身大、通常サイズ切り替え。それと安全機能」
「安全機能?」
「五十二メートルから急に一センチにはならんようにした」
「そんな機能必要?」
「お前が使うから必要なんだ」
「失礼ね」
「否定しろ」
研究員は端末を操作した。
格納庫内にホログラムが出現する。
『SIZE SELECT』
『172cm』
『5m』
『20m』
『52m』
「試しに起動してみろ」
恭子はスティックを握る。
一瞬、スティック中央のラインが青く発光した。
白い粒子が周囲に現れ始める。
研究員は腕を組んだ。
「さて。本当に一発で成功するかな」
次の瞬間、恭子の体がアストライアに収納され意識が同期する。
と、同時にアストライアの巨体がゆっくりと縮小を始めた。
身長百六十五センチメートル。
恭子の身長より若干高い。
アストライアは自分の手を見た。
開く。
握る。
軽い。
普段とは感覚が違う。
「どうお?」
研究員が訊ねる。
アストライアは腕を回した。
足を動かす。
その場で軽く跳ぶ。
「問題ない。反応速度も正常。視覚同期も異常なし」
研究員は端末を確認する。
「エネルギー消費量も許容範囲。完璧だな」
恭子は辺りを見回した。
いつも見上げていた格納庫。
今は普通の部屋くらいに感じる。
「変な感じ」
「だろうな」
研究員は笑う。
「今まで五十二メートルだったんだから。……走ってみろ」
「ん」
アストライアは軽く走る。
タッ
タタッ
シュン!
「え?」
一瞬だった。
研究員の横を通り過ぎたと思った次の瞬間。
格納庫の壁際まで移動していた。
「……………………」
「……………………」
研究員は真顔になった。
「待て」
「今の何だ」
アストライアは首を傾げる。
「レイクローディだけど?」
「だけど? じゃない」
「それお前の能力か!?」
「そうだよ」
「現象を説明しろ」
少し考える恭子。
「高速状態移行能力?」
「高速……状態?」
「うん。私の種族に備わってる機能」
研究員の動きが止まった。
「……待て。機能?」
「そう」
「生体機能か!?」
「そうだけど」
「……………………」
「……………………」
「……何でそんなものが生えてる」
「兄さんも使えるよ?」
「比較対象がおかしい!」
研究員はそう言った後、ゆっくりと歩き出した。
「さてと」
恭子は時空転移で宇宙船へ。
操縦パネルを操作し、アルクビエレ・ドライブを開始した。
一瞬。
宇宙船は地球圏へ到達する。
窓の外には青い星。
「やっぱり地球が一番ね」
恭子は操縦席にもたれかかる。
静かだった。
事件もない。
怪獣もいない。
地上げ屋もいない。
警報も鳴らない。
「……平和」
少し間。
「銭湯でも行こうかな」
新機能完成直後とは思えない感想だった。




