20.失踪人 前編
東京。
住宅街に私立探偵事務所が設置された。
輝須 彰の店舗だ。
以前の事務所を引き払ってこちらに越してきたのである。
店舗前の看板には、調査員募集の文字。
その前をテレスが通りかかる。
テレスは地球に来たばかりで無一文だ。
(調査員募集?)
テレスは事務所に入る。
「すみませーん」
輝須が出迎える。
「どうされました?」
「表の看板見させていただきました。調査員ので」
「ああ。応募の方ですか?」
「はい」
「今、空いてるんで面接しちゃいます?」
「お願いします」
輝須はテレスに椅子へ座るよう促した。
テレスの向かい側に机を挟んで座る輝須。
お前ら紛らわし名前をするな。
「うん? 今なんか聞こえなかったですか?」
「いや、気のせいじゃないですかね?」
輝須がテレスの前に紙を置く。
「履歴書代わりです」
テレスは紙を見て、必要事項に記入をする。
輝須は受け取った紙を見て。
「へえ。あなたも調査員の経験が?」
「はい」
「では即戦力になりますね。いいでしょう。ぜひうちでやってください」
(名前はテレスか。文字だけ見ると俺と同じだけど、外国の方なんだなきっと)
「ああ、そうだ」
輝須がテレスに名刺を渡す。
「所長の輝須 彰です」
「輝須? 同じ名前ですね」
「苗字ですけどね」
二人の名前が似ていた。
いや、似ているどころではない。
片方は名前で、もう一方は苗字なだけである。
「よろしければ、テレスさんの家族構成をお伺いしてもよろしいですか?」
「妹が一人。警察官です」
「へえ。奇遇ですね。私の妹も警察官なんですよ。有栖 由美って言うんです」
「有栖? 実は私の妹もアリスなんです」
「すごい偶然ですね」
二人の妹は警察官だった。
名前も似ていた。
偶然とは恐ろしいものである。
いや、ここまで来ると恐ろしいを通り越して腹立たしい。
「それじゃあ——」
輝須が言う。
「今、うちで扱おうとしている案件があるんですけど、形だけですが入社試験ってことで、とある事件の調査をしていただきましょうか」
「事件……ですか」
輝須は一枚の写真を取り出す。
そこには見窄らしい男性が写っている。
剛力 康太。
十六歳。
一週間前にバイトに出かけたきり自宅に戻っていない。
家族が心配して警察に相談するも、事件性なしとして捜索はされていなかった。
住所は東京都杉並区東三丁目。
「この男子高校生を捜し出していただきたいです。私は家出ではないかと思っているのですが」
「わかりました。写真、預かりますね」
テレスは写真を預かると、剛力の家へ向かう。
事務所を出たところで、恭子と雄一が通りかかった。
「あ、輝須さんじゃないですか」
恭子はたった今テレスの出てきた事務所を見る。
「ここ、輝須さんの?」
「そうだよ」
「何か事件でしょうか?」
「そうなんだよ。今、この人を捜しに行こうとしていてね」
テレスは恭子に剛力の写真を見せる。
(剛力 康太!?)
「テレスさんの調査、我々も同行してよろしいでしょうか?」
「それはどうして?」
「実は我々ACRでもその高校生を探しているんですよ」
「そうなのか。では、合同捜査ってことで同行しようか」
恭子の同僚の雄一が口を開く。
「あの、この方は?」
「有栖さんのお兄さんだよ」
「ああ、あのお巡りさんの」
また一人、勘違い役が増えたのである。
改めて三人は剛力の家に向かう。
剛力家に着き、インターホンを鳴らした。
「はーい」
女性が出てくる。
きっと剛力の母だろう。
恭子はACR手帳を見せる。
「ACRの高木です。こちらの剛力 康太さんの件でお伺いしました」
「え、康太の失踪は宇宙人と関係してるんですか?」
母の問い。
「その恐れがあるので調べています。話を聞かせていただけないでしょうか?」
「はい。汚いですが、とりあえず上がってください」
家へと招き入れられた三人はリビングの椅子に腰掛けた。
「今、お茶を出しますね」
「いえ、お構いなく」
三人の前にお茶が出される。
向かい側に母親が座った。
「では、早速ですが、康太さんが最後に家を出たのはいつでしょうか?」
「一週間前の水曜日です。その日は初めてのアルバイトの日で、張り切って出かけて行きました」
ところが、夜になり、日付が変わっても帰宅しない。
心配になった母親は父親と相談した翌朝、警察に相談をしたが、事件性もなくただの家出ということで捜索はされなかった。
「康太さんはどちらのバイト先へ向かったんでしょうか?」
「それが教えてくれなかったんです。ただバイトに受かったから行ってくるとだけで」
「康太さんのお部屋を拝見しても?」
「どうぞ」
母親が康太の部屋に案内する。
リビングを出て、階段を上がり、廊下を左に曲がったすぐのところが康太の部屋だった。
「こちらです」
扉を開ける。
「部屋は失踪時のままです」
「失礼しますよ」
三人は部屋に入る。
「では私は下におりますので、何かあったらお声がけください」
母親が階段を降りていった。
三人は部屋の中を調べる。
恭子は机。
抽斗を開けると中に日記帳があった。
恭子は日記帳を手に取って開いた。
日記には康太がいじめられているということが書かれていた。
それを読み進めると、そのいじめの加害者に仕返しをすべく、宇宙人の肉体改造施設へ行くということが殴り書きされている。
(肉体改造施設?)
テレスが日記帳を覗き込む。
「何かあったのか?」
「気になるワードが」
どれどれ、と見るテレス。
「宇宙人の肉体改造施設?」
「輝須さん、これは大きな手がかりですよ」
三人は室内をくまなく探し回り、肉体改造施設の住所が書いてあるパンフレットを見つけた。
「行きましょう」
三人は階下に降りた。
「お母さん、重要な手がかりが見つかりました。これからその場所に行ってきます」
「息子は、息子はそこにいるんですね?」
「それは……」
「お願いします。息子を無事に帰してください」
三人は剛力家を出る。
「輝須さん、この先は危険です。我々ACRに任せてもらえませんか?」
「いえ、俺も行くよ。探偵として最後まで見たいんだ」
「わかりました。ですが、なにが起こるかはわかりません。それだけご理解ください」
三人は住所の元へ移動した。
そこは都内にある山奥の誰も寄りつかないような場所。
ポツンと一軒だけ建造物がある。
ポツンと一軒家か。
三人は建造物の周囲を確認する。
表に戻り、静かに中へと入る。
中はもぬけの殻。
しかし、様々な実験設備が残っており、どうやらここで何かが行われていたことだけはわかった。
奥へ進み、コンピュータルームへ。
コンピュータを起動させる。
データを確認すると、あらゆる証拠がわんさかと出てきた。
人間の生態調査。
実験サンプルの回収。
精神操作。
そして人体の機械化。
「拐われた高校生の居場所を特定しましょう」
恭子はコンピュータを調べる。
剛力 康太。
機械惑星ギアールに移送。
「機械惑星ギアール……」
呟く恭子。
「そんな星どこにあるんだよ」
と、雄一が困ったように言う。
「……乙女座」
テレスがそう言った。
「輝須さん?」
恭子がテレスの言葉を不審に思う。
「う、宇宙人の知り合いに聞いたんだよ。そんな星があるって」
「なんだ、そうだったの」
雄一が疑問を口にする。
「大体そんなところまでどうやって行くんだよ? 乙女座まで短くても250光年はあるぞ」
「そうね。アストライアなら行けるんでしょうけど」
「まあ、アストライアならな」
テレスは思った。
(あの白銀の巨人か)
「250光年か……お手上げだな。アルクビエレ・ドライブが実現できれば地球人類でも行けるだろうけど」
「ここまで、か」
テレスは歩き出す。
「どちらへ?」
「帰る」
そう言ってテレスは去っていってしまった。
「高木さん」
雄一が声をかける。
「あんた、宇宙船持ってないのか?」
「持ってるよ。アルクビエレ・ドライブもできる」
「なに!? 本当か!」
「うん」
「それじゃあ行こうぜ! 機械惑星ギアールに!」
「私もそう思っていたところだよ」
恭子は時空転移装置を取り出す。
「それは?」
「時空転移装置。これで宇宙船まで一っ飛びよ」
装置起動。
二人の体が亜空間を通って恭子の宇宙船に転移した。




