16.海の怪物クラーケン
沖へ出た年配の男性が船の上から魚釣りをしている。
「お!」
竿に何かがかかり、男性は釣り上げようとする。
「くっ、結構大物だぞ!」
リールを巻いたり緩めたりして海の中の相手との格闘。
「よし!」
魚を釣り上げた。
そう思った。
しかし、水面から顔を出したのは、大きなイカの怪物。
全長五十メートルほどのイカだ。
クラーケンと呼ばれるそのイカは、船の上の男性を押す。
「うわ! うわああああ!」
男性はクラーケンの触手に絡め取られ海に引きづり込まれてしまう。
ACR基地。
鈴間が話をしている。
「先日、東京湾の沖合で、釣り客が巨大な何かに海へ引きづり込まれるという事件があった」
「巨大な何か?」
と、隊員の一人が訊く。
「うん。近くを遊覧していた乗組員が確認したそうだ。巨大なイカを」
「巨大なイカですか?」
と、恭子。
「推定全長五十メートルはあるとのことだった。恐らく、近世ノルウェーに伝わっていた海の怪物……クラーケンではないかと思われる」
「そのクラーケンがどうして日本に?」
「実はな、クラーケンはノルウェーだけの伝説ではないんだ。日本でも深海獣イカルガとして恐れられてきていたんだ」
「イカルガ……」
その場にいた隊員たちが一堂に想像して戦慄する。
「まずは高木隊員。クラーケンの調査メンバーに入ってくれ」
鈴間がそう指名してから、他の隊員を見る。
「そうだな。今回はイカ博士の斑鳩隊員に行ってもらおう」
斑鳩隊員が突っ込む。
「隊長、相手がイカルガだから僕を選んでます?」
「お前はイカの生態にとても詳しい。だから選んだ」
鈴間は一瞬だけ目を逸らした。
「高木隊員、斑鳩隊員の両名は準備して現地に向かってくれ」
「「はい!」」
二人は海底探査機で東京湾の沖合の調査に向かった。
探査機の中で斑鳩が口を開く。
「いくら僕がイカ博士でも、クラーケンの生態がイカと合致するとは思えないけどなあ」
「じゃあ何しに来たんですか?」
と、恭子は訊く。
「隊長に訊いて」
ごもっともだった。
探査機がしばらく海底を航行。
恭子は窓の外を覗き込んでいる。
「高木さん、何か異常はありますか?」
「いや、特には……」
刹那、探査機のレーダーに反応が現れた。
「後方から何か近づいてきてます。見えますか」
恭子は目を凝らして後方を確認する。
確かに何かが近づいていきている。それも大きな影だ。
「ぶつかると危険よ。浮上しましょう」
探査機が浮上する。
大きな影はそれを見て追いかけてくる。
「追跡してくる?」
と、恭子。
「何ですって?」
そう言うのは斑鳩だ。
「斑鳩さん、向きを変えて魚雷を発射」
斑鳩は探査機の向きを後方の巨大な影に変え魚雷を発射した。
太い触手のようなものが動き、魚雷を撃ち落とす。
影は接近する速度を上げる。
そして、その影がだんだんと近づいてきて、はっきりとした姿が見えてきた。
全長五十メートルの巨大なイカ。
クラーケン。
間違いようがなかった。
「く、クラーケンだああああ!」
クラーケンの触手が探査機を襲う。
探査機はコントロールを失い海底へ落下していく。
急激な水圧変化で探査機の皮膜が音を立てて凹む。
探査機は海底に墜落すると少し地面を滑って止まった。
衝撃が原因で故障したのか、探査機はびくともしない。
「やべえ、船体壊れた!」
「ちょっと、どうやって逃げるのよ!?」
「助けてくれ、ウルトラマーン!」
「そんなものいるわけないでしょう!?」
二人が漫才をしている間にも、クラーケンは探査機に近づいてくる。
恭子は懐からスティックを取り出すが。
(この状況を何とかするにはこれしかないけど……)
しかし船内には斑鳩が乗っている。
アストライアを呼び出せば、斑鳩に正体を知られてしまう。
恭子はスティックを押すわけにはいかなかった。
斑鳩は口が軽い。内緒話など到底できないタイプの人間だった。
クラーケンが触手で探査機を巻き取る。
絶対絶命のピンチ。
そう思った時、伝説の海神が現れ、クラーケンの触手を切り落とし、探査機を救出した。
「あの巨人は……?」
首を傾げる斑鳩。
探査機はゆっくりと海底に着地する。
恭子は海神を見て懐かしさを覚えた。
(ポセイドーン……)
海神ポセイドーン。
恭子がまだ自衛隊に所属する前、海底神殿でお世話になったことのある旧知の仲だ。
目の前のポセイドーンがクラーケンと戦う。
ポセイドーンの剣が遅いくるクラーケンの触手を切り落とし。
残った触手でポセイドーンの顔を叩く。
ポセイドーンは触手を払い。
クラーケンが触手でポセイドーンを転ばせる。
ポセイドーンは起き上がり、迫り来るクラーケンの触手を切った。
クラーケンは残る全ての触手を使ってポセイドーンを襲う。
ポセイドーンはバックステップで攻撃をかわし、クラーケンが触手を引いた隙に懐へと潜る。
クラーケンの体にポセイドーンの剣が突き刺さる。
「ぎああああ!」
悲鳴を上げるクラーケン。
ポセイドーンは剣を抜き、頭上に振りかぶるとクラーケンに向かってジャンプしてその刃を一気に下ろした。
クラーケンの体が縦に真っ二つに切り裂かれ、力を失ってその場に崩れ落ちた。
ポセイドーンは探査機を抱え、浮上して陸地にゆっくりと置いた。
探査機から降りる二人。
「誰だかわからないけど、助かったよ!」
と、斑鳩がポセイドーンの方を向いて言った。
ポセイドーンは恭子に気づくと、声をかけようした。
しかし、恭子が両手を顔の前でブンブン振ると、ポセイドーンはその意味を理解して何も言わなかった。
そして、ポセイドーンは海の底へと戻っていくのであった。




