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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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60/60

第60話:最終回 「今年の花、よく咲くわね」

世界は、終わらなかった。


あの日。

王子が「理解しない」と答えた瞬間。


空に浮かんでいた管理者のログは乱れ、

世界を制御していたシステムは、判断不能に陥った。


エンディングは定義されず。

シナリオは確定せず。


それでも。


世界は消えなかった。


空の裂け目はゆっくり閉じ、

街の消滅も止まり、

時間は何事もなかったように流れ始めた。


誰も知らない。


世界が一度、終わりかけていたことを。


王都では、復興が進んでいた。


崩れた城壁は積み直され、

市場には再び商人が並び、

子供たちが石畳の道を走り回っている。


人々は普通に生きている。


普通に笑い、

普通に働き、

普通に明日を信じている。


世界がゲームだったなど、

誰も思っていない。


それを知っているのは、ほんの数人だけだった。


王子。


ミリア。


そして――


セレフィーナ。


王城の庭園。


春の陽射しの下で、花壇が色とりどりに咲いている。


庭師たちが丹精込めて育てた花だ。


セレフィーナはその前でしゃがみ込み、

小さく微笑んでいた。


指先で花びらに触れる。


「今年の花、よく咲くわね」


まるで何でもないことのように言う。


その隣に王子が立っていた。


少し離れた空を見上げる。


かつて裂けていた空。


今は青く、ただ静かに広がっている。


王子は短く答えた。


「……ああ」


それだけだった。


セレフィーナは満足そうに頷くと、

また花を眺め始めた。


何も知らない顔で。


少し離れた木陰で、ミリアが腕を組んでいた。


その様子を見ながら、ため息をつく。


「ほんと」


小さく呟く。


「よく持ってるよね、この世界」


誰も聞いていない。


ただ風が吹き、花が揺れる。


セレフィーナは楽しそうに言う。


「来年はもっと増やそうかしら」


王子は苦笑する。


「庭師が泣くぞ」


「大丈夫よ。きっと何とかなるわ」


根拠はない。


でも彼女は、いつもそう言う。


そして、なぜか。


本当に何とかなるのだ。


風が吹く。


花びらが舞う。


世界は、静かに回っている。


ナレーション。


世界を動かしていたのは

陰謀でも運命でもない


勇者でも

王でもない


ただ


花が綺麗だと

笑う


一人の少女だった


そして――


世界を動かしていたのは

陰謀でも運命でもない


ただの天然だった。


空のどこかで、

誰にも見えないログが静かに点滅する。


シナリオ状態:未完成


世界状態:継続


原因:不明


推定原因:ヒロイン(天然)


物語は、終わらない。

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