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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第59話:王子の結論 ――「理解しない」――

空の裂け目は、まだそこにあった。


だが、広がってはいない。


セレフィーナの解放した光が、世界をかろうじて繋ぎ止めていた。


王都の瓦礫の上で、人々は空を見上げている。


誰もが理解していた。


これは奇跡ではない。


延命だ。


いつ崩れてもおかしくない均衡。


セレフィーナは静かに立っていた。


胸の奥に、重い確信がある。


(長くは、もたない)


ヒロイン権限は世界を支えている。


だが、完全な修復ではない。


ただ、崩壊を止めているだけ。


そのとき。


管理者の声が空から落ちた。


「世界構造」


「臨界状態」


淡々とした声。


感情も躊躇もない。


「長期維持」


「不可能」


広場がざわめく。


人々の顔が青ざめる。


管理者は続ける。


「最適解」


空に表示が浮かび上がる。


ヒロイン削除


世界再生成


セレフィーナは目を閉じた。


その言葉の意味は、もう理解している。


この世界を終わらせる。


最初から作り直す。


人も歴史も。


全部。


「……そう」


小さく呟く。


「それが、あなたの答え」


管理者は答える。


「合理的」


沈黙が落ちる。


その中で。


王子は、まだ何も言っていなかった。


ただ空を見上げている。


管理者の言葉を聞き続けていた。


世界構造。


シナリオ。


再生成。


すべてを。


まるで、一つ一つ確かめるように。


ミリアが横目で見る。


「……で?」


腕を組む。


「どうする?」


王子は答えない。


ただ、一歩歩いた。


瓦礫を踏み越える。


そしてもう一歩。


セレフィーナの前を通り過ぎる。


真っ直ぐ。


空に浮かぶ管理者の前へ。


広場が静まり返る。


管理者が言う。


「理解したか」


王子は答えた。


「理解した」


その声は落ち着いていた。


ミリアが目を細める。


管理者が続ける。


「ならば」


「削除を承認せよ」


王子は空を見上げたまま、しばらく黙っていた。


風が吹く。


瓦礫の音が、遠くで崩れる。


そして。


王子は言った。


「理解した」


一拍。


「だが」


管理者のログが静止する。


王子の声は、はっきりしていた。


「理解しない」


世界が止まったように静かになる。


ミリアの口元が、わずかに歪む。


管理者の声が落ちる。


「矛盾」


王子は言った。


「矛盾じゃない」


ゆっくり空を見上げる。


「お前の言うことは」


「全部わかった」


指を折るように続ける。


「この世界はゲーム」


「ヒロインはシステム」


「エンディングがないから壊れた」


「削除すれば作り直せる」


広場にいる全員が聞いている。


王子は言った。


「理屈は理解した」


そして。


静かに続ける。


「だから」


剣を握る。


「理解しない」


管理者が答える。


「非合理」


王子は笑った。


「そうだな」


肩をすくめる。


「人間だからな」


そして、振り向く。


王都を見る。


崩れた城壁。


瓦礫の街。


それでも。


人々が立っている。


子供が母の手を握っている。


兵士が槍を握っている。


老人が杖をついている。


王子は言う。


「ここで」


「人が生きた」


ゆっくり空へ向き直る。


「笑って」


「泣いて」


「怒って」


「戦って」


「守った」


剣を空に向ける。


「それを」


声が強くなる。


「世界を守るために消す?」


首を振る。


「そんなもの」


剣を強く握る。


「俺は認めない」


管理者の声。


「非合理」


王子は言った。


「そうだ」


「合理じゃない」


そして。


セレフィーナの横に立つ。


「この世界は」


街を見る。


「ゲームじゃない」


空を見上げる。


「ここに」


「人がいる」


風が吹く。


王子は最後に言った。


「だから」


静かに。


だが。


揺るぎなく。


「この世界は」


「終わらせない」


その瞬間。


空のログが激しく揺れた。


システムエラー


回答解析不能


理解不能回答


ミリアが吹き出した。


「はは」


肩を震わせる。


「出た」


王子を見る。


「バグ回答」


空の管理者は、初めて沈黙していた。

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