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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第46話:世界停止

朝の光が、王都の屋根を照らしていた。


煙はまだ残っている。


昨夜の火事の跡。


割れた窓。


崩れた屋根。


街は疲れ切っていた。


通りでは兵士が歩き、商人が店を開け、人々が恐る恐る外へ出ている。


いつもの朝ではない。


だが、それでも。


世界はまだ動いていた。


その瞬間までは。


市場の通り。


パン屋の娘がかごを運んでいる。


焼きたてのパンの香り。


通りの向こうで子供が走る。


鳥が空を横切る。


そして。


突然。


すべてが止まった。


鳥は空中で止まり。


パン屋の娘の髪は風に揺れたまま動かない。


パンのかけらが宙に浮いたまま落ちない。


水桶からこぼれた水滴が、空中で固まっている。


音も消えた。


風もない。


王都は。


完全に停止していた。


王宮。


医療室。


王子の指がわずかに動いた。


次の瞬間。


彼の目が開く。


視界に入るのは天井。


重い体をゆっくり起こす。


頭がまだぼんやりしている。


医師が横に立っていた。


だが動かない。


瞬きもしない。


呼吸も聞こえない。


王子は手を振る。


反応はない。


「……何だ?」


部屋の中は静まり返っている。


窓の外を見る。


旗が風に揺れたまま止まっていた。


まるで絵のように。


王子は呟いた。


「時間が……」


言葉が続かない。


教会。


半壊した聖堂。


炎はまだ燃えている。


だが火の揺れが止まっている。


灰が空中に浮いたままだ。


その中心の部屋。


ベッドの上でセレフィーナが目を開いた。


体を起こす。


胸の奥が静かだった。


周囲を見る。


倒れた椅子。


壊れた窓。


そして。


止まった世界。


彼女は立ち上がる。


炎の前まで歩く。


火は動かない。


指を伸ばす。


温かさだけが残っていた。


セレフィーナは呟いた。


「……世界が」


その言葉の続きを、彼女は知らない。


だが。


夢の中で聞いた声を思い出す。


「世界は限界」


胸がざわめいた。


王都の外。


丘の上。


ミリアは風を感じていた。


いや。


正確には、風が止まったことを感じていた。


彼女の長い髪は揺れたまま固まっている。


空を見上げる。


亀裂。


黒い光。


それすら動いていない。


ミリアは小さく笑った。


「来た」


背後の魔族兵たちは完全に静止している。


一歩も動かない。


彼女だけが歩いた。


草の上を。


静かな世界の中で。


「世界停止」


古い伝承の言葉。


魔族の古い記録。


彼女はそれを知っていた。


王宮。


王子が廊下を歩く。


兵士たちは止まっている。


剣を抜いたまま。


怒鳴る直前の顔で。


全員が彫像のようだった。


王子は手を振る。


「聞こえるか」


返事はない。


その時。


空気が、わずかに揺れた。


王子は顔を上げる。


何かがいる。


見えない。


だが。


確かに。


教会。


セレフィーナは聖堂の外に出た。


街を見る。


止まった人々。


浮いた灰。


固まった煙。


世界が、まるで壊れた時計のようだった。


その時。


彼女の胸が強く鼓動する。


遠くに。


何かを感じる。


誰か。


同じように動いている存在。


「……誰?」


丘の上。


ミリアも同じものを感じていた。


遠い場所。


王都の中心。


そして教会。


三つの存在。


彼女は空を見上げる。


「英雄」


「聖女」


静かに言う。


「魔王」


世界の中心にいる三人。


その瞬間。


空間が歪んだ。


白い光が広がる。


音のない世界に、声が響く。


どこからともなく。


「世界は限界です」


王子が立ち止まる。


セレフィーナが空を見上げる。


ミリアが目を細める。


声は続く。


「更新を開始します」


意味が分からない。


だが言葉ははっきり聞こえた。


「選択してください」


白い光が広がる。


世界の空に、大きな裂け目が開いた。


止まった世界の中で。


三人だけがそれを見ていた。


王子。


セレフィーナ。


ミリア。


この世界で唯一動ける三人が。


初めて。


世界の真実に触れようとしていた。

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