第14話 イケメン店員と探し人
夜七時を過ぎると、外の気温は一段と冷えこみだした。
道路沿い植えられた街路樹はイルミネーションで咲き乱れ、空には今にも雪が降り出しそうな程、厚い雲がかかっていた。
まるで、雪でも降りそうな空だ。
「あー、やっとおわったー!」
そんな中、一人の男が小走りで走りさる。
先程、やっとのことモデル事務所の仕事を終えた狭山は、今からお気に入りの喫茶店に、ケーキを取りに行くところだった。
「全く、クリスマスに残業とか、俺どんだけ不幸なんだよ……!」
そして、今年26歳になった狭山。
クリスマスに仕事はもちろん、現在は彼女もいないため、今日は一人寂しいクリスマスを過ごす予定である。
「あの店員さん、カッコよかったね!」
ケーキを予約していた喫茶店の前につくと、狭山は、中から出てきた女性たちとすれ違った。
満足そうに、話をしながら帰る女性たち。
だが、ふと中を覗きみると、そこは、あと30分もすれば閉店だというのに、未だに客でごった返していた。
(……全く。カップルなら、喫茶店じゃなくてホテル行けよ……っ)
店の状況に、思わず悪態づくが、リア充を僻んでも虚しくなるだけだと気づくと、狭山は、ケーキを受け取ったら、すぐに帰ろうと、その後店の中に入った。
カランカラン~♪
入口のベルが軽やかな音をたてると、財布から予約票をとりだし、レジへと向かう。
だが、その瞬間、狭山は目をみはった。
カウンターの奥で、電話番をしているのか?
あの時のあの青年が、受話器片手に、なにやら困り顔で対応しているではないか!?
「ですから、俺は今日だけの臨時で……いや、だから、次入る予定は金輪際ありません!」
どうやら、よほどしつこい客の相手をしているらしい。
あの日、狭山がスカウトに失敗したあの"金髪の美青年"が、顔に青筋を立てながら声を荒げていた。
しかも、顔だけでなく、その抜群のスタイルのせいか、ウェイター服がやたらと似合うのだ!
(も……もしかして、この人だかりは!?)
はっ!と気づいて、狭山が店内を見回せば、カップルというよりは、女性客が多いような気がした。
そして、その女性達は、まるで宝石でも眺めるような、うっとりとした表情で、カウンターにいる青年をみつめているのだ。
(……スゲーな。でも、まさか、あんなイケメンが、クリスマスにバイトしてるなんて)
「お待たせ致しました」
すると、呆然と立ち尽くす狭山の前に、また別の店員が声をかけてきた。
赤毛の髪をした背の高い男性店員。
この店員も、なかなかのイケメン君だと思う。
「ご予約のお客様ですか?」
「あ、はい! ケーキを予約してた狭山です」
「狭山様ですね。少々お待ちください」
狭山が予約票を手渡すと、店員はケーキの種類を確認し、一度奥へと引っ込むと、すぐにカウンターへと戻ってきた。
「ありがとうございました~」
そして、あれよあれよとケーキを受け取り、狭山は、いつのにか店の外に立つ。
「あぁぁぁぁ、あの子、あの時の子だよね!? バイト? え?でも臨時って! しまった、声かければよかったぁぁぁぁぁぁいやいやいや、俺は今は仕事中じゃない! おちつけ、俺は今仕事中じゃない!! そうだ。俺は今から帰って、一人でケーキ…………」
──あぁ、なんか虚しい!!!
なにやら切ない気持ちになったが、とりあえず「帰るか」と、狭山は一人寂しく自宅への道のりを歩き出した。
(帰ったらケーキ食べて、ドキュメンタリー映画でも見て、感動を胸に眠りにつこう)
そう、自分を慰めた狭山は、パーキングに停めてある自分の車を目指し、路地を進む。
だが、そこから暫く歩き、ある角を曲がった瞬間──
ドン──!?
「きゃっ!」
タイミングよく、女の子とぶつかってしまった。
茶色ががった黒髪に、パッチリとした目が印象的な可愛らしい少女だった。
コートに手袋、そして赤いマフラーをして、この寒空の下、走ってきたのか、少女は狭山にぶつかった反動で小さく悲鳴をあげた。
「あ、ごめん、大丈夫!?」
ぶつかった拍子に倒れ込んでしまった少女に、狭山は慌てて手を差しのべる。
だが
──パンッ!!
と、その手を、突如少年に叩かれた。
「すみません、大丈夫です」
そう言って、狭山を威嚇するその少年もまた、少女とよく似た「黒髪の男の子」だった。
「華、立てる?」
「うん……ゴメン、蓮」
蓮と呼ばれた少年が少女に手を差し出すと、華と呼ばれた少女が、その手を取り立ちあがる。
一瞬、恋人同士にも見えたが、よくみると二人とも顔立ちが似ており、なかなかに可愛らしい容姿をしていた。
(兄妹? いや、双子か? 男女の双子でモデルデビューとか話題性ありそうだな)
二人を見つめ、狭山は、顎に手を当てジッと考え込む。
「磨けば、光りそう……?」
「え?」
だが、何気なしに呟いたその言葉を、少年が聞き逃さなかったらしい。
まるで、不審者でも見るような目立ちられて、狭山はサーと血の気が引くのを感じた。
(いやいやいや、俺、なにいってんの!? 磨けばとか、めちゃくちゃやばいヤツじゃん!? 職業病、マジで空気よんでぇ!!)
常日頃からモデルになれそうな子を探している狭山。
可愛い子、カッコイイ子をみると、ついスカウトすることを考えてしまう。
「あの、俺たち急いでるんで……っ」
すると、狭山を不振がったのか、少年は手早く一礼だけすると、その場から立ち去ろうと、少女の手を引いた。
だが、それを見て狭山は
「ちょ、ちょっと待って、君たちいくつだ?! 子供がこんな時間にうろついてたら、危ないだろ!」
「……っ」
こんな暗い時間に、子供が二人だけで街中にいるなんてと、狭山は慌てて声をかけた。
二人の姿は明らかに未成年。それも、高校生にしては、小柄な感じがしたので、まだ中学生だろう。
すると、触れられたくない内容だったのか、バツの悪そうに、顔を見合わせた二人は、再度、狭山に声をかけてきた。
「あの、ぶつかってしまって、すみませんでした。実は私たち兄を探していて……名前は"飛鳥"といって、金髪で髪が長くて、目が青い、ハーフみたいな、すっごく目立つ人なんですけど、見てませんか!?」
「え?」
金髪で? 髪が長くて? 目が青い、ハーフみたいな目立つ…………兄?
狭山には、思い当たる人物が一人しかいなかった。
「あのさ、それって……」




