復活してみた #1
「みんなは大きくなったら何になりたいですか?」
「はいっ、先生! 僕は大きなお船の船長さんになりたいです!」
……………………思い出すねぇ。真っ先に手を上げて応えたっけ。あれから結局、
夢は叶った……
小さな時の夢。神童と言われていたあの頃。
我武者羅に努力し続け、地位も名誉も手に入れた。
だが、私の人生は大きく舵取りをする必要に迫られたのだ、あの時から……
一旦幕を閉じたかのように思えた私の生涯。二度目の奇想天外な冒険もこれで閉幕となるのだろうか。
答えは“否”だ。
前回と違って私の意識、自我は依然保たれているのだ。姿は見えないが、私の腕の中に居る菫の温もりも感じ取ることが出来ている。
ならばどうする?
決まっているさ、また努力の日々を繰り返すだけだ。
ただし自分の為にではない。私が見つけなければならない人達、私を待っている人々の為に東奔西走、奮励し続けるのだ。
これしきの事で死ぬ訳にはいかない!
「ブクッ……ゴボボ…………」
え? 急に視界が変わったぞ?
「ブクブクッ…………ガベッ!?」
こ、ここは水の中!?
辺りを……おお! 菫が見える! やはり無事だったか!
それで……ここは……ブクブクブク……
やっぱり水の中だぁ――っ!!
「ブビベ、コボバビブボビャバビャ!」 (訳: スミレ、ここは水の中だ!)
「コクコク」 (訳: 私も、そう思う。災難ですな、司令官殿)
「ビョ、ビョビャイビバイビュ!」 (訳: ギョ、魚雷ミサイルを一丁打ち上げてくれないかい?)
「コクコク!」 (訳: オ―ケ―、お安い御用ですよ、任せて下さい)
やった! 菫がミサイル発射システムを展開してくれた。あんなんで通じて良かったぞ!
菫の垂直発射魚雷はいったん海面に出るからな。あとはタイミングを逃さず……
「ブビベ、ビャッビャバ!」 (訳: スミレ、発射だ!)
「コク!」
ミサイル・セル発射口の一つに泡が浮かんだ。他のセルには弾道弾迎撃ミサイルも入ってたりして、と一瞬脳裏を過ぎる。
“ガコン”という鈍い音と共に上部ハッチが開く。
よし、今だ! 対潜ミサイルが姿を現した瞬間に菫を抱えたまま、すかさずしがみ付く。
凄まじい加速で水面に向かっていく。僅か3秒ほどで水面を突破、次の瞬間にはもう上空50mの高さにまで到達した。すぐにミサイルから手を離す。
「あれって自爆できる?」
落下しながら菫に聞いてみる。その直後、返事の代わりに遠くで爆発音が聞こえた。うん、これで良し。どこかで爆発したらエライ事になるからな。さてと、見渡した感じではここは海か。陸地もぼんやり見えている。とりあえずは、
「 ニトロジェン・ミスト!! 」
海に落ちてしまう前に海面に氷結魔法を放つ。すぐに氷の床が出来上がり、土俵よりは大きいその箇所に私達は着地した。
「着地完了っと! ふぅ、助かったあ~~菫、ありがとうね」
「ぜ、全然、何てこと無い」
ふふっ、頬を赤めて照れてるよ。しかし、本当に今回は危なかったな。まさか海中に強制転移させられるとは思わなかったよ。奴ら、あんな所で転移の実験をしていたみたいだが、自分の本拠地では出来ない理由でも有るのかね? まったくはた迷惑な連中だよ。
「さ―て、陸地目指して……ん? どうした菫?」
気付くと菫が私の胸の辺りをジッと見てる。何だろ?
「胸、無くなった……」
「はあ!?」
菫の突拍子の無い言葉に、一体何の事だと焦る私。何はさておき、問題の部分を触ってみる。
「どわぁっ! ホントに無いぞ!?」
「コクコク!」
何だコリャ!? 一体全体、何が起こったんだ! 何かの病気か!?
「わわわ、一難去ってまた一難かぁ~~っ!? コイツ、元に戻れ!!」
思わずバチンと胸を叩く。
「元に、戻った……」
「へ? あ、本当だ……」
何なのだこれは、訳がわからん。転移の副作用でも出てるのかな? しかし、冷静に考えてみれば、これは男に戻っていたのかも知れんな。だとしたら勿体無い事をしたんじゃなかろうか。しっかり確認しとけばよかった、ガクッ。
「また無くなった……」
「げっ!?」
もう一度確認すると、やっぱり胸は無くなってるよ。よ、よ~~し、下も確認するぞ!
「し、下は有るんだけど?」
「コクコク!」
真っ赤になって頷く菫。
それはそうと、やっぱり男に戻ってる、ぐふふ……。い、いや、ちょと待てぃ! いくら男に戻ったからといっても、少女の見た目のままなら意味が無いぞ!? それなら戻らないほうがマシだ!
か、鏡! 鏡は無いか!?
「いきなり氷柱ミラ――!!」
魔法で氷の柱を出してやった! だけど反射が悪いな、何か磨く物は……仕方無い、服の端っこで拭くか。
「ゴシゴシゴシ、はあ――っ、ゴシゴシゴシったらゴシッ!」
フルスピードで磨き上げたぞ! よし、確認!
「あっ、やっぱり少女のままか~~」
残念だが、予想通りだった、はぁ。やっぱり、こんな綺麗な少女が男だったら気持ち悪いよな……
「鏡よ、鏡よ、鏡さん、元の少女に戻して……」
「胸、復活!」
「へ?」
うわあっ!! また元に戻った! 何なのさコレ? もう疲れたよ!
「う、うむ、もうこれ以上は余計な考えは起こさないようにしよう。差し当たっては少女モードで行くからな私!」
鏡の中の自分に指を指して言い聞かせる。
「菫は何か異変はないかい?」
言いながら菫の体を観察する。
「特に無さそうだな、良かった」
「異変、有る!」
ニンマリ笑いながら、菫は自分の胸を指差した。
「胸? 有るよ?」
「違う、大きくなった」
「そ、そ―なの?」
「そう、巨乳になった!」
そ、そう……まあ、私には良く分からんが、本人が喜んでいるなら良しとしよう。
「さて、いつまでも此処にいても仕方が無い、さっさと陸に上がるか」
私達は菫が呼び出した召喚獣の“ポル君”に乗って海を渡った後、小さな崖をピョンピョン飛び越えて一息つく。
それにしても、相変わらずポル君の速い事、泳ぐのも得意なんだな。菫が“帰還”と言ったら何処かに消えたけどね。菫の運動神経も大したものだったよ。傾斜の少ない短い崖とはいえ、ほぼ走るスピードで登り切っていたし、疲れも無い様だ。
「あれは町、だな。行ってみよう」
幸運な事に上陸後すぐに町が視界に入った。取り敢えずはあそこに行って、ここが何処か情報を仕入れないとね。あと、ご飯だ。安心したらお腹が空いたよ。
その前に……
「ふう太!」
私はふう太を召喚した。さっき菫がポル君を“帰還”させたのを知ったからだ。返す時はああやってすることを知らなかったんだよ。だって、ふう太ってばいつも飛んで帰ってたんだモンね。
「お久しぶりです、司令官殿。うん? その娘は?」
「ああ、彼女は魚雷ロケット改め菫だよ」
「やはり! フフフ、お前ならヤルと思っていたぞ!」
「お前も、ヤルな」
「フフフ」
「ニヤニヤ」
フニャ――ッ! となる前に私はふう太に呼びかけた。
「ふう太、ここがどこか分かるかい?」
「さて……私にもわかりませんが。何か有ったのでしょうか?」
ふう太にこれまでの経緯を話してやった。
「それは災難でしたな。だが、こうして無事で居てくれて何よりです」
「ありがとう。それで、悪いけど一旦帰還してキャミィが呼ぶのを待っていて欲しいんだ」
「成程、司令官殿が私を召喚したかどうかをキャミィは調べる筈、という訳ですな」
「その通りだ。私達はしばらくこの土地を調べるから、キャミィ達にはよろしく言っておいてくれ」
「了解しました、司令官殿。菫、しっかり司令官殿をお守りするのだぞ?」
「コクコク!」
「よし、帰還!」
束の間の再会を喜んだ後ふう太を帰し、さっそく私達は町に向かうことにした。
念のためにグルグル眼鏡をつけて……さあ、出発だ!
「特製激辛ウインナ―いかがですかー!」
「いらっしゃ―い! ローズンケバブ―美味しいよ―!」
どれもこれも美味しそうで、よ、涎が……ジュル、ジュル。
露店がいっぱい並んで、まるでタイの露店市場だな、ここは。最初は家が点在しているだけの寂しい町かと思ったら、急に随分と賑やかな通りに出くわしてしまったぞ。
人通りも多いし、その人種も様々だ。相変わらず歩く犬さん、猫さんもいる。
「そこの綺麗なお嬢さん達、うちのツナティン・ボッカどう? 顎が落ちるほど旨いぞ!」
何の肉かは知らないけど、肉汁たっぷりの真っ赤な分厚いステ―キだ。
「あれ、食べたい、ゴッキュン……」
おっ? リクエストが来た。菫が喉を鳴らすのもわかるね、ホントに美味しそうだよ。よし、これを食べよう!
「ハフ、ハフ!」
「美味しい、もっと」
木の皮に包んでくれているけど、熱いので食べにくい。菫は平気みたいだが。まあ丁度いい、ゆっくり食べながら露店のオッチャンと会話してみるか。
「ねえオジサン、ここは何て言う町なのですか?」
菫がおかわりしてる間にさりげなく話しかける。
「ラスベリアだよ。お嬢さん達、ここは初めてかい?」
「そうです。ここの事あんまり知らないから色々教えてくれませんか?」
「別にいいけど、なんだい?」
――――――ふむふむ、ここは観光地とね。どおりで店や人が多い訳だよ、なんとカジノまであるそうだ
もっとも、そのカジノこそがここの目玉らしいが。
「完食完了、満足!」
菫も食べ終わったみたい。幸せそうな顔をしてるよ。さて、教えて貰ったギルドに行くとするか。
食べ終えてお腹が膨れた私達は、他の露店の誘惑にも負けずひたすら通りを突っ切った。
整然と建物が並ぶショッピング通りをも足早に通過し、大きな十字路に差し掛かる。
前方にはまた店が並び、左手には住宅街が見えている。そして右手には、宿屋や店舗が道の両側を占拠しつつ、その奥に巨大なドーム型の建造物の姿を見せている。この通りには人通りも一段と多くなっている様だ。
あのUFOみたいな建物はカジノかな? 娯楽施設なのは間違いないだろうけど。それと、横に建っている小さな一軒家はおそらくギルドだろうな。とにかく行ってみるか。
ギィィ~~、と古めかしい音をさせて扉を開く。
店内には冒険者風の男2人が椅子に座って雑談をしているだけだ。まずは受付のオヤジに話しかけよう。
「こんにちは、ちょっと聞きたいんだけど」
「ああ、こんにちは。何を聞きたいんだい?」
無愛想なゴツイおっさんと思ったけど、意外と話し易そうだ。
「この町は世界のどこら辺に有るのですか? 道に迷って分からないんです」
「何だよそりゃ、ガッハッハ! 随分とスケールのデカイ迷子だな。お嬢さん達、転移でもさせられたのかい?」
いきなり図星だよ、コイツ天才か?
「まあ~~、そ――とも言う~~かな。で、どこら辺?」
「ここは南の大陸さ。それの一番北西側にこの町はある。ずっと東にはトゥーリアの都、南はアステロッテの森、その向こうは魔王ジェロイドの領地だ」
ま、魔王キタ――――ッ!!
「ま、魔王って攻めて来ないの?」
「ああ、それは心配無いな。ジェロイドは自分の領地が侵されない限り、人間に手を出したりしないよ」
へ~~、正義の魔王なんだな。
「あの丸い建物、何?」
魔王に興味が無さそうな菫が聞いた。
「あれかい? あれはこの町の目玉、カジノだよ」
やっぱりカジノだったか。しかし、この世界に元々有った物なのか、それとも転移や転生した人間が作ったのか……
「カジノ、行きたい」
「えっ?」
この菫の一言で、私達は思いも寄らぬ出来事に遭遇する…………