やっと登場、女神の残りカス氏 #7
空中からチロリと視線を走らせた畑の光景は、なかなかに奇妙な具合になっている。
どんな具合かと言うと、モンペ姿の男女が汗水垂らして農作業に勤しんでいたり、ぜんぜん勤しんでいない水色ヒトデとカピバラが畑のど真ん中でふんぞり返っていたりと、まるで人間様が小動物にコキ使われている様に見えるのだ。
「ったく、ソルト君とカルピンチョ君ってば、どんだけ偉そうにしてるんだよ。皆の畑作業を監督しているつもりだろうけど、自分達だけ働かないなんてヒトデとカピバラの風上にも置けないヤッチャで」
人知れず空中で憤慨し、次いで怠け者二匹の頭を踏んづけて地上に降りようとした。けれど。
「ん? これは……」
ソルト君が急に自分の足元の影に注目。
どうやら彼の星型な影に私の愛くるしい影が重なったのを察知したみたいで、その様子に気付いたカルピンチョ君も影を追って地面から頭上に視線を切り替えた。
「ソルトさん、上です!」
「おお、ソフィア司令官!」
カルピンチョ君が頭上を指差し、ソルト君が感嘆の声を上げて私を見上げてくる。が、それ以上に2人は私を迎え入れる言葉を何も発せず、代わりに芋や野菜とにらめっこしている連中に対して金切り声を張り上げた。
「ソフィア司令官が来られたぞ! 皆のもの、即座に作戦を実行せよ!」
「ちゃんと輪っか部分をキツク締めるんだぞ! 緩んだら墜落して死んでしまうからね!」
一瞬にして畑中に緊張感が走った。モンペ共は農具を投げ捨てると一目散に畑の縁に置いてあった長さ30メートル程のロープへと走り寄り、言われた通りにロープの所々に作られた輪っかに体を通して前後の結び目をキツク締めた。
その見た目。
全員が縦一列に並んで各人が胸の辺りでロープを結んでいるもんだから、ビジュアル的には思いっきり『ししゃもの天日干し』なのだ。フォッフォッ。
「ひぃふぅみぃ~~っと。うん、15匹、じゃなくて15人全員が揃ってるみたいだね。んじゃ今から地球に帰還するよ」
爽やかに宣言したら、ロープの一番先頭からかつての秘書である美月君が手を上げた。
「ソフィア司令官、質問が有りま――す!」
「は~~い美月君、なんでしょうかぁ?」
「地球に戻ってからなんですけど、私達はどの様に行動すれば良いのでしょーか?」
「ん――と、そうですねぇ。とりあえずは、村山幕僚長の所に行って彼の手伝いでもしていて下さ~~い」
「分かりました。テレポート実験の顛末や私達が今まで体験してきた事など、幕僚長には詳細を漏らさずにしっかりと報告して置きます」
「うん? いやまあ、それも重要な仕事では有るけどもさ。それより、君達には幕僚長と一緒に行動して、与党の重鎮達を集めた秘密会議の開催を実現させて貰いたいんだよ」
「ええっ!? 幕僚長はともかく、私達みたいな下っ端自衛官がそんな大それた事をしたらマズくないですか!?」
「フッフッフ、そこは心配ご無用です。君達はテレポート実験の生き残りってだけでなく、宇宙人の私に拉致されていた悲劇のヒーローなんだ。当分の間は好き勝手に我がままを言いたい放題だよ」
「……今、ソフィア司令官が宇宙人って言いました?」
「言ったナリよ。君達は美少女宇宙人の私にとっ捕まった、哀れな地球人って設定なのです、くふふ。だからして、村山幕僚長彼と一緒に政治家に会いに行ってだね、『宇宙人が会議を開かないと地球をぶっ壊すって言ってた』な~~んて脅したら、どんな政治家でも二つ返事で会議の開催を了承しちゃうのさ」
「ハァ、そんなモンなのでしょうか……」
美月君は分かったか分からないかの困惑した表情を浮かべた。しかりてソルト君。
「他に質問は無いな!」
急に糞エラそうに怒鳴って、モンペさん達をギロリと睨み付けた。
「ソフィア司令官がこの場にいらしたと言う事は、ウォルマー博士との対決が目前に迫っていると言う事である。即ち、我々は速やかに地球を目指さねばならんのであるから、何か疑問が有ったとしても貴様ら自身で解決するよーに!」
目を三角にして言ってます。
ほんでもって、いよいよふんぞり返ってクッソ偉そうに喋り出したのですよ。
「では、今から転移を執り行う。第一ターゲットはタンカーの前核融合炉前、第二ターゲットは地球の国会議事堂前だ。初めての経験だろうが、ギャアギャアと五月蝿く騒いではならんぞ!」
「「了解!!」」
皆は背筋をピンと伸ばし、ロープを掴んでいない方の手で精悍に敬礼した。
その姿を満足げに見届けたソルト君とカルピンチョ君は、予定通りに私の肩に這い登ってきて「いつでもどうぞ」と耳元で囁いた。
「よっしゃ、じゃあ行くよ。てぇ――――んい!」
モンペさん達の足元にマーブル模様の転移魔方陣を一気に展開し、次にはすかさず転移を実行。一瞬の後にはもうタンカーの最深部で、目の前には巨大な水晶玉にも見える“地球へと通ずる穴”が浮かんでいるのだ。
「これか……」
肩越しにソルト君の重々しくも感慨深げな声が聞こえた。
モンペさん達も酷く動揺しているみたいで、事前情報を与えられていたハズなのに茫然自失といった感じで立ち尽くし、目ん玉を飛び出させて穴の表面に映る地球の景色を凝視している。
「貴様ら何を呆けている、さっさと穴の前に並ばんか!」
と、いきなりソルト君。
私の肩から飛び降りて、怒鳴りながら皆の“向こう脛”を蹴飛ばし始めた。
床に下りたカルピンチョ君も同じくで、
「ちゃんと穴に向かって一直線に並ぶんだ! あと、しっかりとロープを握り締めておくんだぞ!」
と、皆の周りを走り回って檄を飛ばしています。
モンペの皆さんも二人の叱咤に我に返ったのか、青褪めながらも穴の前に整列してそれぞれが自分の両脇に食い込んでいるロープに手を潜り込ませた。
「残すはソルト君、君の役割だけど」
「ハッ、しかと了承しております」
「そっか。んじゃ、今から1分後にお願いね」
「かしこまりました!」
器用にまん丸オメメを偏平させ、しかめ面で敬礼しています。
いつも思っていたのだけど、瞼も無いのにどうやって目の形を変形させているのだろうか?
「……凛々しく敬礼するヒトデかぁ。地球の連中が見たら腰を抜かすだろうな、くっふふ」
「何か言いましたか?」
「うんにゃ、な――んも。まっ、とりあえず急いで行って来るよ。出発進行――――っ!」
ソルト君にすっとぼけたら間髪入れずにズッキューンと飛行。もちろん飛んだ方向は穴の中で、ロープを引っ張りながら穴に正面から突っ込んだのだ。
「「ぎゃああ――――っ!!」」
途端にモンペさんの悲鳴が背後から聞こえてきた。だけどそれも当然でして、彼らってば私と一蓮托生に穴の外に踊り出るや猛スピードで急旋回を始められちゃって、顔の肉が片方に寄ってしまうほどの強烈なGを全身で甘受している真っ最中なのです。
とは言っても、こうしないと皆がダラ――ンとぶら下がってしまうのだ。
そうなれば遠心力が掛からずにロープの輪っか部分から誰かがすっぽ抜ける危険が有るし、上下にいる仲間同士で頭とか体がぶつかって怪我をするかも知れないしで、結局はこの『穴から出た途端に急劇マッハ旋回作戦』こそがベストな方法だと思われ~~なのさ。たぶん。
「まあ何でもいいや。それより急いで地面に降りなくっちゃ」
そう投げやりに言うと、旋回しながら巨大魔方陣を作って即座に転移。次に姿を現したのは大きな4本柱が聳え立つ国会議事堂の正面玄関のド真ん前で、いきなりピカピカ光って現れたもんだから警備のSP達も肝を潰して地面にしゃがみ込んでしまった。
「あらまあ、腰を抜かしちゃってるよ。もしかしてオシッコちびっちゃったかな?」
這いつくばって逃げて行く警備員に哀れみの視線を投げかけ、次にはコンクリートの上で寝そべりながら息も絶え絶えになっているモンペさん達に厳しい瞳を向けた。
「ほら早く立って立って、時間が無いんだからさ!」
輪を書くように360度グルリと見回し、ヘンテコに歪んだ顔の皆さんに大声を張り上げた。そうしたら。
“コンプリ――――ト!”
「はい?」
いきなり頭の中に“例の声”が聞こえた。
コンクリじゃなくてコンプリートってなんじゃいな、と辺りを見回したらスゴかったでやんす。
「わわわ、なんだコレ!? 一体どうなってんの!?」
思わず大絶叫。
一体どうした事か、立ち上がろうとしているモンペさん達は前のめりの姿勢のままでピタリと停止し、応援に駆け付けている途中の警備員達も駆けっこのポーズのままで宙に浮かんでいるでは有りませんか。
このアンビリーバボーな光景ってば、まるで時間が止まったかの様。
これってまさか、私だけ“時間よ止まれ”的な世界に突入しちゃったのでしょーか!?
“パンパカパ――ン、これにて全てのミッションはクリア――ッ! おめでとう御座います!”
「ハイ――――っ!? いったい何を言い出すんだ、それどころじゃないでしょ!」
“驚かずとも良いです。アナタの脳内神経速度を他の皆さんより1万倍ほど速めただけですから。それより、アナタにはとっても嬉しいお知らせが有りますよ~~”
「な、何?」
“ぬわ――んと、アナタは新しい能力を獲得したのです。その名もズバリ、『帰還』で――す!”
「なんじゃソレ!? 1万倍速めたとか帰還とかワケワカメだじょ!」
“なんつー死語を使うのですか。チョベリバですね”
「んなモン知るかぁ――っ! 私は急いでるの、すぐにでも帰らなくっちゃイケナイんだってば!」
“新たな神と戦う為にでしょう? だから、今から戦う為の準備をするのですよ。ちょっと待って下さいね”
「ほら、これで話しやすくなったでしょ?」
「どわっ!? いきなり声が近くなったぞ!?」
「思考や判断をつかさどる大脳皮質の眼窩前頭皮質から、音声言語を理解、認識するウェルニッケ中枢に移動したのです」
「はああぁ――――――っ!?」
「とにかく、帰還ってスンゴイ能力なんですよぉ。全世界の全歴史を通してもアナタだけしか獲得し得なかった超スーパーオリジナル魔法で、シャラハザード女神でさえそんなエグイ魔法は使えませんでしたからね」
「いやいやいや、ちょい待ち! 他人事みたいに言ってるけど、そもそも貴方がシャラハザードさんでしょ!?」
「ブッブゥ――。半分正解で半分ハズレです。シャラハザード女神は既にこの世に存在しません。アナタと合体して新たな人生を歩んでいるのです」
「んじゃ、今喋ってるアンタさんは何なのさ」
「私はシャラハザード女神の思念体の残りカスです。アナタを導き、女神の記憶を伝えるためだけに存在しているのですよ」
「へ――え?」
私に記憶を伝えてどうしようってのか。
もしかして女神の伝記を書けってのだったりして。
「よく分かんないけどさ、とりあえずは先に『帰還』って能力の説明をしてくんないかな。それってウォルマー博士と戦うのに役立つ能力なんでしょ?」
「もちろんですとも。かつて存在していた場所ならアナタ自身はもちろん、対象者をも強制移動させちゃえる凄技です」
「なんだ、転移と変わらないですがね」
「いえいえ、この能力の偉大なところは、場所だけでなく時間をも飛び越えられる点に有るのです」
「時間も?」
「ええ、未来でも過去でもお好きな所に移動できます。ただし、先ほど言いましたようにかつて存在した所でないと行けませんから、実際には過去に行って現在に戻って来るという使い方になるでしょうね」
「ちゅーことはですな、未来に行って宝くじの当選番号を見て帰って来るってのは出来ないのね?」
「なんつー邪な考えを思いつくのですか。まっ、その通りでして、何人たりともズルは出来ないシステムになっているのです。私ことシャラハザード女神と言えど、その絶対なる禁忌を破ることは出来ませんでした」
ん?
それって、な――んか変なのですけど。
「剣聖が言ってたけど、女神は未来を見たからこそ“自分でも通用しない新たなる神の出現”を知る事が出来たんだ。そこから考えるに、ある一定の水準に達した能力者なら未来に行けたり透視できたりするハズだよ」
「ギクッ」
「うっふっふ、図星みたいだね。私にズルをさせないようにって、嘘ついても無駄だモンね~~」
「こ奴……」
「ん? なんか言った?」
「い、いえ何も」
「んじゃ、本当のところはどうなのさ」
「アナタの推測どおり、『先見』と言う能力を使える極めて優れた術者なら、精神だけは未来に飛ばす事が可能です。女神もその能力を使って未来を『先見』し、そして我が身の敗北を知りました」
「ほうほう。で、未来を見すぎて死んじゃったワケか。えらい災難でしたな」
「ぐ、ぐぬぬ……。言っておきますが、アナタを騙したのでは有りません。『先見』を行うには自身の命と引き換えにしなければならない程の莫大なエネルギーが必要なので、結局は出来ないのと変わりがないのです。そもそも、女神でさえ存在エネルギーのほぼ全てを消費してしまい、こうしてアナタと合体しなければイケナイ羽目になったのですから」
「なるほど。なんだか大変っスね」
「いいですか、『先見』とはこれから訪れる未来を覗き見し、本来は不可避な運命を前もって知ろうとする卑怯な手段だと思い知りなさい。そして、アナタがいくら規格外の変態でも、死にたくなかったら世の理に背くズルやインチキは考えないことです」
「へえへえ、分かりましたよ……」
な~~んか偉そう。
思念体の残りカスのくせにさ。
「偉そうじゃなくて、偉いのです!」
「ぎゃわっ!? 人の心を読まないでよ!」
「同じ脳みそに居るのに読むもヘッタクソも有りますか! だいたいアナタは自分が他人より偉いと思い込んで謙虚さを忘れてしまっているのです。日頃から『女神を超える美貌だよ~~ん』なんて鼻にかけているからそうなるのです!」
「ええ――っ? そんなことないってば!」
「いいえ! 論より証拠、アナタが生前の女神を目にしたらどんな思いを抱くか、今から試してしんぜましょう!」
そう言った途端、脳内にポワーンと一人の女性が現れた。
きっとシャラハザード氏なのだろう。が、女神は女神でもアフロディーテ系ではなくてアテナ系で、純白のワンピースに小さなプロテクターを両肩に付け、なめし革のブーツを履いて腰には短剣までぶら下げている。
「どうですか。これが私、青春まっさかりのピチピチなシャラハザードです。さあ、アナタと女神の美貌を比較検討して、偽りの無い率直な意見を述べてみなさい」
「はぁ……」
どういう展開なのコレ?
この糞忙しい時にしょーもない事をやらせるなっての。
「いいから早くヤレ――っ!」
「わわわっ!? 分かったヤルって、ヤルってば!」
……ふぅ。
ん~~と、そうだな。金髪で青目でスラッとした手足で、まあパッと見で綺麗な人ではあるかな。
思っていたより“ヤンチャ”そうだけど、気品が有って清楚な感じもするし。だけど……。
「だけど、何ですか?」
「…………」
う~~ん、言っちゃあ悪いよなあ。
まあまあの綺麗なロングブロンドヘアーだけど、私の七色に光る銀髪の方がブッチギリに綺麗だし。
まあまあの整った西洋女優並みのルックスだけど、私の方が余裕で万国共通の完璧な美人だし。
まあまあのモデル型プロポーションだけど、私の方が凹凸の差が激しくて絶対的にウンとセクシーだし。
まあまあの綺麗な長い足だけど、私の方が
「おどりゃ――――っ、どんだけワシをコケにしたら気が済むんじゃ――――っ!」
「ぴえ――――っ!? いきなり極道風に凄まないでよ、ってゆーか人の心を読むなぁ――っ!」
“ゴンッ!”
「「あたたたっ!」」
自分の手で自分の頭をごっつんこ。
んで、私だけでなくシャラハザード氏も痛がっている。
「もう、無意味な行動をさせないで下さい!」
「アンタが勝手にやったんだろ!」
「ま、まあそれは横に置いといてですね。とにもかくも、今のでアナタの傲慢さがよ~~く分かったでしょう。これからは偉ぶった言動を控え、女神に相応しい謙虚さを身に付けるのですよ?」
「……了解っス」
「うむうむ、宜しい。では話を戻しましょう。アナタの新しい能力『帰還』ですが、実のところ、悪神との戦いでどの様に役に立つのかは私にも分かっておりません。なのでご自身で創意工夫を凝らし、適宜適時に上手く使用して下さい」
「なんじゃソリャ。『先見』とやらでも見えなかったの?」
「そうなのです。『先見』も決して万能ではなく、ある一つの未来を見通すに過ぎないのです。特に世界の命運を分けるレベルの事件が有った場合は、その先の未来が不透明になって見極めるのが非常に難しくなってしまうのです」
「ふ~~ん、一事が万事という訳にはいかないんだな……」
平たく言えば、自分の運命は自分で切り開けってコトか。
なんだか根性モンの漫画みたいになってきたぞ。
「しかし、こうも考えられるな。その他の未来が有るのなら、女神がウォルマー博士に勝つ未来もその中に有ったかも知れないんだ。言いたかないけど、私と合体したのは時期尚早だったんじゃないかな」
「いいえ、残念ながら女神が見通せた範囲では“女神の死”しか有りませんでした。それに、生体エネルギーを失った女神は遅かれ早かれこの世から消え去っていたのです。アナタという規格外な器に潜り込んで女神としてのDNAと記憶を残し、『帰還』と言うトンでもな能力を獲得できるスーパー女神の誕生に尽力を尽くすのが、消滅する前に是が非にでも行わなくてはならない超重要事項だったのです」
「そうっスか……。にしてもさ、私はその『帰還』って能力をどうして獲得できたかな?」
「それは今までアナタが行ってきた、『職責と贖罪』を果たす行為に関係が有るのでしょう。詳しい事は私にも分かりませんが、『有るべき所に在る者を還す』という地道な努力が実を結んだのだと思われます。ついでに言わせて頂きますが、女神がやり残した仕事までこなしてくれちゃって本当にご苦労様でした」
「ハァ、どうも……。けど、女神の仕事なんかしたっけな?」
「おやおや、覚えているハズですけどねえ。まっ、記憶を伝えれば全てが分かりますから、さっそくやってみましょう」
「やるって何を?」
「まあまあ、やってみれば分かりますって。では、短い間でしたけど有難う御座いました。サヨ――ナラ――!」
「え?え?え?」
「フュ――ジョン!」
「んぎゃあ―――――っ!」
・
・
・
・
「アリャ?」
ぜんぜん何とも無い。
と言うより、喉の奥につっかえていた物が取れた感じで、かえって頭の中がスッキリしています。
なんでかってーとシャラハザードさんの記憶が私の記憶と融合しちゃったからで、スンゴイ事に生前の彼女が何を見て何を考え、どう行動して来たのかが手に取るように分かるのです。
もちろんさっき残りカスさんが言ってた“女神がやり残した仕事を~~”とやらも何の事か判明していて、すなわち反転の塔で反省の無い堕天使を女神の代わりに私が滅ぼしたり、女神でさえ発見が難しかった悪霊島を私が海に沈めたり、女神が面倒臭くて放って置いたグーベンバッハの廃墟を私が解呪したり、昔マナスファートの町で女神が八つ当たりしたゴルゴロンを私が七色ダンジョンで元に戻したり、などなどでした。
肝心要な『先見』の内容も今や自分が経験した出来事のように振り返る事が可能で、シャラハザード氏が受けた絶望感と焦燥感も我が身に降り注いだ悲劇の如く鮮明に思い出せるのだ。
そう、シャラハザード氏はダマスカスの廃墟で『先見』を行い、結果、ウォルマー博士なる真っ白なロボットに殺される我が身を見た。『先見』の見通す範囲を広げて違う未来を見ても、その結末に変わりは無かった。
しか――し!
最後の最後に、一瞬ではあるが朧げに浮かぶ“私の笑顔”を見たのだ。
私は真っ暗闇の中で全身を淡く光らせていてた。すぐに暗闇から消えてしまった。彼女もどういう状況かは分からない。
それでも、彼女は瞬時に私を唯一の希望だと確信したのだ。
「まあ、強烈クソ美人な私の慈愛に満ち溢れた笑顔だから、いくら女神が絶望の淵に立っていたとしてもダッシュで喜びの世界に帰還なのじゃ、グッフッフ」
んで、シャラハザード氏ってばほとんど存在エネルギーが残っていないのに無茶をしてもう一度『先見』をして、私が何者で何時どうやってこの世界に来るのか、新たな神と戦えるどんな力を獲得するのかを調べ上げたのですよ。
「あとは簡単。消えかけのヒョロヒョロな状態で私が進むべき道を残して、仕上げとして“あの小島”に現れた私にシャラハザードとしての記憶と女神の資質を受け渡したんだ」
キャミィと初めて出会った小島。
彼女がその誰も居ない浜辺で無造作に横たわる私を見たとき、どれほど心を奪われたことか。
「プップププ、シャラハザードさんってば目ん玉ひん剝いて生唾ゴックンだよ。私の姿形は『先見』で知っていたのに、生の迫力には敵いませんでしたか」
彼女が寝こけている私の傍に立った時でした。
七色に輝く私の銀髪が波間の煌きを“たった一本”で凌駕して砂浜を飾り立て、白磁が如き麗しい私の手足が白砂に照り返す陽光を蹴散らして島全体に力の息吹を与えていたのです。
その神々しい姿はまるで世界そのものが私の美貌に畏れ平伏し敗北を認めたうえで祝福しているかの様で、シャラハザード女神でさえ“私”こそが真の女神であり、“自分”は私が登場するまでの『前座女神』だったんじゃないかと頭がコンガラガッタぐらいなのだ。
「ああ、何という罪作りで凄まじい私の美貌か……」
くっふっふ。
にゅっふっふ。
んニャア――――ッハッハッハ!
って、笑ったら悪いよね。
「けどけど、なんやかんや言って結局彼女は得をしたんだモンね。なんせ私はシャラハザード氏の死後には自力で女神の座に登り詰めていたスーパー美少女なのに、彼女ってば超絶美人の私に自分の女神としての資質と記憶を強制的に植え付けちゃったんだからさ」
そうなのだ。
本来のシャラハザード氏はウォルマー博士に殺されるか存在エネルギーを失って消滅するしかなかったのだから、自分の記憶を継がせたスーパー女神がこうして誕生し、結局彼女はスーパーハッピーだったのです。
まっ、それはともかく。
女神の能力をくれたシャラハザードさん。
ホントのホント――に感謝です、ア――メン!
「って、違うか……」
そう言って自分の手を見た。
もう勝手に動きはせず、自分で自分に罰を当てるなんて事も無い。
「なんたって、私はたった今から生まれ変わったソフィアなんだ。シャラハザード女神の意思を引き継ぐ、スーパー女神ソフィアだモンね!」
一人ガッツポーズを取り、帰るべき穴が有る空を見上げた。その時だ。
「「スーパー女神ソフィアさま――――っ!」」
馬鹿でかい声で相槌を打たれてギョッとなる。
慌てて周りを見てみたら、いつの間にか周りの光景が通常の速さで動いていて、おまけに仲間のモンペさん達が私を囲んで正座しながら涙を流しているじゃあないの。
「ちょ、ちょっと君達、いきなりどうしたのさ」
「オウ、オウ!」
「あうあ~~!」
ぜんぜん話にならない。
山田君と藤沢君だっけ?なんか、目が潰れたオットセイみたいに泣きじゃくっているがね。
「ソフィア司令官!」
不意に、美月君が木綿のハンカチで目頭を押さえながら詰め寄ってきた。
「はい、何でしょうか」
「涙なくしては聞けない感動のストーリー、有難う御座います!」
「へ? なによそれ」
「おトボケにならずとも結構ですって。『アリャ?』から始まり『スーパー女神ソフィアだモンね!』まで、あつ~~く語られていたでは有りませんか」
「いいっ!? もしかして私ってば口に出して喋ってたの?」
「そりゃあもう、リアリティ満開で細部にわたって漏れなく完璧に」
「……あんの残りカスめ」
脳内を変にいぢくるからこうなっちゃうんだよ。ってゆーか、脳内スピードが元に戻るなら予め言っとけちゅーんじゃ。
「それにしてもロマンティックなお話でしたねぇ。うん、真・女神伝として書き留めておきます!」
「いや、そんな大袈裟にしなくても……」
「いえいえ、こんな滅多に無い話、映画化されてもおかしくない……そうだ! スピ○バーグに映画を作らせましょう! きっと世界中の映画館で大成功を収めます!」
「ハァ、そうでっか……」
なんだか異様に燃えている美月君。
その他のモンペさん達も泣きながらウンウンと首を縦に振っていて、恥ずかしいったらアリャしない。
つーことで、私の女神としての最初の仕事は、独り言を声に出さない魔法の開発に決定だ。
「……美月君、私はもう帰るから後はよろしくね」
「ハッ! 司令官なら余裕でウォルマー博士を倒せるでしょう。我々も安心して宇宙人作戦を遂行します!」
「た、頼んだよ……」
「「いってらっしゃ――い!」」
涙を流して敬礼をする美月君やモンペさん達に引き攣った笑顔を返し、次には大地を蹴って空中に飛び上がった。
「帰還!」
空中でクルッとトンボ返りをし、格好をつけて初の『帰還』を唱えてみました。
地上の皆さんがどよめいたのを耳に残して無事にタンカーの内部に帰ってきたら、“穴”に顔を突っ込んでソルティングフラッシュの真っ最中のソルト君と、そのソルト君を肩車しているカルピンチョ君の健気な後姿が目に入った。
「……ごめん、せっかく目印の為に光っててくれたのに、自力で帰れる能力を手に入れたから自分でサッサと帰ってきちゃったよ」
「「ええっ!?」」
目を丸くして振り向いた両人。
縦編隊を解くと、すぐさま足元に駆け寄ってきた。
「別世界からでも転移できるとは、凄まじい能力を手に入れましたな!」
ソルト君が短い手足をパタパタさせながら興奮すると、
「素晴らしい! この穴が消滅しても好きな時に地球に戻れるのですね!」
カルピンチョ君も髭を震わせて感動しています。
そんな二人には悪いけれど、急がなくっちゃイケナイのだ。
「さあ、アルハザードに戻ろう。肩に乗って!」
「「ハッ!」」
しゃがんだら意気揚々と肩に乗ってきた。が、彼等は気付いていない。私がダマスカスではなく、アルハザードと言った事に。
フッフッフ。
これからこの二人、いや、我が仲間達は生涯最大の激戦を味わうのだ。無論、それは橘魔王やアニエス魔王と剣聖にしても同じで、私と言えど例外ではない。
ただし。
私は“混沌の力”が吸い込まれていた“ロボットの腹”を見たのだ。
そこから考えるに腹に何らかの弱点が有るはずで、上手く攻め切れば勝利への道が開けるだろう。
あと、女神が見た“私の笑顔”ってのも気になる。
笑顔なぐらいだから、何か面白い物でも見たのだろうか?
まさか、たんにヘラヘラしていただけじゃあないよね。
……う~~ん、ありえる。だって私なんだもん。
まっ、笑う門には福来るって言うし、何とかなるっしょ。エヘへ!




