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運動会

 新緑が香る6月。梅雨の切れ目を狙ったかのように、開催された運動会。


 楽しそうにする者、ダルそうにする者、取り組む者それぞれの楽しみに方をしている中で、楽しめずに、虚空を眺めながら、舌打ちしている子供がいた。


 というか、小学4年生の俺だった。


 朝から、俺は色んな競技に引っ張りだこで、1位を掻っ攫っていた。だが、それは、あくまで同じ学年の男子を相手の場合のみである。男女混合となると、単純なスピード勝負でなら、ルナに負けそうになるし、駆け引きとなると美紅に追い詰められるという強敵がいるが、それでも、ちょっとしたヒーロー状態であった。


 だから、ある時までは、有頂天で楽しそうにしていた。そう、あの時までは……


 3つぐらい種目を経過すると、昼の2時までの10種目連続の様々な競技をする、1~3年部門と4~6年部門に分かれてする、ある意味、無差別競技が、今年から盛り込まれた。


 そして、出る競技に毎回のように、俺の隣に同じ奴が、口の端を上げて、仁王立ちしていた。

 奴の名を和也といい、いつか、俺が殺処分する予定の男である。


 何の間違いか、アイツが、戸籍上は兄である認めたくない事実は、忘れるとして、毎回、俺と同じ競技に出てくる。

 嫌がらせか?と言いたくなるような、ぶっちぎりで勝ちをもぎ取っていき、俺の肩を叩いてくる。

 にこやかに健闘を称えてる風に装っているが、通り過ぎる時に俺にかける言葉は、「ざまぁ(笑)」である。


 ちなみに、運動会実行委員の責任者の名前は、立石 和也らしい。しかも、この無差別級みたいなモノを立案したのも、同じ奴らしい。どこかで聞いた事がある響きだが、それはともかく、あのクソ野郎は間違いなく、俺を狙い撃ちにしていると確信していた。


 そして、女子の黄色い声援を受けて、にこやかに笑顔で手を振っている男を見つめて、呟く。


「女に刺されて、死なないかな……」

「トオル君、気持ちは分かりますが、あんまり良い言葉じゃありませんよ?」

「そうなの! それに、刺されはしてないけど、和也を見つめるお姉ちゃんの視線が、凄い事になってるの」


 午前中の競技が、さっきやったモノで終わって、お昼に呼びに来てくれたルナと美紅が隣くるとそう言ってくる。


 ルナは、俺のシャツを掴んで、指を指す方向を見つめると、どこのヒールですか?と聞きたくなるような暗黒面にどっぷり浸かっている人のような目をして、和也を見つめ、うすら笑いを浮かべる真理亜の姿があった。


 その隣にいるミラさんは、うふふ、と声が聞こえそうな仕草で一緒にいるが、あれは表面通りではないと最近、学習して理解し始めている。

 あれは、怒った美紅が、冷めた目で、正座!と言ってくる時と同じで、ガチで頭にきてる顔である。


 俺が気付けているのだから、あのクソ野郎も気付いているようで、頬を伝う汗を俺は見逃さなかった。


 苦しむ和也の顔は、俺のメシウマの原動力と公言する俺の腹が、クゥーと鳴いて、エサを催促してくる。


「うん、良い感じに腹が減ってきたな。飯にしようぜ」


 笑顔でそう言ってくる俺を見つめた2人が苦笑いをするが、同じように腹ペコのルナは賛同してくる。


「トオル君の好きなハンバーグを作ってきましたから、行きましょ?」


 笑顔で、俺の手を掴んで引いてくる美紅に、


「おっ、いいね、美紅が作るハンバーグは好物だから楽しみだっ!」


 と嬉しそうにする俺を見て、不貞腐れるようにしたルナが恐ろしい事を言ってくる。


「徹、徹。ハンバーグは私も作ったのも一緒に入ってるの。私も頑張ったの! だから食べて、美味しいと言うの!」

「ば、馬鹿! お前が作ったヤツを食ったら午後の競技に出れなくなるだろーが! でもまあ、どうせ、見たら分かるだろうがな」


 笑みを見せる俺にルナは、上手にできたの!と騒ぐ。

 それを見つめて、困ったように眉を寄せる美紅が言ってくる。


「それが、トオル君。本当に、『形だけ』は上手にできてるんです……作った私ですら見分けが付かないレベルで……」


 形だけ褒められたルナは、真っ平らな胸を張って、自慢そうにフッフン、と言ってくるが、いいのか?形だけで……と俺は思った。


「焼いたのは私なので、生の状態で食べて、お腹を壊す事はない事は保障します……」


 つまり、生以外の理由なら壊す事は、あるかもしれないと言っているようにしか俺には聞こえなかった。


「兄様、一応、胃薬は持って来てありますから、先に飲まれますか?」

「ティちゃん、そんなの飲まないでも牛乳飲んでおけば、きっと胃を保護するはずっ」


 ノンビリし過ぎたようで、ティティとテリアが俺達を迎えにやってきたようだ。

 しかし、ルナの料理は、食べると危険という意識は皆の共通認識である事を確認された。


「しかし、思い出しますね。エコ帝国の王都のバックで、振る舞われたルナさんの料理を……」


 ティティが遠くを見つめるような視線をするのを見ていた俺は、あれは、振る舞われたというより、猛威を振るったではないだろうか、という言葉を飲み込んだ。


 俺は、ルナに背中を押されながら、封印しておいたほうが良いような気がする記憶の蓋の開けるといった心労が溜まる作業を始めた。

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