転校生
全校生徒12人の小さな学校にやって来たのは、この春に小学1年生になったばかりだと言う女の子だった。
名前は、「さくら はるな」ちゃん。
右手にさくらんぼ柄のぴんくのミトンをした、大きな黒い目が特徴的な女の子だった。
12人の内半数以上を占める女の子達に、「どこから来たの?」「ミトン可愛いね」「これからよろしくね」と質問責めにされていた。
小さな学校だから、学年も混ざって授業を受けている。
低学年はさくらちゃんの他には2年生の山田君だけで、皆で2人が不器用ながらに文字を書いたり、問題集とにらめっこする様子を見守った。
学校に慣れて来ると、さくらちゃんは休み時間になると自分の事を良く話してくれる様になった。
さくらちゃんは、お母さんと一緒に暮らしている事。
さくらちゃんのお母さんは、この村の出身だと言う事。
夏の暑い時期にもミトンをしているから、どうしてミトンを外さないのかと聞けば、良く分からないと返って来た。
僕はさくらちゃんと通学路が途中まで同じだったから、右手が使えないと不便だろうと思ってなるべく一緒に登下校していた。
悪い大人が現れたら、さくらちゃんだけでは逃げられないだろうから。
山の方まで続く道との分かれ道で、さくらちゃんは山の方に続く道に進んでニコニコ笑って「またあしたね」と手を振ってくれた。
山の方に続く道に入って直ぐの、2階建ての日本家屋にさくらちゃんが入って行くのを見届けてから、自分の家がある商店街側の道の帰路につくのが日課になっていた。
「また、○○の家の子と帰ったんか」
玄関に入ると母さんに言われた。
両親と、一緒に住んでいる祖父母は僕がさくらちゃんと仲良くする事を良く思っていない様だった。
「子供に罪は無いって言うけどね。○○の家は駄目じゃ。関わったらあかん」
さくらちゃんが転校して来たばかりの頃は、「よう面倒見てあげんとねぇ」と言っていた家族が、さくらちゃんの家が○○だと知った途端にそう言う様になった。
学校の他の友達も、皆親にそう言われているらしい。
「大人なのに、虐めるなんていけんよね」
僕達はそう言って、さくらちゃんが笑って過ごせる様に目を掛けていた。
さくらちゃんが転校して来て、夏休みに入って直ぐの頃。
学校の校庭で遊んでいると、おばあさんがさくらちゃんの事を聞いて来た。おばあさんはさくらちゃんのおばあちゃんだと言った。
トイレから戻って来たさくらちゃんが「おばあちゃん」と言ったので、不審者では無い事が分かった。
さくらちゃんのおばあさんは、さくらちゃんの右手のミトンを見るとガクガクと震えて口をギュッと噛み締めていた。
どうしたのかと思っていると、さくらちゃんのお母さんが「あらお義母さん、陽菜に何の御用ですか?」とニッコリ笑って言った。
「陽菜が産まれた時から、陽介さんに似てない、浮気したんじゃないか?と言ってDNA検査を受けさせて、99.9%の親子関係が証明されても、残りの0.1%かもしれないじゃないって難癖付けて、御宮参りもお食い初めも七五三も、孫でもない子を祝う義理は無いと言って。
―――家から追い出した元嫁とその娘に、一体何の御用ですか?」
さくらちゃんのお母さんの言うコトバは難しくて良く分からないけれど、さくらちゃんのお母さんがさくらちゃんのおばあさんを嫌っているらしい事は、何となく分かった。
「暑いから、1度校舎内に入ろうか。おばさん、冷たいジュースとお菓子を持って来てるのよ」
さくらちゃんのお母さんに言われて、僕達は教室に入るのだった。




