何もできない男と、謎の掲示板
実家のある東北の小さな町に辿り着いた佐藤を待っていたのは、「自分がいかに無力か」という現実だった。
実家は古い一軒家だ。東京のスマートマンションのように、声や目線で家電が動いてはくれない。
腹が減ってカップ麺を食べようとしたが、自動調理器がない。古いガスコンロの前に立ち、つまみを回しながら「火って、どっちに回せば点くんだっけ……?」と途方に暮れた。
ARメガネのアシストをオフにすると、近所のスーパーへの道すら分からない。自分は文明の利器がなければ、まともに生活もできない欠陥品だったのだ。
逃げてきたものの、ただ畳の上で横になり、天井の木目を眺める日々。
心がじんわりと腐っていくような感覚の中、佐藤はすがる思いで古びたスマートフォンを取り出し、地元のローカル情報掲示板を開いた。
AIがおすすめを提案してくれない、昔ながらのテキストだけの掲示板。
そこで、ひとつの不細工な書き込みが目に留まった。
『メンバー募集:喫茶マニュアルテック同好会(お茶飲めます)』
「マニュアル……テック……?」
ハイテクなのかアナログなのか、絶妙にちぐはぐでダサい名前だった。時代に乗り遅れた誰かが、背伸びして横文字を使ったような痛々しさがある。
しかし、その詳細欄にあった一文が、佐藤の胸を強く打った。
『スマート端末不可。手動のことだけやります。おしゃべりとお茶。不器用大歓迎』
手動。不器用大歓迎。
カチカチした世界から弾き飛ばされた佐藤にとって、そのダサい名前のサークルは、暗闇の中にぽつんと灯った古い電球のように見えた。
佐藤は震える指で、その掲示板のアドレスにメッセージを送った。
『はじめまして。佐藤と申します。不器用で、何もできませんが……一度見学させていただけないでしょうか』




