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稀代の勇者と一途の呪い  作者: すこぶる隊長
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第三話 「一触」

俺はリゼルの言いつけを無視して家を出た。


まずは情報収集しないといけない。

だがどうやって集める?

街に行って人に聞き込みをするってのがオーソドックスってやつか?


俺は一人森の中を進み街への道を探した。

だがなかなか街への道は開けず、数十分経ってもまだ俺は森の中をさまよっていた。


そんな時、どこからか唸り声が聞こえてきた。


ガルルルルル、ガルルルルル!


と唸るその声は、俺をたちまち恐怖に陥れる。


まさか魔獣か、魔獣の声なのか?

だとしたら・・・・・・


「なんだよ、なんだってんだよ!!」


俺は走り出した。見えない声の主からなるべく遠ざかるために。

だがそれは無駄に終わる。


ガルルルルル、ガルルルルル!!!


逃げようとすればするほどにその声はますます大きくなっていくのだ。


そして、走り疲れた俺が膝に手をつき息を整えているとーーーギラリと赤黒く光る鋭い眼光と目が合った。


その瞬間、全身の血の気が引いた。


逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ!!!


頭の中で何度も自分の声が聞こえた。

が、足がすくんでピクリとも動けなかった。


じりじりと距離を詰めてくる赤い眼光に、内に秘める恐怖心が加速していく。


まるで獲物を追い詰める肉食獣と対峙しているかのような気分だった。


だめだ。終わりだ。おしまいだ。

俺、こんなところで死ぬのか。まだ、なにもできてないのに。ようやくこれから生きていけるようなそんな気がしていたのに。

こんなことなら、リゼルさんの言う通りにしておけばよかった。


激しい後悔に苛まれた俺は、地べたに尻もちをついて死を悟った。


すると、唸り声の主は木々の中からようやく姿を顕した。


獅子よりも2倍ほどの体躯を持つその四足獣は、額の辺りに大きな1本の角を生やし鋭利な牙をこれ見よがしに見せつけている。


「い、い、いやだ、いやだああああああ!!!近づくな、近づくなよおおお!!!」


依然距離を詰めることをやめようとしない四足獣を前に俺は喚き立てることしか出来なかった。


そして遂に四足獣は俺に向かって飛びかかる。


ーーーーっ、喰われる


そう思った瞬間、

くぅぅーん!!と情けない声を上げて、四足獣はその場に倒れた。


何が起きたんだ?


頭が真っ白になった。

突然目の前の巨獣が倒れたことに驚いたのは勿論だが、それ以上に自分がまだ生きていることへの驚きが大きかった。


「はぁー、だから言っただろ。外には出るんじゃないよって。」


木々の合間から聞こえてきた命の恩人の肉声は俺の恐怖心を優しく溶かした。


よく見ると、倒れた四足獣の脇腹に矢が突き刺さっているのが分かった。


なんと言えばいいのだろうか。本当に感謝してもしきれない。


「ミゼルさん!!」

「バカ!!家でじっとしとけって伝えたはずだよ!!」

「ごめんなさい。・・・でも、助けてくれてありがとうございます。まさかミゼルさんがそんなに強い人だなんて。」

「まったく、レイトは世話の焼ける依頼人だね。・・・たまたま近くで依頼にあった魔獣を討伐してたから良かったものの・・・。まあいい、今回は許してあげるわ。」


ミゼルは弓矢をしまうと、俺の方へ近づいてきてこう言った。


「あたし、あんたの瘴気の匂いは強烈だって言ったわよね。」

「はい、覚えてます。」

「おかげであんたの居場所がすぐに分かったわけだけど。・・・あのね、伝えそびれてたけど瘴気の匂いが濃い人間ほど魔獣を惹き付けやすいのよ。だからあんたみたいなのに1人で出歩かれると困るのさ。」


呆れたような、心配しているような面持ちでミゼルは話す。


「そうだったんですか。本当に申しわけないです。」

「分かってくれたならいいんだよ。あたしも今依頼が終わったところだったから、丁度良い、一緒に家に帰るわよ」

「わかりました」


毅然と歩く彼女の後ろを、俺は見失わないようについて行く。


「ミゼルさん、どうしてあなたはよく知りも知りもしない俺に対してそんなに親切でいられるんですか?報酬の他になにか俺を助けるメリットでも?」


俺が率直な疑問をぶつけると、彼女は立ち止まってこう言い返した。


「ばーか、そんな野暮なこと聞くんじゃないよ。損得勘定で生きてる人間はいつか痛い目を見る。私はそれを知ってるだけさ。救える命はなんだって救う、それがあたしの信条なだけよ。」

「そ、それでも、知らない男を家に泊めるなんて度を越してませんか?なんで俺なんかを・・・」



リゼルは振り返ってこう言った。


「そんなに知りたいんなら教えてやるよ!!単にあんたがあたしの好みの顔だったのさ!!以上!!」

「えっ」


照れくさそうにミゼルはそう言い放つ。

頬を赤く染めた彼女がどこか愛くるしい小動物のように見えた。小動物とはかけ離れた体付きであるはずなのに、どこか。


俺、ミゼルさんのことが好きかもしれない。


他人に恋愛感情を抱いたことがなかった俺が、初めて異性に好意を持った瞬間だった。

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