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稀代の勇者と一途の呪い  作者: すこぶる隊長
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第二話 「交渉成立」

「?」


異世界での俺の第一声は疑問符から始まった。


仕方がないと思う。なぜなら俺の目の前に獣のような耳を生やした女が立っているからだ。


赤い髪を垂らしたその女は口を開くとこう言った。


「あんた、珍しい髪色をしてるね。黒髪なんて久しく見ないけどどこの出身だい?」


自分よりも背丈の高い女の姿に面食らい、俺は1歩後ろに下がる。


白色のサーコートを身に纏ったその女は、大きな弓矢を背負い込んでいる。鍛え抜かれた筋肉は、服の上からでもよく分かる。


軍人?

・・・にしてはあまりにもつっこみどころが多すぎる。


というかここはどこだ。俺は父の書斎にいたはずだろう。一体全体何がどうなってる。


俺が動揺していると、女は俺の顔を覗き込んできた。


「・・・・・・」

「な、なんですか?」

「なんだ、喋れるじゃないか。無視しないでおくれよ。あたし、案外傷つきやすいんだから」

「は、はあ・・・」

「あたしはリゼル。あんたは?」


女は竜胆色の瞳を輝かせながら俺を質問責めにする。


「俺はレイトです」

「レイトか。ふむ、それであんたはどうしてここにいるんだい?」

「俺が聞きたいですよ」


リゼルは俺の言葉に首を捻る。


「城下の路地にこんな風変わりの男がいるもんだから興味本位で話しかけてみたはいいけれど、まさかここまでとはね」

「・・・えっ、なんですか?」

「いや、こっちの話さ。そんなことよりあんた、行く当てはあるの?見たところレイディの人間ではなさそうだけど、宿は決まってる?」

「分からないです」

「そう。じゃ、決まりだわ」


そう言うとリゼルは俺の腕を掴み、路地を抜けて街へ出た。


「ちょっと、俺をどこへ連れていく気ですか?」

「いいからいいから。悪いようにはしないからさ」


リゼルは俺の腕を掴んだまま、毅然な態度で街を闊歩していく。街には商店が立ち並び、異種族が入れ混じっている様子が見られる。


強引な女だな。

というか俺、まだこの状況が全然掴めてないんだけど・・・・・・


先行きに不安を覚えつつも、なすがままにリゼルに足並みを揃えて歩き続けていると、いつしか俺達は森の中へと入っていった。


森の中を歩くこと数十分、木漏れ日の差す木造の一軒家に俺達はたどり着いた。


「あのー、ここはいったい・・・・・・」

「あたしん家。どうだ、立派だろ?」


俺は木造建築の家に少し目をやる。


「たしかに立派は立派ですけど、なぜ俺をここへ?」

「あんたに聞きたいことが山ほどあるのさ。あんな薄暗い路地じゃあ、積もる話もできたもんじゃないだろ?」

「聞きたいこと、ですか?」

「そうゆうこと。まあ、入った入った。」


俺はリゼルに手を引かれ家の中に入った。


「粗茶でも出した方がいいだろうね。」


リゼルは俺を卓につかせると、湯気の立つ陶器を持ってきて俺の前に置いた。その陶器の中には緑色の液体が入っている。


・・・ただのお茶か?


「いいんですか?」

「ああ、気にしないでおくれ。口を割らせるには口を潤させろってことさ。」


リゼルは俺の対面にどかっと座り込むとそう言った。


俺が液体を口にするのを確認した後、リゼルは再び口を開く。


「まずあんたに聞いとかなきゃいけないことがある。あんた、英気はいくつなんだい?」

「えいき・・・ですか?なんですか、それ。」


俺の率直な疑問にリゼルは目を丸くする。


「こりゃ驚いたね。まさか英気を知らないなんて・・・・・・」

「すみません。俺ほんとに何も知らないんです。さっきから目に映る物全てが夢みたいで・・・。リゼルさんはコスプレイヤーかなにかですか?」

「こすぷれいやー?なんなんだいそれは、聞いたことのない言葉だね。」


リゼルは不思議そうな表情を浮かべる。


さっきから話が全然噛み合ってない・・・

コスプレイヤーじゃないなら、その格好は一体・・・・・・


「これはあれだね。幻惑系か喪失系のどちらかだろうね」


リゼルはなにか納得したようにそう呟くと、俺に向かってこう言い直した。


「単刀直入に言うからしっかり聞くんだよ、レイト。あんたは今、瘴気に当てられてる。それもかなり厄介なやつさ。あたしに任せればあんたの瘴気祓ってやれるかもしれないけど、どうする?」

「瘴気、ですか?・・・・・・よく分からないですけど、じゃあお願いします。」

「よし、交渉成立だな!」


リゼルは笑顔でそう言うと、卓上に肘をついて俺に向けて手を差し出した。


「ほらっ、あんたも。」


俺はおもむろに手を差し出してリゼルと握手を交わした。


「よーし。あっ、ちなみに報酬は後払いでいいからな。どうせあたしから未払いで逃げられる客なんていやしないし。」


リゼルは不敵に笑う。


「えっ?」

「安心しなって、そう高くつくわけじゃないんだから。」

「でも・・・」

「どうにかなるわよ、ね?」


リゼルは念を押すようにそう囁く。


俺はどうなってしまうのだろうか。

トントン拍子に謎の女と謎の交渉を成立させてしまった。


しかし、今思えばこの世界、明らかにヘンだ。

この女をはじめ、あの街を行き交っていた異種族達。

まるで漫画やゲームの中の異世界そのままだ。俺が「廻界」という本を開いた瞬間この世界に飛ばされたわけだが、どういうメカニズムになっているのか皆目見当がつかない。

はぁ・・・疑問は一向に解消される気配がないが、果たしてこれからこの世界で生きていくことになるのだろうか・・・・・・


俺が頭を悩ませていると溌剌な声が再び聞こえた。


「確かあんた宿無しだって言ってたよな。あんたから受けた依頼が達成されるまでの間、特別にこの家に泊めてやるよ。」

「・・・・・・そうですか。それはありがたい話ですが、そろそろ俺からも質問させてください。ここはなんという国で、リゼルさんは一体何の仕事をされているんですか?」

「ここは魔壁国家レイディさ。あたしの職業は見ての通り祓い屋。」


自信げに答えるリゼルの様子を見て、俺は少し苦笑する。


「何がおかしいのさ?」

「いえ、なんでもないです。気になさらないでください。」


聞き慣れない単語ばっかり出てくるのは意外と愉快なもんだな。


「魔壁国家レイディ、ですね。それで祓い屋とはいったいどんな仕事なんですか?」

「魔獣が人々にもたらす瘴気を祓う仕事のことさ。例えばちょうどあんたみたいなのが客のことだな。」

「その、瘴気というのに当てられるとどうなるんですか?」

「結果は多岐にわたるな。魔獣によって様々な種類の瘴気があるわけだから。粘質系だったり精神系だったり。まあ一概に言えることがあるとするなら、人体に必ず悪影響をもたらすということかね。」

「でも、どうやってその瘴気ってやつを祓うんですか?人体に悪影響を及ぼすなら早めに祓った方がいいですよね。」

「瘴気には特有の匂いがあってね、私みたいに鼻が利くやつなら瘴気に当てられてる人間はすぐに見分けられるんだよ。そして、瘴気を受けた人間と同じ匂いを放つ魔獣を討伐すれば瘴気は祓われるのさ。」


そういうことか。

となれば俺の瘴気は俺と同じ匂いを放つ魔獣を討伐すれば祓われるってことだよな。

しかし、俺はいつ瘴気に当てられたんだろう。そもそも魔獣なんて存在がいること自体初耳だ。

この世界、まだまだ分からないことだらけだな・・・・・・


「ありがとうございました。少しだけこの世界のことを理解できた気がします。」

「それは良かった。あんたの記憶、あたしが早く取り戻してやるからな。」


リゼルは席を立ってこう言った。


「あたしは他の依頼主から受けてる魔獣の討伐に行ってくるからさ、あんたはその間家でじっとしとくんだよ。あんたみたいな強烈な匂いを放つヤツが外へ出たら危ないからね。」

「待ってください、まだ聞きたいことが・・・」


俺の引き止めも虚しく、リゼルは颯爽と家から出ていってしまった。


せっかちな人だなあ・・・

あんなに急いでどうしたんだろう。一刻を争う状況なのだろうか。


そういえばさっきじっとしとけって言われたけど・・・


彼女に言われた通りじっとしているわけにもいかない。いま俺はどういう状況に置かれているのかもっと調べておく必要がある。


ただ一つだけ明確に分かっていることは、ここはもう前の世界ではないということだ。

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