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302. 最も原始的な鍋料理を作る


本日二話目です。


――



“料理は科学です!”

   ――お菓子職人(パティシエ)エクレア




 鍋はないものの、薪は流木があるし、その辺に石は転がっているので、潮溜まりを利用した鍋にしようと考える。これはある無人島脱出小説で読んだ磯鍋料理で千聖が知る限り最も原始的な鍋だ。


 浜大根と共に適当な大きさの石と流木を集める。そこそこ量が必要なので何回か岩場と砂浜を行き来した。その間も一応獣が出てこないか警戒しているが、鳥の鳴き声以外は聞こえてこなかった。


「今のうちに体を暖めないと」


 日差しは強く照っているものの、春の海で冷えた筋肉はいかんともしがたく、強ばった体を暖めないと満足に薪集めも出来そうになかった。気力を振り絞って集めた流木を積み重ね、その中に石を置く。


「『着火(ティンダー)』!」


 流木に火を着けたら、今度は浜大根を海水で洗う。まだ海の水は冷たいけど何とか綺麗にした。適当な大きさに切る。次は蟹を捕まえて石で叩いて殺す。あまり潰しすぎると美味しくならないので加減が大事だ。

 そこまで準備したところで、食具がないことに気がついた。しかし、千聖も元は日本人だ。流木で丈夫そうな細長いものを見つけ、ナイフを使って箸を作る。ついでに焼けた石を取り出すための道具も作った。


「そろそろかな?」


 予め見つけておいたちょうどよい磯に『浄化(ピュリファイ)』をかける。そして、そこに浜大根と蟹を入れた。


「いざ、クイジーン!」


 焚き火から焼けた石を取り出すと、鍋の代わりにした磯に次々に入れていく。入れる度にジュ!と言う音にボコボコと沸騰する音が続く。本当は味噌があれば最高なんだけどなと思いつつも海水を適当に入れて塩味にしていく。


 煮えるのを待つ間、【掲示板2(活動報告)】を確認してみると、新しいコメントがあった。


「なるほど。黒曜石と粘土かぁ。ナイフひとつだけじゃ心許ないし、あとは食器が欲しいしなあ」


 このまま生き延びられたとして、人が住んでいる地域が見つからなかった場合、救援が来る可能性はほとんどない。もし来るとしても一番短く見積もって2ヶ月以上はかかる計算だ。その間に何があるかわからないんだから、予備のナイフはあった方がいい。

 適切なアドバイスに感謝するとともに、救援が来なかったときのためのことも考えて、教えてもらわなければと思った。


「しかし、粘土も黒曜石もどの辺にあるのだろうか」


 こう言うのは考古学とか地理とかに詳しい人なら自明なのだろうが、千聖はよく知らなかった。これは聞くしかなかろうと思い、掲示板に書き込みをする。


「どの辺で取れそうか教えて下さいっと。あと砥石もどういう石を使えばいいか教えて下さい」


 これでいい人がいれば掲示板に返答してくれるだろう。


「そろそろ煮えたかな?」


 まだ熱々の状態だが、浜大根を箸でつついてみると柔らかくなっていた。透き通るほど煮えてはいないが、食べられそうだ。


「いただきます」


 まずは浜大根を食べてみる。野生の大根なので味は期待していないが、少し筋が多いぐらいで大根だった。蟹の出汁も吸っており味わい深い。塩味だけの原始的な料理にしたら結構いけるのではないだろうか。

 次に蟹をつまんでみる。殻を割って中を取り出すのは難しいので、噛んで割って中をすする。少し苦いが蟹の味わいが濃厚だった。十分に加熱しているので寄生虫の心配もしなくてよさそうだ。

 あっという間に食べ終わるが汁が残ってしまっている。焚き火と暖かい大根のおかげで体は暖まったが、意外にも美味しかったので、残りの汁も啜りたかった。しかし、惜しいことにスプーンがない。流木も丁度いい形のものは手元にないので冷めるまで待って直接口をつけるしかなさそうだ。


「冷めるまで洞窟の中で燃やす流木を集めていよう」


 体が暖まったことで、大分動けるようになった千聖は砂浜の西側を見てみることにした。冷めるまで10分ぐらいだろうから、あまり遠くにはいけないが。


 西側には色々流れ着いているようで、新しいものが見てとれる。空の木箱や焼けて千切れた縄が多数ある。残念なのは木箱の中身は何もなく、木箱も完全の形を残しているのはあまりないということだった。


「中身が入っていたらしばらくイージーモードだったのにな……」


 しかし、縄が見つかったのは運が良かった。千聖は満潮になっても流されない位置まで縄と木箱を運ぶ。縄は一本だけ持って流木を運ぶのに使った。


 戻ってみると磯鍋は冷めており、回りに注意する人も居ないことから、思う存分、犬食いをしたのであった。




 夜になると千聖の予想通り洞窟の入り口は海の中に入ってしまった。中で焚き火をすることで酸欠にならないか心配したが、思ったよりも空気の通りは悪くならなかったので焚き火をしている。

 ゆらゆらと輝く炎を見ながら、飛空船が墜落した原因を考えていた。積み荷の焼け焦げたあとと言うのは飛空船で火災が起きたか、それとも攻撃を受けたかだ。


 千聖を狙った可能性もあるが、今さら千聖を殺したところで、デザルト王国復活の流れが変わるとも思えない。気になるのは突然暗くなったことだ。飛空船が雷雲の中に入ったとか。


「それにしては雷鳴も何も聞こえなかったしな……」


 墜落の原因がよく分からないが、今は考えても仕方がない。


「せめてアルヴィが一緒に流れ着いていてくれていればなあ」


 護衛のためなのか、アイデンティティのためなのか、あの黒い鎧を着ていたので、流れ着いたとしても別のところだろう。そもそも千聖が砂浜に流れ着いたのも運が良かっただけだ。


「元の幸せに戻れると思ったら、これだよ……」


 世の中には不幸な自分に酔って脳内麻薬が出る人もいるが、千聖はそうではなかった。不幸などない方がいい。特にこの世界に転生してからは幸せしかなかった。それを一時的とは言え奪われて、凄い喪失感を味わい、二度と手放すまいと誓ったばかりなのに。


「アルヴィは生きててくれないかなあ」


 まだ16歳の少年騎士はしっかりしている。千聖が意識を失ったあと適切な行動を取ってくれたから千聖は飛空船と共に沈まなかった。それならばアルヴィも飛空船の外には出たはずだ。


 焚き火だけが千聖の孤独を癒す空間にいると、眠気が襲ってくる。人間はこんなときでも眠くなるんだなと思いつつ千聖は眠りについた。





 無人島と言う章タイトルなので人が居ないことがバレバレですが、千聖はまだ知らないので、本文のような書き方になっています。



■用語説明

>アレ・キュイジーヌ<

 フランス語で料理開始の意味。料理の鉄人と言う大昔の料理対決番組で使われた。和食の鉄人、道場六三郎が超強かった。


>サバイバル料理<

 今回出てきたのは作者の知る限り最も原始的な料理。暫く作者の知るサバイバル料理が続きます。




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