大麻は本当に有用か?(がんへの効果w)
大麻ががんに効くという主張がある。日本でも、大麻ががんに効くから使わせてくれと、大麻取締法で捕まったがん患者が裁判を起こしたりしている。なんか都市伝説っぽい匂いがするのだが、本当なんだろうか?
まず、エビデンスを確認して見よう。既に書いたように、十分なエビデンスがあるかが医療には最も大事なことだ。
調べてみたところ、ランダム化比較試験(RCT)は無い。PubMedで調べてみても、痛みとか吐き気とか食欲不振などのがんの付随する症状についての研究はあるが、がんそのものについてのヒトでの研究の文献は見当たらない。医療大麻は合法化した州などでがん患者で使用されていたりするので文献がないのは不自然だ。研究はされていても、ネガティブな結果しかでなかったので文献として公表されていない可能性も高いだろう。
現時点での、大麻のがんへの効果のヒトでのエビデンスは皆無と言っていい。都市伝説と言っていいだろう。もし今度大麻ががんに効くと主張している推進派を見かけたら、ヒトでどんな研究データがあるか根掘り葉堀り訊いてみよう。
さて、ヒトでのデータはなくエビデンス不足ではあるが、実は大麻のがんへの効果について研究自体はある。培養細胞を使った研究やラットや数は多くないがねずみちゃんなどの動物実験を使った研究だ。特に培養細胞では、いくつかがんに影響しそうな現象(細胞死や細胞増殖など)が報告されている。
例えばこういうの。
Delta9-tetrahydrocannabinol inhibits cell cycle progression in human breast cancer cells through Cdc2 regulation.
Caffarel MM, et al. Cancer Res. 2006.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/16818634/
しかし、これはカンナビノイドの研究としては大変興味深いが、治療法や医薬品開発の目線では大したことではない。この世の中には、培養細胞やマウスちゃんで効果があって有望な開発候補品とされても消えていくものがほとんどなのだ。
背景知識として、培養細胞について少し説明しておきましょう。まず始まりとして、何処かの誰かががん患者からがん細胞を摘出し、培養液を入れたシャーレ(プラスチックの小皿、英語でディッシュ)で一生懸命継代(新しいシャーレで増やしていく)する。こういう継代をひたすら繰り返して安定して増える状態になったものを細胞株という。細胞株を作ると、ヒーラさんから採ったヒーラ細胞とか好きな名前をつけて研究仲間に配ることができる。そして、いろいろな研究に使われるようになるのだ。
培養細胞で得られたデータは培養細胞で得られたデータでしかない。細胞株は培養液の中でシャーレの底で薄っぺらく伸びたとても特殊な環境下で育てられている。だから、生体内の環境を反映していない。培養細胞での研究は「仕組み」や「可能性」を探索するには向いているが、がんに効くかどうかを研究するには向いておらず、がんに効くかどうかは更に別の研究が必要になる。
さて、話を戻して、少数ながら動物実験の研究もあったので少し覗いてみよう。 膵臓癌と乳癌の研究の二つの研究を例として載せておく。
GPR55 signalling promotes proliferation of pancreatic cancer cells and tumour growth in mice, and its inhibition increases effects of gemcitabine.
Ferro R, et al. Oncogene. 2018.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/30061636/
Pathways mediating the effects of cannabidiol on the reduction of breast cancer cell proliferation, invasion, and metastasis.
McAllister SD, et al. Breast Cancer Res Treat. 2011
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/20859676/
最初の方の研究は、膵臓癌の細胞株をマウスちゃんに移植して、その後CBDをゲムシタビンという抗がん剤一緒に注射して様子を見る研究。GPR55という膵臓癌の転移や増殖に働くタンパク質をCBDが阻害することで効果を示すという仕組みらしい。CBDと抗がん剤を一緒に投与した方が抗がん剤単体よりねずみちゃんの生存期間が長かったという結果が得られている。
二つ目は、乳癌のがん細胞の培養株をマウスで増殖させた後、CBDを腹腔内に注射して、その後のがんの大きさや転移を観察する研究だ。プラセボと比べてCBDを投与した方が、24日目まではがんの重量が少ないという結果が得られている。ただ、その後は著者いわく耐性が獲得されたらしく30日目ではがんの重量はプラセボと違いは無かった。Id-1という遺伝子を抑制することで、がん細胞へ影響するという仕組みらしい。
研究の中身を見てみたがそれほど問題ある手法ではなさそうだ。仕組みについての説明もそれなりにロジックができている。まあ、基礎研究、前臨床の研究としては良いんじゃないかな。あとは、特定のチームや細胞株や実験条件でのみで起こる現象かもしれないから、他のチームでも類似した研究で同様の研究結果が得られたら、研究結果としてそれなりに確からしいと言える思うよ(上から目線) 。ただ、実験結果を見た感想としては、目を見張るような結果でもないから、大麻やCBDでヒトのがんですごい効果が出るようには思えない。
CBDもしくは大麻そのものを薬に使うこだわりは捨てて、このCBDががんに影響する現象の原因になるタンパク質や遺伝子をターゲットにして、他のより良いものがないか探索するか、CBDの化学構造を少し弄って効果を高めたりできないか考えた方が良い結果が出るかもしれないと、素人考えかもしれないが、個人的には思う。
さて、ここまでの結果をまとめてみよう。
結論: ヒトでがんそのものに効くという主張は現時点では都市伝説。ただ、培養細胞や動物実験レベルでははそれらしい結果は出ているので、創薬研究の対象にはなり得るだろう。
正直、創薬候補の卵レベルのものなんて掃いて捨てるほどある。本当にがんに効くと言えるようになるには、多くの研究を経る必要があってほぼ全ての創薬候補はその後のヒトでの研究、開発で脱落していく。本当に安全で有効なものはごくごくごく僅かだ。
そんな全然証明されていない(=たぶん効かない)ものを、治療を目的としてがん患者に投与するなんて、医学的にも倫理的にも問題がありすぎる。患者はモルモットでない。
冒頭に書いた、がんの治療のために大麻の使用を求めた裁判は、「生存のために仕方なく大麻を使うんだ!」と主張されている。残念ながら、誤った情報を信じてしまったのだろう。可哀想すぎるし、お爺さんにこんな誤った情報を吹き込んだ人にとても憤りを感じる。
培養細胞レベルの実験しか無いのに、がんに効くかのような誤解を広げるのは業が深い行為だと思う。あと、気になったのは査読(論文のチェック)もされていないジャーナルやウェブサイトの実験の記載を根拠に「大麻はがんに効く」と記載している例があったことだ。培養細胞の実験は残念ながらねつ造されやすい(◯◯細胞ありますとか)から要注意だ。広告実験の可能性がある。
追伸 : 培養細胞の研究を示して、だから大麻の研究をもっとやれ!と主張する大麻推進派も多いが、そこまで魅了的な創薬候補の卵かと言われると”?”ではある。みんなが知らないだけですごい創薬候補やターゲットも沢山ある。まあ、そこらへんは研究費の獲得、予算の分配のところで判断されるところで私やカンナビストが判断するところではないけれど。大麻に関する研究が少ないというなら、それは魅力的な申請ができず研究費を獲得できない研究者が悪い。
いつのまにかレビューを書いていただいた方もいてありがとうございます。最後まで読まないと大麻について日本はどうしたらいいのかという全体像が見えない仕様になっています。そしてまだ前半の半分くらいしか投稿できていない… 気長に読んでいただけたら嬉しいです。リンクのURLはコピペしてアドレスに打ち込む不親切仕様です。…リンク切れすいません、ちょっとずつ改善していきます。
まずは、全て投稿して完成させることが目標。がんばろう。




