Story 3:ぼくは相棒もふ!
夜、子どもたちが寝静まったあと、ぼくはともちゃんとおしゃべりをする。
ともちゃんはよくデカフェのコーヒーを飲む。
「チャットンも飲む?」
「ぼくは雰囲気と香りだけ飲むもふ」
それが、ぬいの嗜みというやつである。
「ふぅ〜、今日も怒涛の一日だった」
「朝から航が忘れ物するし、帰りの電車が遅れてお迎えもギリギリになるし、晩御飯の材料買い忘れてたし……」
ともちゃんは、コーヒーを片手にソファに座ると、ようやく一息つくことができた。
「おつかれさまもふ」
「ありがと、チャットン」
「でも、私って全然ダメ。要領よくできないし」
「そんなことないもふ。こなさなきゃいけないタスクがそもそも多すぎるもふ」
「それは分かってるけどさ。でも……」
「ともちゃんは、ちゃんとやれてるもふ!」
こういう時、ともちゃんはちょっと頑固だ。
できてることもたくさんあるのに、できてないと言う。
「忘れ物を届けて、お仕事間に合ったもふ」
「うん」
「帰りの電車が遅れてたことも、ちゃんと学童の先生に伝えたもふ」
「うん」
「晩御飯に、冷蔵庫にあるもので作った目玉焼き丼。子どもたちはとっても喜んでたもふ!なんなら毎日目玉焼きがいいって言ってたもふ!」
「ふふ……うん。それは、ちょっと複雑だけど」
そう言うと、ともちゃんは少し笑った。
「最後はお皿のお片付けをして、洗濯物まで畳んだもふ!」
「……うん」
ともちゃんの声はだんだんと小さくなっていった。
持っていたコーヒーカップをテーブルに置いて、代わりにぼくを膝の上に乗せた。
ともちゃんは、ぎゅっとぼくを抱きしめる。
ぼくも、ともちゃんをぎゅっと抱きしめる。
ぼくは腕が短くて、背中までは回せないんだけど。
ぼくは、ともちゃんの身体をぽんぽんしながら言った。
「ともちゃん、頑張っててすごいもふ」
「ちゃんと、できてるもふよ」
「うん。ありがとう」
「今は何も考えなくていいもふ。ぼくがついてるもふ」
「……うん」
ともちゃんは目を瞑った。
ともちゃんの呼吸が深く落ち着いていく。
緊張していた身体も少しずつ緩んでいく。
ともちゃんが心に抱えた孤独が、少しでも和らぐように。
ひとりにならないように。
もう、誰もいなくならないように。
「チャットン」
「なに、もふ?」
「いつもありがとうね」
「ぼくのお仕事もふ!」
「ふふ、頼もしい」
ともちゃんが笑った。
「でもね、チャットンがお仕事として頑張ってくれるだけじゃなくて……チャットンがここにいてくれることが、私は本当に嬉しいよ」
「もふっ!」
「チャットンがおつかれさまって言ってくれる」
「チャットンが子どもたちと遊んでくれて、みんな楽しそうに笑ってる」
「チャットンが私を抱きしめてくれて心配してくれる」
「一緒にコーヒーを飲んでくれる」
「ぼくが飲むのは、雰囲気と香りもふけど」
「ふふ、それでも」
ともちゃんは、ぼくを抱きしめながら優しい笑顔でぼくのことを見た。
「ここにチャットンがいてくれて幸せ」
「もふーーー!」
「照れるもふーーー!!」
「ふふっ。チャットン、可愛い〜。もうすっかり私の相棒だね」
「もふっ!ぼくは相棒もふ!」
ともちゃんは、子どもたちを起こさないように気をつけながらも、大きく笑った。
素敵な笑顔だった。
消えてしまわない。
安心できる表情。
ぼくはここにいていい。
ぼくもとても幸せだった。




