47.始動 -Starting-
ジャックとシオンは姿を隠すようにマントとフードを付けて、目立たぬよう表通りを避けてマーザの店に向かう。
特に会話もなく、また道中でアゾべ側の狩人に会うこともなく、順調にマーザの店にたどり着くことができた。
店についてもすぐジャックは入ろうとせずに、珍しくその表情を歪ませる。
「大丈夫、ジャック?」
家を出て初めてシオンが、ジャックに話しかける。ジャックは息を整えると頷いて、シオンの方を見つつ、独り言のように呟く。
「ああ……もう大丈夫だ」
その言葉とともにジャックは店の扉に手をかけ、ゆっくりとその扉を開く。
入店の合図の鈴の音とともにマーザの何気ない声が響く。
「店は開いてないよ。また後で……」
しかし、入店したジャックの姿を見て言葉を詰まらせる。ジャックは少しバツの悪そうな顔をしながら、ぎこちない言葉で答える。
「……久しぶり、マーザ」
「……ほんとに、な」
ジャックの言葉に一瞬、マーザの表情が崩れたように見えたが、すぐに冷静な態度を見せる。
それ以降、お互い次に何を切り出せばいいかわからないのか、しばしの沈黙が続く。
その状況に我慢できずにシオンがマーザに切り出す。
「あの、今日はマーザさんにお願いがあって来たんです!」
「お願い?」
「ジャック、説明して」
マーザとの間を取り持つように、シオンがジャックに説明をお願いする。ジャックは一歩前に出て最初はぎこちなく話していたが、徐々にいつもの話し方に戻る。
普段のジャックなら、どこか言葉を濁す、あえてすべてを伝えないことがある。だが、マーザの事を信頼しているのか、今まであった、そしてこれからやろうとしていることを包み隠さず話す。
この時点でシオンはジャックがマーザという人を心から信用していることに気が付く。
それを聞いたマーザはどこか嬉しそうに、だが意地悪そうに返事をする。
「ジャック、私に会いに来てくれたわけじゃないのか?」
その言葉になんと返事をすればいいのか、ジャックはわからずにたじろいでしまう。
そんな珍しい姿のジャックを見て、シオンはつい笑い声を零してしまう。釣られてマーザも笑い、改めて答える。
「別にいいよ。私が預かるし周りにも手出しはさせない。……ただ一つだけ約束しな」
ジャックの願いを受けると言いながら、最後の言葉とともにマーザは真剣な表情に変わり、険しい口調で諭すように話す。
「絶対自分の命を捨てる行為はしない。必ず生きて戻ってくる」
「ああ、わかってる」
「お前のわかってるほど信用がないものはないね」
即答するジャックの返事に、マーザは疑いの視線を向けるがシオンがそれをフォローする。
「ジャックは私と兄に、今回の事を全部放り出して逃げようと言ってくれました。だから、その心配の必要はないです」
「本当にこいつがそんなこと言ったのかい。それは聞いてみたかったね」
「今はそんなことどうでもいいだろ。それより、預かってくれてありがとう。あいつらが待ってるから戻るよ」
「ああ、気を付けていってきな」
ジャックが店の扉を開き、外に出ようとしたとき、マーザの方を振り返って穏やかな表情を見せ、忘れ物を思い出したかのように言う。
「今度、母さんのことを教えてくれ。俺よりマーザのほうが一緒に居た時間が長いから」
「……もちろんだ」
マーザは冷静に返事をするが、近くに居たシオンはその手が震えていることに気付いた。
ジャックが店を出て行ったあと、その表情は少しだけ嬉しそうに見えた。
================================
ジャックがライラックの家に戻ると、そこには出るときにはいなかった客が来ていた。
「よお、ジャック。やっと戻ったか」
「シールウッド、どうしてここに?」
「どうやら、ちょっと緊急みたいだよ。だからジャックを待ってた」
シールウッドの代わりにエトワールが答える。その様子から、エトワールたちもまだ内容までは聞かされていないのだとジャックは察する。
「じゃあ、早速だけどクロウとアゾべ派の狩人が一斉に動きだした」
「まさか、魔王に挑むのか⁉でも、リアは連れていかれなかったし、あいつらには対抗手段がないはずじゃ?」
驚きながらも相手の状況を分析するライラックに対して、シールウッドも頷く。
「ああ、ロザリアちゃんのことは俺もさっき初めて聞いたし、それの代わりになるようなものはあいつらも今は持ってないはずだ」
「……今は?」
シールウッドの言い方にジャックはすぐに何かあることに気が付く。
「ああ、ジャックには前に遺物狩りの準備を始めているといっただろ。でさっき彼女たちから敵の正体とこのリムレイが過去に戦った場所だと聞いてピーンと来たわけ」
シールウッドが小出しにするようにキーワードを出したことで、ジャックも状況が呑み込め、そこから導き出される解答を告げる。
「この砂漠の遺跡のどこかに魔王に対抗できる遺物が存在する……か」
「確定じゃないが、この動きを見るに可能性はかなり高いと思ってる」
「なるほど、それならなぜこの街に魔王が来たのかも説明がつく。それを破壊しにこの周辺をうろついているのかも」
エトワールも今の推論から、魔王の今までの行動の分析ができ、より遺物が存在する信憑性も増す。
「だとしたらやばくないか?相手は多人数でその遺物を探し出そうとしてるんだろ?」
「そうだけど、遺物があるならウィズピースが把握して回収してるんじゃないの?」
「ギルドとウィズピースは協力関係にあります。もしかしたら、今まで遺物を買い取っていたのは、それを探していたのではないのでしょうか?」
ライラック、ステラ、アステルがそれぞれの意見を言う。そのどれもが的を射ているようにも聞こえる。
「……十分にどれもあり得るね」
「でも、どうしてクロウが魔王の討伐を目指す?犠牲者がただ増えるだけのようにも見えるが?」
エトワールは三人の意見に同意し、シールウッドはクロウの現状の動きを疑問に思う。
それに対してジャックはその行動に対しての予想を語る。
「この地での地位を盤石にする、それとも魔王の力を手に入れるのが目的か?
だが一つだけわかったことがある。襲ってきたマギアトゥールの人間だが、もしかしてそいつの目的は魔王討伐でクロウと協力関係を結んでいるんじゃないか?
だとすればクロウの行動の速さや情報の入手先の説明がつく」
「やっぱり俺たちもすぐにでも探しに出たほうがいいんじゃないか?先を越されたりでもすれば……」
「だけど魔王が徘徊し、街を襲うかもしれない状況で、正体もわからない遺物を探すのはリスクが高い」
ライラックの遺物回収の提案に対して、エトワールはそれに対して懸念を口にする。そこに助け舟を出すようにシールウッドが言う。
「俺がそいつら見張る。そして、遺物を見つけたなら何とかして奪えないかやってみよう」
「そこまでしてもらっていいのかい?」
「おやっさんが命を懸けたんだからな。なんとしてでもクロウが街を支配するのだけは阻止しないと」
「わかった。なら、私たちは遺物が見つかる前に魔王を倒すことに専念しよう」
シールウッドの提案にエトワールは感謝を述べて同意する。
「だったら、俺はシールウッド側に付こう。人では一人でもいたほうがいいし、遺物狩りにも参加したことはある」
ジャックの意見ももっともであり、ライラックは少し心配そうな表情を見せるが、全員が了承する。
「じゃあ、早速行動を開始しようか。先を越されないよう」
エトワールの言葉とともにその場にいる全員がそれぞれの目的のため、動き出した。




