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英雄の送人  作者: SOGEKIKUN
第三章〜追憶の君へ〜
79/80

㉕「小さな穴蔵①」

最近文字数が増えすぎている………。



 月夜が怪しげに差し込む以外は光など存在しない真夜中の道のりを眼帯を指した男がその手に持つ酒瓶を喉に流し込み、顔を赤らめた状態でゆっくりとフラフラと歩いていた。


小心者のこの男には珍しく、普段必ず率いている部下は一人もいない。今日は機嫌がすこぶるいいからだ。


「フリィ〜、ヒック。あぁ〜いい〜月夜だなってな。あははっ。いやーいい取引が出来たぜ〜ヒック。」


一人で不用心に泥酔しかけているのもあるが、男には臨時収入が入ったことにもこの有様に客車がかかっている。


ボサボサの短髪に小汚しい革のブーツ。滝のように浴びた酒の匂いも相まって酷い悪臭が辺りに漂い、汚らしい口元は前歯が数本欠けていて、まるでドブネズミのような様相をした男は、暗い夜道を進んでいた。


「あのガタイの良いガギィを捕まえただけでまさかあんなに金が手に入るとは思わなかったぜぇ〜。」


 男は非力だ。それはもう、武器などナイフくらいしか握れないほど。だが、男には金魚の糞の才能があった。お陰で、このシマのボスにも気に入られ、幹部級まで上り詰められた。勿論、ゴマすりだ。


ボスだけではなく、その他の幹部級や同僚にも、不満を溜め込まないようにゴマすりを欠かすことは決してない。この男の心情をひと言で言うならば、『プライドよりも金や地位、金や地位よりも命』だった。


ナイフなど握るだけで、直接相手に切りかかったこともないし、血に触れることなどない。いつも集団の後方に陣取って、愚かな仲間達が戦っている間にこの男はただ微笑を浮かべて空気のように突っ立っているだけだった。


 唯一この男が活躍している所があるならば、それは獲物の情報を仲間達に流しして、襲わせて、僅かな略奪品をかすめとって生きてきた生粋のクズだ。。

 自分は手を汚さず、ただ獲物の相手を陥れて酒を飲みながら過ごす。この男にとってはそれが毎日の日課だ。


だが、そんな奴が幹部級になれたのか、それは賊にいう、ある男にゴマすりをしていたら、その男がたまたまこの集団の前の代のボスに対して下剋上を果たしたというだけの話だった。


「それにしても、流石はボスだぜ。まさか領主と繋がってたとは。」


何度ども言うがこのドブネズミは小心者だ。普段はこんな夜道を一人で歩こうともしない。


その隙を狙う者が忍び寄っていることを知らずに夜道をフラフラと歩く。


「アハハハッ…………ゴッ!?」


 夜闇に紛れて男は裏道へと消える。そして、数回の打撃音とこの男の僅かな悲鳴が響くだけで月夜の道は静音に戻る。


少しして、『男』はさっきの出来事がなんでもなかったかのように、路地裏から出てきた。


先程と、『男』の姿形は変わらない。しかし、先程から赤かった顔は正常で、フラフラだった歩き方は重心がある。


『男』はゆっくりと歩き出した。ドブネズミの帰路の道ではなく、ある建物へと。


ボロボロの納屋だった。そこかしこで木くずが散乱しており、誰も住んでいないのは明らかな廃屋の扉をギギギと空けて、『男』は納屋の中に踏み入れる。


そして、


「親分。親分。」


「………ハリスか?」


「はい。そうです。潜入は完了です。親分のほうは?」


 一見誰もいない納屋の暗闇からのそりのそりと荒男が現れた。格好は山賊。見るからに大岩などを砕けそうな大斧を背負ってこちらを見返す。その目はギラギラと執念を宿していた。


「ああ。ここのお偉い方には恩を売れただろう。なにせ、あのクソガキだ。活きが良いからな。高値で売れるだろう。俺だったらあんな荒馬なんて、手に負えないけどな。」


そう言って、クスクスと荒男は笑う。一見、荒男が裏切ったガキを見下すような仕草だが、その若者を実は気に入っていことをハリスは知っていた。


「親分も、人が悪い。その青年もかわいそうですね。同情はしませんが。」


「お前こそ、性格が悪い。この案を出したのはハリスだろうに。今の姿も相まって物語の悪役かと思ったぞ。」


「親分がそれを言うとは世も末ですね。」


「やかましい。」


 恐ろしい見た目をした荒男に向かって軽口を飛ばすハリスと言う男は、肝が据わっているということではなく、勿論この男には度胸はあるのだが、この軽口を許される程の信頼があった。そして、ハリスもこの荒男を気に入っている。そんな信頼関係が二人にはあった。


「それで、首尾は?」


「順調です。部下達も徐々にですが、この『この小さな檻』に溶け込めているようです。」


「ならいい。今はこの『小さな穴蔵』の調査を続けろ。」


「了解。」


今宵もこの『小さな穴蔵』で多くの影が蠢いていた。


――――

―――


「ねえ?、起きて。起きて。」


「う〜ん……。」


眠い〜。もう少し〜〜


「起きて。」


「ハッ!?」


 俺が急いで目を開けると、そこには見知らぬ女性が俺を見ていた。年齢は30後半いったところか、少し大人びた様子の女性だった。服装はみすぼらしく、継ぎ接ぎで出来た山羊の皮の布を纏ってあるのみだった。


 所々が土にまみれているが汚さを感じさせない、ソフィアのような清廉な美しさはないが、どこか甘えたくような優しい大人びた雰囲気のやんわりとした顔を俺を優しく見つめていた。


 今はこの世を去った母さんと、どこか似たような雰囲気を持っている女性と目が合って、思わず呆けてしまっていたが、心配そうに眉を曲げる彼女の目線に気が付いて、直ぐ様頭を振って無理矢理頭を回転させる。


(俺は…たしか、あの野盗集団のボスの男に気絶させられて…………。)


「ここはっ!?…………牢…屋?」(ガバッ)


 自分があの男に負けて捕まったことを思い出し、身体を無理やり起こそうとしたが、その女性に口を押さえつけられながら優しい手つきで身体をゆっくりと戻された。


「しっ、静かに。余り大声を出すと、()()()()()の見張りが来る。出来るだけ声は荒げないで。」


「モガモガ」(コクリ)


 俺が目を白黒させながら頷くと、その女性はその手を離してまるで、不安そうな我が子を安心させるかのようにニコリと笑顔をむける。


「大丈夫。ここには貴方を虐める野郎は1人もいないわ。安心して。」


その言葉にやっと俺は冷静になることが出来た。


それと同時に、あたりをキョロキョロとしてちゃんと周りを確認することにした。


 この薄暗い部屋は牢屋と言うには閉鎖的とは余り言えない。牢や囚人や奴隷を閉じ込めておくのに最も必要な檻もないし、鍵の掛かった扉も見当たらない。


その代わりに、この女性一人ではとても手が足りない程の大人数を賄えるほどの大規模な調理場ような空間が広がっていた。


(ここは…調理場なのか?)


 今度は、女性をマジマジと見てみる。その手や腕は痩せ細っていて顔を青白く不健康そうな様子で、まともに食事をさせてもらえていないことは一目で分かった。


彼女はそれを気にさせない優しそうな瞼にはどこか芯のある目でこちらを伺っている。


「ここは…?、どうして俺はここに?」


「貴方はここに奴隷として連れてこられたの。見て。貴方の手首を。」


 彼女の言うままに自分の手首を見てみると、手首には金属状の手錠がはまっており、両腕が開かないようにガッシリと繋がっていたのに気がついた。


どうやら俺はまだ完全に目が覚めていないようだ。


「ん?というか?俺のバスターソードは?」


彼女は俺の相棒の名前を聞くと、キョトンと顔を傾ける。どうやら彼女は余り武器には詳しくないようだ。


「ん?バスターソード?何の武器かしら?」


「でっかい大振りの剣さ。大の大男でも与えきれないほどの。」


「へぇ、力持ちなのね?、ああ、そうだ。基本的にその手錠をつけて生活することになるから早く慣れておいてね?」


(お〜〜〜!!こりゃーやべーな俺、初めての奴隷デビューだ。というか、俺のバスターソード返せっ!!

誰だ俺の愛しの相棒隠した奴っ!?


お〜い、バスターソードや〜い!!!)


心のなかで某作品の有名な呼びかけをしても、真っすぐ空からこんにちわをしてはくれないようだ。


勿論、そんな機能はないし、ここには空はない。


(はぁ〜これだから内の愛剣は。恥ずかしがり屋だな。自動追機機能でもソフィアに頼んでおけばよかった。)


不幸か幸か、後に彼の剣にはその機能が搭載させることはまだ知らないのであった。


ふざけてる場合ではないのので、顔を上げてもう少し情報を聞き出してみることにした。


「そういえば、アンタた…え〜と……?」


「デイジーよ。これからよろしくね。」


「おう、俺はアンセムだ。よろしくな。で、どうしてデイジーには手に手錠がないんだ?」


「え…?あっそうね。確かに奴隷なのに拘束具はないのかおかしいわよね。私はその長くここにいるから、良くも悪くも信頼されてるの。

 それに私の帰る場所は戦火で燃え尽きちゃって駆け込む場所もないのよ。だから、逃げるとも思われてないの。それに、あの子ももういなくなっちゃったしね…。」


「…………。」


 見た目の年齢的に、子供を授かっていたんだろう。だけど、最近死んでしまったらしい。死んだ原因は余りにも重そうな話なので聞けないが。


「あっ、ごめんなさい!!こんなおばさんの暗い話なんて聞きたくないわよね?それよりも、私たちの役割を教えないと…………」


 デイジー曰く、どうやら、俺の当番は奴隷たちの飯を作るのが主な役割らしい。ここの担当にことはかなり幸運らしく、重労働だが、他の場所で労働させられている奴隷のように直ぐに死ぬことはないとのこと。


 しかし、少し疑問に思ったことがある。比較的に力はある方だし、見た目もガッツリしているので、もっと、力が要りそうな所に配役される筈だ。


実際、俺が気絶させられるまでかなりの大立ち回りをしたのだ。普通ならがんじがらめにされて、奴隷用に協調すると思っていたがなんか、思ってたのと違う。


そこの所を聞いてみると、「私がもう少し人数がほしいと言ったら、その翌日に「丁度生きの良い餓鬼が採れた」って言われて、貴方が来た。」と言われた。


(あの野盗ども、そこら辺、結構大ざっぱだな。

 それでいいのか。そうでもなきゃ野盗にもならないか。実際そんな能のある奴らでもなさそうだし。スキがすぐに見つかりそうだから別にいいんだけど。)


他にも料理係はいるのかどうか、聞いてみるともう一人いるらしい。元々は3人居たらしいが、その子は衰弱死してしまって、二人だけになったとのこと。


 で、そのもう一人のまだ生きている子は、今は食材を貰いに行っているらしく、もう少しで帰って来るとのこと。


 俺はその子の手伝いをするように言われたので、ここのルートを確認するついでに、その子がいると言う食料の保管室に向かうことにした。


 部屋を出る際、部屋の入り口の横で槍を持ったナヨナヨした青年が立っていた。その青年はこちらと目を合わせた瞬間ビクリと跳ねて槍を落としそうになって、慌てて槍を捕まえようとして、見事に頭に槍の柄に辺り、すっ転げた。


見事な間抜けっぷりに呆れる俺の横で、その状況に慣れているのか気にしていない様子のデイジーがしゃがみながら声をかける。


「監視役さん。この人のことよろしくお願いしますね?」


「ひゃっヒャい!!」


全く、どっちが監視役か分かったもんじゃねえな?


 その監視役の青年を無視して、俺はデイジーに道の順番を教えてもらったあと、さっさと歩を進めることにした。


腰を地面に置いたまま呆けている青年は自分が置いてけぼりにされていることに気が付いてハッとした様子で慌てた様子で付いてきた。


そして、


「さ、さっさと歩けっ!!」


という情けない裏声で俺を槍の尻で突いてくる。


いや、結構ズシズシ歩いてると思うんだけど?


…………まあその監視つう青年はなんというか、頼りないけど。本当にこんなやつが盗賊の一味なのか?


明らかに1人も殺していないって雰囲気しか纏ってないぜ?


何人か殺していく内に、俺は一目でその人間が人殺しかどうか分かるようになった。血の匂いって奴だ。


戦闘とか、警戒するとき結構役に立つんだけどな、日常生活ではスゲー嫌なんだよなぁ〜これが。


まあ、考えてみろって。


スゲー綺麗で優しそうなお姉さんに声をかけられて、ドキリとして振り返ったら、血だらけの濃い匂いがして二度目のドキリだ。


多分暗殺者か密偵のどっちかなのは確定だろうけど中々リスキーだろ?


その時は顔に出さなかったから良かったけど、バレたら口封じで俺の首が狙われただろうな。


世の中には知らなくても良いことが沢山あるのがよく分かったよ。本当に。いや、本当にマジで。


これが『知らぬが女神』なんだろうな。


話を戻そうか。


そんな俺がこの青年から血の匂いが全くしなかったんだ。このご時世にだ。珍しい生き物をみた気分だった。


今のご時世(戦乱)は、そこら辺で寝転んでいる餓鬼だって最低でも1人以上は殺してるんだぜ?


多分、こいつは一度も喧嘩なんかしてないんだろうな。


取り敢えず、無視していると、こいつが何度か槍の尻で突いてくるのでムカついたので睨みつけてやったら、「ひっ!!」とか言って後退りやがった。


まるで、ウサギのようだ。それも養殖用のホーンラビットの子供のような。


こいつ見てると浮かんできたイラつきも失せちまった。いつでもこいつを気絶させることも出来るのに、脱走してやろうっていう気も失せそうになったわ。


(あぁ〜。ソフィア。今頃どうしてっかな〜。俺のこと必死で助けようと右往左往してるんのかな?)


「ソフィアと言うのは?お前の妹か?」


急に泣き虫っ子が喋りかけてきた。


こいつ…監視役なのに喋りかけて来やがった……。


監視役の風上にも置けねえ。


というか、声に出てたか。


「まあな。」


俺がそう返事を返すと、泣き虫っ子は調子に乗ったのか急に活気づいたかのやうに次々と話しかけてきた。


やれ『外はどんな世界なのか?』とか、やれ『どんな生物がいるのか?』とか、質問に夢中になり過ぎて本当に監視役なのか疑問に思う程隙だらけだ。


 さっきからチラチラと見ている感じ、ヒョロヒョロのうすガリ野郎だ。余りにも野盗には見えない。どっちかというと執事と路地裏ではぐれてしまった"お坊ちゃま"って感じだ。


 余りにもダメダメな監視に思わず「お前、監視役なんだろ?もっと意識持てよ?」と言ってやったら、ビクッとしてから「だ、黙って歩け!!」と言われる始末。


理不尽である。


その理不尽さについては監視役として満点なので「もっと意識持て」と言った手前、何も言えないのが余計ムカつく。


―ゲシゲシ―


「痛いっ!?、急に何をするんだ!!」


「ムカつくから脛を蹴ってるだけだけど……?」


「り、理不尽だっ!!!」


「お前が言うなっ!!!」


俺が突っ込みをいれると、今度はメソメソと泣き出した。


「お、おいっ!、泣くことはねえだろ?」


「ご、ごめんなさい。」


「チッ、調子狂うな畜生。」


(なんか、無性にイライラする。)


(こいつを見てるとモヤモヤが湧いて出てきて、嫌悪感が出てきて、落ち着かなねえ。)


この得体の知れない感情を振り払うように首を乱暴に振って、ため息を突きながらいつの間にか止まっていた足を運び出しす。


そして、例の同僚のいるであろう食料庫に向かって二人して押し黙りながら歩いていく。


彼がスゴスゴと親について行くひな鳥のように付いてくるのがすごく気になるが気にしたら負けのようで、アンセムは我慢んすることにした。(矛盾)


しばらく無言の状態が続いていたが、何故か急に泣き虫っ子が名前を告げてきた。


「シーク=ヘパイストだ。」


「あ?」


「わ、私の名前だ。シーク=ヘパイスト。君の名前は何というんだ?」


「急に名乗りかよっ!!会話下手かっ!!と言うかお前貴族だったのか?」


「あ、ああ……一応、そうだった。今は賊という立場に落ちてしまったが………。」


 ちなみに、名前に苗字があるのは貴族や領主、お偉いの騎士とかそして、王族を中心とした名家だけだ。

それでこんなにヒョロガリなのかと、アンセムは納得した。


それよりも真っ先に突っ込みたいことがあったので頭の片隅に置いといて、それよりも優先することがあったので話を切り返すことにした。


「オイオイ、俺とお前は少なからず敵関係だよな?何で、交友を深めようとしてるんだ?」


「そ、それは…い、今まで私には同年代の友達もいなくてな。歳も近そうな君となら友達に慣れそうだな……と?駄目なのか?」


「はぁっ!?」


お前の身の上話は俺からは聞いてないから、ておいっ!!


話を続けるなっ!!


俺の質問にちゃんと答えろ〜!!


おいっそんな可哀想な子犬の目をしても駄目だからな?いや、駄目だから!!


結局、折れた俺は泣き虫っ子の話を聞くことになった。先程の貴族の出自のことから話は再開することになった。





 シーク=ヘパイストは生まれた頃から他の兄弟とは比べて才能も運動神経、カリスマや武力もずば抜けてなく、末男なこともあり、貴族の一族としては権力もなく、ただただ無気力に過ごしていたらしい。


一応の努力は続けていたが、どれも才能は発芽しないし、もしろ他の兄達や姉妹達との能力もどんどんとかけ離され、気付いた時には家族としては一番したの妹よりも下の扱いを受けていたらしい。


当時の生活はひどく、屋敷の使用人レベルの生活を送らせられたらしい。家族には馬鹿にされ、使用人やメイドには、酷いイジメは受けていた。

 唯一優しかった専用のメイドも諸事情で居なくなり、擁護する者も居なくなってついにイジメは更にエスカレート。


 心象の苦痛で自殺しそうになった時、たまたま街に敵の国の軍隊が襲来してきて、その戦乱に流されていたら、どさくさに紛れていた人攫いを行っていたこの集団に攫われて、人質となっていた。

 しかし、肝心の貴族の一族からはまるで元からいなかったかのように捜索願いも出されず放置。


 当時、幼くヒョガリだった彼には労働力にもなれず殺されそうになったところをデイジーに命を庇われてから、今の監視役として14になるまでの4年間、デイジーの監視という、もう既に逃げる気のない彼女からしたらなんの意味のない役目をこなしながら、またもや無気質な時間を過ごしてきたらしい。


 今も、捜索願はなく。この前、こっそりとそのヘパイスト家の領地に言った時にも街の看板には一切捜索願はでていなかったらしい。


「もう自分の居場所はないんだな」という言葉を涙を滲ませながら溢していた。その時のシーク=ヘパイストには年若い年齢的にはにつかわない哀愁感しか漂っていなかった。


何度も死のうと考えたがこの4年で始めて友になったデイジーに励まされてしまい、自殺も踏み込む勇気も出なかったらしい。


それ、庶民以下の俺が聞いてもいい話じゃないよね?どう考えても貴族の権力闘争だよね?それも機密事項の。ワザトだとしたら、随分と達が悪い嫌がらせだだなぁ!!?


それ、露見したら絶対巻き込まれるじゃん!!馬鹿なの?そこまで貴族に詳しくない俺でも一瞬で分かったわ!!


「そのくせには、まだその苗字も使ってるのはどうしてだ?」


俺の問いにあたふたと慌てるシーク。もう少し落ち着けよ。


「そっ!、それは…私は、例え家に捨てられてもヘパイスト家の貴族の一門だ。例えほんの少しだったとしても血は残っている。捨てたくても捨てられなかった。」


「はあ〜、そんな最悪な一族の苗字なんか捨てちまえ。」


「出来るわけがない。あのヘパイスト家の血だ!もし上の兄弟達が死に、私しか男児が居なくなれば、あの家はどうなるのだ!!この国の有数の大貴族が潰れてしまえば、この国は傾いてしまう!!」


必死に語る彼の顔には先ほどのヘタレた様子はなく、ただ真っすぐと俺を見ていた。


フンッ、意外と中々いい面してるじゃねえの?


ヘタレだが。


「所で、え〜と?そのヘパなんちゃら家ってのは?そんなにお偉いさんの家なのか?」


俺の純粋な質問に泣き虫っ子は目を丸く見開いた。


何度そのムカつく顔は?立場が逆だったらぶん殴るところだった。


「へ?…………し、知らないのか?」


「知らなくて済まねえな。生憎下賤な身の上なんでな。お上様の都合や情勢なんかこれっぽちも興味がないね。どうせ、アイツラは俺達庶民を消耗品か何かとしか思ってない。そんな奴らのくだらない身分なんて知ってどうするんだ?」


これは心からの言葉だ。村を出てからマクロス王国の地域をみて回ったが、クズ領主ばかりだ。どいつもこいつも自分の事ばかりで、領民達の声も聞きやしない。お偉い気取りでふんぞり返っている奴等にほとほと呆れていた。この前のソフィアと一緒に商人の護衛の依頼を受けたときは、特に酷かった。


幾ら、気に食わないお隣の領主が贔屓にしている御用達の商人だからって、露骨な嫌がらせ兼、脅迫はねえわ。


野盗をけしかけてきたり、魔物をけしかけてきたり、あげくの果てには領主の私兵の直接の襲撃と脅迫紛いの強奪だぞ?


全部、俺とソフィアがボコして道端に捨てたけど。一番かわいそうなのは命令通りに働いただけなのにボコボコにされた私兵たちなのはアンセムは知らない。


「…………済まなかった。上に立つ者として、代表して謝ろう。本当に済まない。」


真っすぐと俺を見据えて、俺を見ているシーク=ヘパイスト。どうやら友達になろうという姿勢は嘘じゃないみたいだ。


「フンッ、野盗風情に落ちぶれてる奴の謝罪なんて聞きたくもない。さっさと行くぞ?泣き虫っ子。」


「ぼ、私は泣き虫っ子ではない!!」




「で?どうして、君は奴隷に?」


「………………。」


ジロリと俺が睨みつけると、案の定ビビる泣き虫っ子もといシーク。


うん。こいつ、やっぱり嫌いな理由が分かったわ。昔の自分を見てるようでイライラする。


「ヒッ!!、済まない。不躾な質問だった。」


「………ハァ、俺もそこら辺の奴隷と似たような方法でなったのさ。盗賊達に襲われて、抵抗したけど結果的に打ち負けて、ここに背負い込まれてきたってわけだ。」


「その時に、そのソフィアという者と離れ離れになった訳ということか……。」


「ああ、そう…………だが?なんで…知ってるんだ?…………ん?」


「口に出てたと…………ん?」


急に松明の光以外はない薄暗い洞窟の通路を歩んでいると、角を曲がった所で急に強い光が差してきて、無性に感動した俺は疑問なんてさっぱり消えてなくなっていた。


 そして、やっと明るい所に出ることが出来たことに気が付き、それと同時に、俺はその景色の壮大さに思わず息をのんでしまった。


 外から見た外見からは想像もできないほど広く、小さな町ならばすっぽりと入るほどだ。所々の大きめな岩の隙間から光が差し込み、中央部には巨大な円形の穴が大広場を照らしている。


それを霧が所々を隠し、まるでこの場所が天空に浮いているのかと錯覚させてくれて、どこか神秘的だった。


 所々で見える、虐げられてヨレヨレで死にかけになりながらも働かされている奴隷達の姿に目を潰れば。


「この町の名前は『小さな穴蔵』綺麗な場所だろう?………君や奴隷達には決していえないけど。」


 シークの感嘆とした声に同意するために、にゆっくりとしたため息をしながら俺は頷いた。


「あ…あ………。」


残虐な行為が目の前で繰り広げられているのにも関わらず、周りの風景だけは何故か美しかった。


これが、奴隷達や所々で、彼らを強いている獣達がいなかったらどれ程の美しかっただろうか?


そう思わずにはいられなかった。


 感激ながらも、先程まで薄暗いところに居たせいで、眩しくて手を顔の上にかざしながら眉を潜めていると、両サイドから声をかけられた。


「フヒッ、さっさと歩け奴隷。ウロチョロされると目障りだ。」


左右を見ると、出入り口に左右にそれぞれ見張りが立っていた。


(俺を攫ったあのムカつくボスの仲間か…。)


 生まれて始めて見る神秘的な光景に心を弾ませて浮かんでいたこの冒険心(ワクワク感)を汚らしい男たちの声に打ち消されて、アンセムは気分を害した気分だった。


更にコイツラはアンセムを苛立たせる。なぜならば、この見張りの二人はアンセムの後ろに立っていたシークを見ると、元々下衆な顔を更に醜悪な笑みへと変わったからだ。


「オイオイ、そこにいるのはあの有名な『泣き虫お坊ちゃん』のシークじゃねぇかぁ!?!」


「おおっ、この盗賊団の面汚しじゃねえかっ!!!」


「どの面して地面からはい上がってきたんだ?ウジ虫?」


「ハブーバブー!!ボクちゃん、まともに槍も扱えないんでちゅ〜〜〜!!おぎゃーーーー!!!!!」


「「ギャハハハハハっ!!!」」


見張り二人の下品な笑い声が響き渡る中、当の本人は何も言い返せずに本当に恥ずかしそうに顔を赤く染め上げていた。


その姿に、アンセムはイライラを募らせていく。


あんなクズどもなんて殴り飛ばして黙らせれば良い。格の違いを見せつければ、ああいった手合いはビビって手を出さなくなる。


 もし実力で負けているならば、勝てるまで鍛えればいいんだ。幸い、シークは一応仲間としての地位は最低限だが残っているのだ。シークにもそれくらいの権利はあるだろう。あるよな?


 周りでヨレヨレになって疲れ切った顔をしている奴隷達のように無抵抗ではないのだ。


(やりようには上手く立ち回れた筈なのに、こいつは今までの4年間黙って馬鹿にされ続けたのか?)


それだけじゃない。シークが貴族でいられた10歳までの間だって努力なんて最低限しかしてない野郎だ。


 正直言って、アンセムはヘパイスト=シークのことを対等な友達とも思っていなかった。少なくとも自分達平民よりも恵まれた環境にいたのに努力もせずに、虐げられているこの青年にただただ苛立ちしか湧かない。


むしろ、冷嘲しているまでもある。


なんなら今すぐここで見捨ててやろうかとさえ思ってしまってさえいた。


「弱っちすぎて、調理場のママに泣きついて離れないマザコンに何ができんだろうな?」


「さあ?あんな薄汚い虫けら女の何が良いんだろうな?まあ、少なくともこのシーク坊やにはお似合い…」


「今……なんて言った?」


俺や、下品な笑い声を上げていた二人がシークの方を見るとシークには今まで欠片も感じることのなかった覇気があった。





次回は3月14日です。お楽しみに〜!!!

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