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閑話 蒼梧、西園寺家に遊びにきたがる

 それは、初等部卒業を前にした、ある日の昼下がりのことだった。


「……俺も、いい加減お前の家に行ってみたいんだが……」

 とぽつりと蒼梧に言われ。


「…………」


 以前にも同じように、蒼梧から「家に遊びに来たい」と言われた時に妹を理由に断った俺だったのだが、『さすがに、こんなに来たいと言っているのに(しかも俺は蒼梧の家に遊びに行ってるのに)これ以上拒否し続けるのもちょっとかわいそうかな……』と良心の呵責にさいなまれ。


「そんなに来たいっていうならまあいいけど、一応家族に確認取ってからな」と答えたのだった。


 

 

 そんなわけで、とりあえず先に父に一言断りをいれに行ったら「ああ、東條のせがれか。仲良くしているならばそれに越したことはない。別に構わん」と軽く承諾を得られた。


 ……まあ、わかっちゃいたけどね。

 自分の息子が4大華族筆頭家の息子と懇意にしてるんなら別に何も言わないでしょうよ……。


 とまあ、無事に父の承諾も得られたところで、一応妹たちの意見も聞いておくかとトコトコと白百合と菊華の元へと向かった。


 今くらいの時間なら、白百合が菊華の勉強を見てやってる頃だろう。

 多分、白百合の部屋に行けばいるだろうなと思ってドアをノックすると、案の定中から「はい」と返事が返ってきた。


「白百合。僕だけど」

「お兄様……、どうぞお入りください」


 中からそう返事が聞こえると同時に、白百合の部屋のドアがかちゃりと開き、「お兄様!」と中にいた菊華がたたたっとこちらに向かって駆け寄ってきた。


「ごめん、勉強してたよね? 少しだけ大丈夫?」

「はい。ちょうどいま小休憩を入れていたところですので」


 よかったらお掛けください、と白百合に促されるままに、室内にあるソファに座らせてもらう。


「明日、学校が終わったら僕の友達が遊びに来ると思うんだけど」


 びっくりさせると良くないと思ったからふたりには先に伝えておこうと思って、と告げると、白百合が「あの、いつも一緒にいらっしゃる東條様ですか?」と、あまり間を置かずに答えてきた。


「うん、そう」


 白百合の口から『いつも一緒にいる』という言葉を聞かされると、まあ自覚はあったけど多分本当に四六時中一緒にいるように見られてるんだな……、と改めて感じた……。

 いや、まあ別にいいんだけど……。


「……わたくしたちも、なにかご挨拶したほうがよいのでしょうか……」

「ああいやいや、違う違う。本当に、突然家に来たら驚くだろうなと思って伝えただけだから。ふたりはいつも通りにしていてくれればいいよ」


 白百合が俺の言葉を深読みして蒼梧への挨拶を求めているように感じたのか、それとも兄の友人がくるなら挨拶せねばと純粋に思ったのかどちらかはわからなかったが、小さな手を口元に当てて真剣にそんなことを呟いたので、あわてて打ち消した。


「そうなのですか?」

「うん、そう。逆に気にしないでほしいってことを伝えたくて今言ってるんだ」


 もしふたりが緊張したりとかして嫌なんだったら今回のことは断るし、と言うと、「お兄様のおじゃまになるようなことをするのはもってのほかですから」と白百合が首を振った。


「菊華ちゃんも大丈夫ですよね? 明日お兄様のお友達が遊びに来ても」


 白百合が菊華に向かってにこりと問いかけると、なぜか菊華が突然ふふん! と鼻息を荒げ(華族令嬢なのにどうかと思ったが可愛すぎてちょっと一瞬ツッコミを忘れた)、「お兄様のお友達ということは、わたくしにとってもお友達!」と胸を張られた。


「なので! わたくしもいっしょに遊んでおもてなしをしようとおもいます!」


 どやあ! と。


 ………………。

 ……うん、ちがうよ?

 俺がいいたかったのはそういうことじゃないよ?


 でも、目の前の菊華があまりにも自信に満ち満ちた表情で、きらきらとこちらを見つめてくるので。


「……うん、じゃあもしおもてなしがいるなあと思った時には、菊華に声をかけるね」

「はい!」


 そう言って元気よく返事をした菊華は、白百合に「おねえさま! うでがなりますね!」と、どこで覚えてきたかよくわからない言葉を投げかけ。


「……菊華ちゃん、おもてなしするのは、お兄様がおもてなしがいるなあと思った時だけですからね?」


 と姉らしく釘を刺していた。

 言われた菊華は、キョトンとしたあと神妙な顔になって「はいっ!」と返事を返していた。


 その後、明日の遊び道具の確認がしたくて自分の部屋に戻ろうとする菊華を、「菊華ちゃん、お勉強がまだ終わってません……」とたしなめていた。


 白百合……、苦労をかけてごめんな……。


 そのうち何か、白百合をねぎらってあげないとなと思った俺なのであった。

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