第34話 白虎との対話
――蒼梧の蒼龍召喚は、目的を果たせずに終わったのだ。
瞬間的にそうは察したものの、あえてそれを口にするのは(しかも四神のひと柱を召喚している俺がだ)明らかに無神経すぎるだろうと思い、口を噤む。
あんなに、四神に畏敬の念を抱き白に接しながら、自分の――自分だけの四神を召喚することに強い憧れを抱いていた蒼梧が、落ち込んでいないわけなどなく。
隣に座る蒼梧の気配を感じながらも、俺はそれ以上蒼梧に向かって話しかけることもできず、ひとり静かに黙考した。
――なぜ、だめだったのだろう?
原作では蒼梧は、蒼龍を召喚できていたのに。
実際に初めて契約を結んだシーンなどは詳しくは描かれていなかったが、成長した蒼梧が蒼龍を召喚しているシーンは確かに描かれていたし、『当代でただ一人、四神のひと柱を召喚した類稀なる異能の使い手』とも言われていたのに。
考えられる可能性は――、まあ、俺の存在だよね……。
いやどう考えたってそうでしょーよ!
この世界においての一番のイレギュラーは俺だからね!
自分で言うのもなんだけど!
どうしたって責任感じちゃうよね……!
さりとて、「じゃあ、白を譲りましょうか……?」と言ったところで、それで解決する問題でもなし。
つか、それは蒼梧にも白にも失礼だしな。
結局その日は蒼梧と、一応いつもどおり昼食後に中庭で一緒に過ごしはしたし、夏休み明けの挨拶に一緒に紫雲亭にも顔を出したが、蒼梧は相変わらずどこか塞いだ様子のままで。
北大路先輩に挨拶に行った時に、先輩が四神召喚関係のことを蒼梧に聞いてきたりしないか少しハラハラしたが、知っているのかそうでないのかは知らないが、取り止めもない世間話だけで終わって密かにホッとした。
◇
さて。
わからない時は聞いてみる。
餅は餅屋に聞け、という言葉もあるのだ。
神獣のことは神獣に。
質問相手としてこれ以上の適任者はいないだろ、と思いながら、帰宅後俺は自室で子猫姿に具現化させた白に向かって尋ねた。
「なあ白。四神って、同時代に二柱以上召喚できないとか、縛りってあったりするのか?」
『うにゃ? そんなことは別にないにゃ。まあ確かに、同時代に召喚されることの方が稀ではあるにゃが……』
実際に過去、同時期に二柱いた時代もあったしにゃあ、と白が言う。
「じゃあなんで、蒼梧は蒼龍を召喚できないんだ……?」
そもそも、召喚ができる人間とできない人間は何が違うんだろう?
そう、思ったことがぽろりと口から漏れると。
『それは……、蓮がいるからにゃろうにゃあ……』
と、むむむとでも言い出しそうな、少し言い淀むような口調で、白がそう答えてきた。
――はい!
やっぱり俺のせいでした!
まあね! 薄々そうだろうと思っていたけどね!
そうはっきり言われちゃっちゃあ罪悪感も募るよね!
すまん蒼梧!
――とはいえ、そうは言われても理由を教えてもらえないことには俺としても納得できないわけで。
「俺がいるから、なんなの」
『……蓮は、神の気配が強いから』
「……は?」
意味がよくわからなくて、白に聞き返す。
『蓮は多分、生まれてくる時か何かのタイミングで、神の強い恩寵を受けてるにゃ。それで、神の気配が強いにゃ』
だから、四神のような神性が強い神獣は、俺に惹かれやすいのだと言う。
神の気配が濃いというのは、神獣にとっては居心地が良いのだと。
実際に、白が俺のところに来る時も、うかうかして他の四神に先を越されたらと思ったから儀式とかおかまいなしで飛び出してきたのだとか。
俺が西園寺の――、白虎にゆかりのある家だからこそ白にアドバンテージがあったわけだが、そうでなかったら他の四神にとられていたかも知れないにゃ、と白が言う。
「え? じゃあなに? 別に儀式とかしなくてもいいわけ?」
『本来は儀式なんて必要ないにゃ』
あれは、四神と接点を取れると知った一部の人間たちが、勝手にこっちに繋がろうとしてくるだけにゃ、と。
本当に気になる人間がいたら、呼ばれなくても勝手にこっちから現れるし勝手に追従する。
実際にそれほどの人間が現れることは稀だが――と白が言った。
『にゃから、蓮は稀なほうの人間にゃね』
「…………」
――それを、喜んで良いものか否か。
事情はわかったけど、すべてがわかったわけではない。
『神の恩寵が強い』とは言われたが、なぜそうなのか皆目見当もつかないし。
おそらく前世の記憶があることと、この世界に転生していることが関係しているのかもな、とは思うくらいで。
……実際に神様にあったわけでもないしなあ。
それに。
「俺に神の気配が強いと、なんで蒼梧が蒼龍を召喚できないのかの具体的な理由になってないよ」
そうなのだ。白の答えは、俺に神の気配が強いから神獣が惹かれやすいということではあったが、それが蒼梧が蒼龍を召喚できない直接の理由にはならない。
『……蒼龍もたぶん、蓮のところに来たがってるにゃ』
より主人として寄り添いたい者が近くにいるのに、2番手の人物に声をかけられたところで妥協する気にはなれなくなっているのだろう、と白が言う。
……え〜、思った以上にめっちゃ俺のせいじゃん……。
なんだか、責任を感じて胃がキリキリと痛む。
「でももう、俺にはお前がいるし……」
『……実のところ。別にひとりで二柱従えてても問題ないからにゃあ……』
「えっ!? そうなの!?」
白の言葉に、思わず大きな声を出してしまった。
いやだってほら、西は白虎、北は玄武――みたいな話を聞いてたからさあ!
一家に一台じゃないけど、四大華族の一家に対してひと柱みたいな感覚でいたじゃんか!
『それも人間側で勝手に決めた取り決めにゃよ』
白が言うには、神獣側としては別にそんな縛りはないらしい。
単に人間側で、『お前北の守護担当だから玄武な!』くらいの感覚だったのではなかろうかと。
「まあね……、人ってなんだかわからないけど、しきたりとかそういうの好きだもんね……」
後は単に、パワーバランスの問題だったのだろう。
どこか一つの家に力や権力が集中しすぎると、どうしたって破綻をきたす。
それを防ぐための取り決めだったのではないかということはうっすらと察せられた。




