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□ * □ * □ *
「もう帰るのか?」
「 ロイナ 」
歩くルーイを呼び止めたのはアビスの国の王子。
「・・・全く。 あれだけ姫君達の心を向けられながら、お前と言う奴は・・」
「 すまないな。 お前からの申し出だから来たんだ。始めから泊まる気は無かった」
やり取りからかなり気安い関係だと分かる。
アビスの王子は仕方ないとしつつも寂し気に言った。
「ーー、また何時でも来い。何でも聞いてやるから」
「あぁ、ありがとう。 良い夜を 」
「・・・。あぁ 」
薄く笑むルーイは友人の視線を背に受けながらその場を立ち去った。
そしてパラディン達の下へ。
「お帰りですか?」
パラディンの1人が目礼をして出迎えた。
「あぁ」
返事を受けてパラディン達は竜化する。全員一度にではない。先に飛び立つ者と後で飛ぶ者に分かれるのだ。
来た時同様にその背に乗ろうとしたルーイ。
だが・・。
「・・・・・・」
その足は止まった。
パラディン達がどうしたのだろうと窺う。
そしてそのまま動かなくなったルーイに声をかけた。
「ルーイ様、如何されましたか?」
「ーーー」
「・・・。 ルーイ様・・?」
「・・・・・・。 すまない 」
「?」
「・・・。 私にもよく分からないのだが・・・」
と鼻で深呼吸する。
「ーー。 もう少し、ここで待っていてくれないか?」
「・・はい、構いませんが・・。 城中に何かお忘れ物ですか?」
「いや。ーー、そうだな、夜の庭でも少し歩くか。 折角来たのだし、あまり早く帰るとウイリスに何か言われそうだからな。気分転換だ」
「はい。ならお供します」
「ん。すまないな」
「いえ」
ルーイは供を2人連れて、気が向く方へと足を庭へ向けた。
静かな夜の庭を散歩する。
ふと、ルーイは足を止めた。
「 ? 」
何か聴こえる。微かにだが小さく声が。
何故だか心が落ち着かない。気になる。
自然と足はそこへと向かった。
近づいて行くと、それが歌だと分かった。
こんな所で一体誰がと思っていると、見つけた。
星空を見上げて歌う、その者を。
暗がりであっても分かる。着ている服と腰に帯びた短剣で、多分ここで見張りをしている者なのだと。
その声は透き通って心に来る。
体格や身丈、面持ちで、少年だと思われるが、その声は聴きようでは少女にも感じる。
もっと近づきたい。そう思って足を進めた。
すると流石に気付かれたようで、歌は止んでしまった。
「・・・・・誰 ですか? 」
こちらを警戒する声は歌声よりも低い。
「・・・、すまない。 良い音色に誘われた」
後ろのパラディンが動く前にルーイは制してから言った。
相手の気が少し緩むのが分かり、もう少し近づいてみた。お互いの顔が分かるくらいに。
「帰る前に少し、庭を回ろうかと思い歩いていたら、声が聴こえて来たのでな。辿ってみたらここに。 綺麗な歌声だな」
「あ・・、いえ・・。 すみません。 勤務中に不謹慎な事を・・・」
相手は申し訳ない様子で謝罪した。こちらの装いからも身分を察したのか、警戒を解いて頭を下げた。
「大丈夫だ。ずっと立っているのは大変だろうからな。中では音楽も流れているのだし、歌いたくなるのも仕方ない」
「・・・、恐縮です 」
「もっと聴きたいのだが、勤務中では無理か?」
「え、 は、 あ、 いえ・・ えと・・・ 」
相手の困った様子にルーイはクスリと笑う。
「すまない。無理強いはしない。 ただ、本当に良い声だと思っただけだ。 悪かったな」
「いえ・・」
相手は首を振る。
「名はなんと言う? 旅の者か?」
「あ、はあ・・えっと・・・。これから、そうなるかもの、予定です。 名前は、みやと言います」
「!・・・ミヤ・・・。 そうか。ーー。 で、予定と言うのは?何か決めかねて迷っているのか?」
ルーイは動揺を隠して尋ねる。
「いえ。ただ不慣れでして、 旅などした事がなくて・・。 ここにも流れ歩いて、話の流れで雇って頂いたようなもので、まだ形振りまでは・・。でも、1つだけ行こうと思っている所はあるので、そこまでは歩いて行こうかと思っています」
初対面だし少しテンパっているのか口調を早口に答えている。
「そうなのか。 因みに何処へ行こうとしているのだ?」
「あの、レフェリーナです」
「!・・・、私の国か?」
「え?」
お互いにびっくり。
すると相手の方が悟ったらしい。
「え? えっと・・・、 もしかして、・・・竜都国の?・・・」
王子様ですか?とその目が言っていた。
「如何にも。 すまない、私がまだ名乗っていなかったな。 私の名はルーイ。アシュッツノルド・ルーイだ」
「!?・・・・・・」
相手はとても驚いている様子だ。
「何か用があってか?良ければこれも縁だ、請け合うぞ」
「・・・・・・ え ? 」
かなり驚いたのか、口が開いて呆けている。
「・・・・・・本当に ? 」
「ん? あぁ、遠慮なく申せ」
ルーイはにっこり笑ってソフトに対応する。
「え、いえ・・・本当に・・・ あの時の・・・?」
呟く様に言っている相手は、胸の辺りを掴んで、ルーイをじっと見つめてくる。
「・・・??」
ルーイは胸がざわつきながらも見返した。こんな真っ直ぐに見られるのはくすぐったい。平民では珍しい事だ。
相手はその後も呟く。
「・・・ やっぱり いたんだ・・・ いたんだね ・・・ 」
「?? 何がだ?」
懐かしむ様に見る瞳。
どこかで似ていると、ルーイはそう思った。
「・・・。 そうだよね。 もう昔だもん。 覚えてないよね・・ 」
そう切なそうに目線を外した。それから再び目線を戻して、ちょっと苦笑い混じりに小首を傾げた。
すると、あ、と思い出したようにして、首に提げていた物を取り出した。
少しそれを見つめてから、ルーイに差し出した。
「はい。これ、返すね」
「え?・・・」
一歩前に出て差し出すそれを、返すと言われて戸惑いながら受け取る。
手の上に載ったそれを見た時、ルーイの心臓は飛び跳ねた。
「っ!?・・・・・・」
受け取った手が一瞬震える。
忘れるはずがなかった。
ずっと待っていたのだ。
会えるのを。
「みや・・・」
この時初めて、ルーイは目の前に居る相手が誰なのかを知った。




