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ダーク・シンフォニア

 サンは嘲笑った。


「何を言うかとおもえばなにが魔の四天王の恐ろしさだ。お前の魔法は鏡の魔法で相手を惑わせたりすることができる程度。ああ、そうだ、私のコアにある過去を鏡に映して精神攻撃でもしてみるか? 無駄だろうが」

「……」


 マリカは魔法の杖を掲げる。


 杖にはめこまれた魔法の宝石が光り輝くとともに彼女は言った。


「リフレクション・オブ・ザ・ミラー……」


 宝石の光が形を成す。


 鏡の魔法使いマリカの背に数枚の鏡が浮かんだ。それはひとつひとつが魔力を帯びている。サンは両手を組んでそれを見ていた。鏡に自分の心を映そうと、あるいはワールドエンドを使おうとも自分にはかなわないと確信していた。


(安心しろ……今日はいたぶるための宣戦布告程度のつもりだ)


(お前にはもっと絶望して敗北してもらわないとこの私の恨みは晴れない)


 マリカは何も言わずに右手を挙げた。そして指をぱちりと鳴らす。


「すべてを焼き尽くせ」


 鏡の一枚が彼女の後ろに動いた。それは赤く、紅く光り。そして灼熱の炎を放出した。


 赤い炎が渦を巻いてサンに迫る。


「……っ!?」


 サンは羽を広げて避ける。一瞬後に彼女のいたところが炎に巻かれた。廃工場の中の残留物が燃えていく。サンは冷や汗を流しながら、それでも笑った。


「炎の魔法だと? そんな手を持っていたのか」


 マリカは流し目で彼女を見る。そしてまた右手を挙げてぱちりと指を鳴らす。


「凍てつく風をここに」


 鏡がサンのほうを向く。青い光が放たれて、そこから強烈な冷気が放出される。空気中の水分が瞬間的に凍り、白い塊になる。


「なっ」


 サンは自分の体を魔力で覆った。次の瞬間にはすさまじい冷気が彼女を襲う。先ほどの炎すらも凍らせる絶対零度の世界。サンは驚愕した。自らの息すらも白くなっている。


「……つ、次はここまで強力な氷の魔法だと? お前は……」


 サンの言葉を聞きながら凍てつく冷気の中でマリカは歩く。その表情に変化はない。


「私の鏡はすべてを映す。人の心の醜さすらも逃さない」


 彼女は笑った。


「……だからこそあらゆるものを鏡に映すことができる。私のワールドエンドが使えるならわかるはず……私は……」


 くすくすとマリカは微笑む。かわいしい声が廃工場の中に響く。


「私はあらゆるものを私の鏡の中に閉じ込めておくことができる」


 ぱちんと指を鳴らす。


 一枚の鏡が映った。そこには無数の刀剣が映し出されている。


「き、貴様っ」


 サンが羽を広げて飛ぶと同時にマリカの鏡の中から剣や槍が閃光のように射出される。サンはそれを避けたが、廃工場の壁に無数の剣が突き刺さり壁をがらがらと崩す。


 崩された壁から太陽の光が差しこみ。マリカを照らす。


 光の中にたたずむ彼女の姿。それは浮かんでいるいくつもの鏡の中に彼女は映っている。


 サンは忌々し気に彼女を見る。その彼女にマリカは言った。


「私は魔の四天王『鏡の魔法使いマリカ』」


 マリカの瞳が光る。


「私はザングルゴール皇帝の部下の中でも最強なのよ」


 サンは顔に一筋の赤い線が付いていることに気が付いて顔を拭う。ちっと吐き捨てる。


「過去に鏡の中に閉じ込めれば、なんでもありということか。だがな、くくく。貴様こそ私をなめているのではないか?」


 サンの体を黒い魔力が多い始める。


「私は黒い太陽の化身。魔法天使マリカの鏡の魔法はお遊びで使っているだけだ。……もともと私の力はこの世界を焼き尽くす黒い炎だ。貴様の魔法なんてものは何の意味もないということを教えてやろう」

「ふっ」

「何がおかしい」


 マリカは魔法の杖を手にしていった。


「……言ったはずよ。私たち魔の四天王の本当の恐ろしさをわからせると。私たちの本当の力は『ワールドエンド』だけじゃない。スーパー・ジャスティス・ファイブとの戦いではまだ見せていない……真の姿がある。それを今……」


 マリカは言った。


「あなたの偽物の鏡に映させてあげる……ダーク・シンフォニア 」



 その言葉と共にマリカの魔法の杖から魔力の奔流が迸った。それは廃工場全体を軋ませていくほどの勢いがあった。彼女のドレスは鮮やかさを増し、金の刺繍が浮かび上がっていく。髪が長くなりその頭上に魔力でできた美しいティアラが現れる。


 魔法の杖からの魔力が収束していく。マリカはその中で微笑んだ。


「これが私の真の姿……鏡の魔法使いの真の姿よ」


 あたりを覆う巨大な魔力。サンは右手が震えていることに気が付いた。


「……この私が震えている……。黒の太陽の化身であるこの私が……ふざ、けるなよ人間!」


 サンは羽を広げて飛び上がる。彼女は両手を天に掲げる。その手の間に黒い炎の塊が収束していく。


「安心しろ。この炎はこの工場ごと吹き飛ばすほどの魔力だ。お前の街はあとで殲滅してやる……。ここで始末するつもりはなかったが、鏡の魔法使いマリカ! ここで死ね」


 サンは両手を振り下ろす。黒い球体がマリカに迫る。それは黒い炎になり瞬時にすべてを溶かすほどの灼熱となる。マリカはそれに右手を伸ばした、優雅なしぐさだった。彼女は掌を広げる。


「ワールドエンド『クローズド・ミラーワールド』」


 掌に現れた鏡。そこに黒い球体が「映った」。次の瞬間にはもう何もない。


「は?」


 サンは何が起こったかわからずに惚けていた。本来であれば目の前のマリカはすでに焼き殺していたはずだ。それなのに目の前には指に小さな鏡を挟んで、それで口元を隠しているマリカが微笑んでいる。


「……ワールドエンドの限定発動だと……!」

「そういうわけじゃないけど……まあ、いいわ。貴方はここで始末する」


 マリカがそういったときサンは「ひっ」と顔をそむけた。その瞬間あらゆる屈辱が彼女を支配した。


(ひっだと? 私が? この私が? おびえた? ……許せない。くそ)


 サンはポケットから一枚の鏡を取り出した。そして壁に向かって投げる。


「それは魔の四天王の『幻惑のシャドウ』の鏡だ!」

「なっ!?」


 表情の変わったマリカ。飛んでいくプレートに魔法の杖を振るって動きを止める。それが隙になった。割れたらシャドウにダメージがいくことを


 サンは廃工場の窓に立った。


「勘違いするな。鏡の魔法使いマリカ、私のコアは黒い太陽の一部だけだ……全部を取り込んでお前を始末する……。いいか? 私は人間どもを集めてすべてを焼く! 悪のつもりなら来る必要はない……だが、正義面してきたときお前は悪であることも捨てて、そのうえで私が倒す……覚えておけ」


 サンはそれだけを言って飛び立つ。


☆


 河川敷の草むらでレオは目を覚ました。


「ん、んにゃ~」


 ブレザーの彼女はのんきにあくびをしていた。確か魔法天使マリカことサンに不覚を取って倒された。それから鏡の中でお昼寝をしたり時折入れられるご飯を食べていたりした。


「起きた?」


 横を見れば制服で膝を抱えて微笑むみかんがいた。


「……もしかして助けられたかにゃ? 情けないにゃ」

「私もあいつを逃がした……。でも、ふふふ、さんざん人のことをポンコツ呼ばわりしていたことを反省するはずよ」


 ちょっと満足そうにしているみかん。レオはいい日差しの中でもう一度草むらに倒れた。青い空を見ながら足を組む。傍から見れば女子高生が二人並んでいるだけだ。


「それで? これからどうするにゃ?」

「どうするって、何が」

「逃がしたならあいつはたぶん人間を集めてひどいことをするつもりにゃ。私は別にどっちでもいいんだけどさ。みかんはどうするのかなって」

「それよりもあんた……スーパー・ジャスティス・レッドへの告白はどうするの?」

「にゃ……、ま、まあ、チャンスをうかがってから」

「…………もしかしてさ。私を正義の味方に勧誘したのでってレッドへの告白に一緒についてきてほしいからだったり……しないよね。まさか」

「ど、どきーん」

「!?」


 ふくれっ面をしたみかんはぱしぱしとレオをたたく。


「ま、まあそれもあるにゃ~。でも前から言った通りみかんは悪者に向いてないし」

「……まだそんなことを。私はザングルゴール皇帝の魔の四天王の一人……『鏡の魔法使いマリカ』。そもそもあの私の偽物がなにをしようと……別に関係ないわ」

「本当にそう?」

「……うっ」


 レオの瞳がみかんを見る。みかんは髪を指に絡ませながら言う。


「……私は、私の意志で悪になった。……だけどもやもやがずっと胸にある。きっとあの日から」


 みかんは立ち上がった。風に彼女の髪がなびく。それを手で押さえながら、その瞳は遠くを見る。


「私は私が納得できるように決着をつけにいく。まずはザングルゴール皇帝に会うわ。言わなければならないことがあるから」


 レオはごろんと寝転がる。


「結局僕ははみかんにつかまったから悪に戻ることになるにゃ。まあ、レッドへの告白はまた後で」

「恥ずかしくなったとかない?」

「…………」


 レオはゆっくりと起き上がって、立ち上がり。みかんのすねを蹴った。


「……!!???」

「にゃはは!」

「なに、なにするの!」


 みかんとレオは河川敷を走っていく。




 

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