表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~  作者: ざつ
第二部:四月・芽吹きと波乱の季節

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/28

第16話:解体所主任ハンスの「職人の目」

◇◆◇◆◇


【視点:サーシャ・ヴォルコフ】


 4月の午後の日差しは、ギルドの喧騒をどこか眠たく包み込む。


 私は酒場『銀の匙』のカウンターで、銀縁眼鏡を指先でクイッと押し上げた。視線の先は、今日も完璧な姿勢でペンを動かしているリリアンさんだ。


「……ねえ、ハンスさん。昨日もリリアンさん、定時になった瞬間に地下の図書室へ消えていったわよ。アンリさんと2人きりで、一体何を『解読』しているのかしらね」


 カウンターの端で、まかないの「厚切りベーコンのグリル」を黙々と食べているハンスさんは、スキンヘッドを光らせて鼻で笑った。


「サーシャ、お前の妄想も大概にしろ。あいつらは地図の等高線がどうとか、古文書のインクがどうとか、色気のない話しかしてねえよ」


「甘いわね、ハンスさん! あの無表情なリリアンさんが、地下室の重い扉を閉めた瞬間に見せる『熱』。あれは禁断の愛が生み出す火花に違いないわ。病弱なインテリ図書係と、鉄の受付嬢……。ああ、これぞ4月の嵐、春の背徳だわ!」


 私がトレーを胸に抱いて悶絶していると、ハンスさんは最後の一切れを口に放り込み、無造作に席を立った。


「背徳だか何だか知らねえが、あいつの出す『解体指示書』は、どの色事よりも緻密で、どの戦術書よりも正確だ。……俺にとっては、そっちの方がよっぽど官能的だがな」


 ハンスさんはそう言い残して、血と脂の匂いが漂うバックヤードの解体所へと戻っていった。

 職人って、本当にロマンがないわね。でも、リリアンさんのあの「鉄の微笑み」の裏に、もっと激しい物語が隠されていることだけは、私のゴシップ・センサーが確信しているの。


◇◆◇◆◇


【視点:ハンス・ギュンター】


 解体所は、ギルドで最も「現実」が剥き出しになる場所だ。

 今日の獲物は、新人が命からがら持ち帰った『マウンテン・ボア』。300キロを超える巨体だ。


「ハンスさん! リリアンさんに届ける分、この一番いいバラ肉の部位を確保しておきました! 『いつもお疲れ様です』って渡せば、リリアンさんも絶対喜びますよ!」


 見習いのトビーが、鼻の下をごしごし擦りながら、脂の乗った肉を切り分けようとする。俺はそいつの頭を拳骨げんこつで小突いた。


「バカ野郎。あいつはそんな『色をつけた貢ぎ物』を一番嫌う。指示書通りに、均等に分けろ。……それより、この指示書をよく見ろ」


 俺はカウンターから届いたばかりの、リリアン特有の流麗な文字が躍る羊皮紙を広げた。


(指示:バラ肉は150グラムずつに小分けし、食堂へ。皮は鞣し職人の工房へ17時までに納入。牙は鑑定士ジゲンへ回し、残りの骨は肥料用として夕方の定期便に乗せること。……尚、解体作業は3名で分担し、1人あたり45分以内に完了させること。休息を10分挟むのを忘れないように)


 トビーは「相変わらず細かいっすね」とぼやいているが、俺は知っている。

 この指示は、単なる効率化じゃない。今日、解体所のスタッフが何人いて、誰が腰を痛めていて、誰が新人で、今の解体台の空き状況がどうなっているか……。リリアンは窓口に座ったまま、そのすべてを把握してこの紙を書いてやがる。


 現場の「呼吸」を読み、リソースを秒単位で配分し、最少の労力で最大の成果を出す。

 この感覚、俺には覚えがある。


(……ただの受付嬢の視点じゃねえ。これは、数万人規模の軍団を動かす軍師か、あるいは生死の境を幾度も越えた伝説級パーティの『羅針盤コマンダー』の目だ)



 かつて俺が前線にいた頃、1人だけいた。


 どれほど絶望的な戦況でも、その背中を見れば「自分たちは絶対に死なない」と確信させてくれる、冷徹で、完璧な知性。


 リリアン。あんた、本当はどこの修羅場から流れてきたんだ?

 

 俺は砥石で包丁を研ぎながら、解体所の入り口から見えるリリアンの背中を睨んだ。

 あいつは、ギルドの事務屋なんかじゃない。この「春風の窓口」という名の巨大な機構を、たった1本のペンで制御している「心臓」そのものだ。


「トビー、手を動かせ。指示書通りのペースだ。1分でも遅れたら、あいつの『カタログ』に、俺たちの無能さが永遠に記録されるぞ」


「ひっ、はい!」


 俺たちは、あいつの掌の上で踊っている。

 だが、それがこれほど心地よく、誇らしいのはなぜだろうな。

 俺は集中すると舌先が出てしまう癖を隠しもせず、完璧な肉の繊維に刃を沈めた。


【リリアンのプロな流儀】

「現場の汗を知らない者の指示は、誰の心にも届かない。正確な書類とは、現場の疲労と明日への活力を計算に入れた『未来の設計図』である。プロの信頼は、言葉ではなく、その完璧な配分によって築かれるのだ」


(第16話:完)


ぜひご感想をお寄せください。

また評価とブックマークもしていただけると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の姫たちと世界を変える戦いへ!
《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は、六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~(代表作)
《ダークファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン外伝~断罪のプレリュード :黄金の残光と偽りの誓約〜
(あらすじ)
元・天才軍師候補のヒカルは、仇敵カインの謀略と人類の憎悪により「裏切り者」の濡れ衣を着せられ、処刑寸前にまで追い込まれる。人間社会に絶望した彼の前に炎の竜姫レヴィアが降臨し、救われた彼は、六人の竜姫(六龍姫)の感情をリアルタイムで把握する「絆の共感者」の異能に目覚めさせられる。
ヒカルの義務は、レヴィアの激情的な愛や、アクアの理性的な愛といった、制御不能な竜姫たちの愛の感情を音楽の和音(ユニゾン)として調律し、軍団の戦闘力へと変えること 。彼は裏切りのトラウマを抱えながら、まず古王軍(闇の竜族)との絶望的な劣勢を覆す内戦に勝利し、六龍盟約軍を完成させ、竜の世界の新たな王になることを誓うのだった。

その他の作品もぜひ!

《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~
《純SFハイファンタジー》星を穿つ槍と、黄金のオムライス――放浪の戦術師とポンコツ戦闘メイド――
メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~
軌道エレベーターの管理人たち〜地上コンシェルジュは、宇宙(そら)の英雄に恋をする
スローライフを目指したい鈍感勇者のラブコメは、天《災》賢者の意のままに!!〜システィナ様の暴走ラブコメ劇場〜
桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討子、愛しき仲間たちと世界を救う~
異世界グルメ革命! ~魔力ゼロの聖女が、通販チートでB級グルメを振る舞ったら、王宮も民もメロメロになりました~(週間ランクイン)
時間貸し『ダンジョン』経営奮闘記
【ライトミステリー?】没落お嬢様の路地裏探偵事務所~「お嬢様、危険です!」過保護なメイドと学者と妖精に囲まれて、共感力と絆で紡ぐ、ほのぼの事件簿
ニャンてこった!異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ