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『無能と言われた【鑑定士】、実は世界樹の管理人でした 〜パーティーを追い出されたので、辺境で伝説の聖域を作っていたら、聖女や女騎士が「泊めてくれ」と泣きついてきた〜』  作者: やまご
第2章:聖域都市・建国無双編

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第98話:未練の化身、あるいは鏡の中の女神――「私は、神などになりたくない」

黒い泥のような液体――【因果の残滓レムナント・ログ】は、アイリスの鉄槌によって飛散したものの、消滅したわけではなかった。それは王都の石畳に染み込み、下水道を伝い、平和に慣れきった街の至る所で「甘い囁き」を始めた。

「……不自由でしょう? 働かなければ飢える生活は。……さあ、かつての『力』を思い出しなさい。……願えばすべてが叶う、あの神域へ帰りましょう」

 その囁きは、かつてアルスが切り捨て、人間として生きることを選んだヒロインたちの「内なる空虚」を正確に突いた。

 ――王都の中央広場。

 炊き出しのボランティアをしていたセレスティアの前に、それは現れた。

 人々の喧騒が止まり、時間は凍りついたように静止する。目の前に立っていたのは、泥に汚れたエプロン姿の自分ではなく、眩いばかりの光を纏い、背中に千の翼を広げた「神としてのセレスティア」だった。

「……無様ですね、セレスティア。主様に焦げたスープを出し、指を火傷して涙を流すなんて。……貴女は、世界を導く聖女だったはず。……今すぐその汚れた布を捨て、私の元へ戻りなさい」

 鏡写しの「理想の自分」が、黄金の杖を差し伸べる。

 セレスティアは、震える手で自身の胸元を掴んだ。そこには、魔力がなくなっても、アルスが「再構築」の記念にと贈ってくれた、安物のガラスのブローチが光っている。

「……ええ、そうかもしれませんわね。……神だった頃の私は、傷つくことも、お腹を空かせることも、焦げるスープに絶望することもありませんでしたわ。……でも」

 セレスティアは、その黄金の杖を……思い切り振り払った。

「……スープが焦げたからこそ、アルス様は『次は一緒に作ろう』と言ってくださった。……指を火傷したからこそ、アルス様は私の手を握って冷やしてくださった! ……その『痛み』を知らない貴女は……私にとっては、ただの冷たい置物と同じですわ!!」

「――なっ!? 貴女、狂いましたか……!?」

「狂っていますわよ! アルス様の不器用な優しさに、とっくに! ……消えなさい、偽物。……今の私は、世界を救う聖女などではありません。……アルス様のために、最高に美味しい『焦げていないスープ』を作るだけの、ただの欲張りな女ですわ!!」

 セレスティアの叫びと共に、黄金の幻影が霧散する。

 同じ現象は、街の各地で起きていた。

 鉄工所で働くアイリスの前には、血の雨を降らせる「殲滅の死神」が。

 漁港で網を引くロザリアの前には、すべてを凍てつかせる「孤独の王女」が。

 それぞれの「過去」が、彼女たちの「現在」を否定し、誘惑する。

 だが、彼女たちはもはや、かつての完璧な「人形」には戻らなかった。

 不自由な生活で得た、手に馴染んだ道具、額に流れる汗、そして夜、アルスと分け合う一切れのパン。それらの「ガラクタのような幸せ」が、彼女たちの魂をかつてないほど強固に繋ぎ止めていた。

 鑑定屋の奥。

 アルスは、リリィが抱えるバケツの中に、街中から集まってきた「黒い泥」が凝縮されていくのを見ていた。

「……お兄ちゃん。……これ、みんなの『悲しい記憶』がいっぱいだよ。……でも、それだけじゃない。……誰かが、この泥を一生懸命かき回して、お姉ちゃんたちをイジメようとしてる」

 アルスの【真・鑑定】が、その泥の奥に潜む「核」を捉える。

 それは、ヒロインたちの未練を燃料にして、この世界そのものを「過去の復讐劇」へと巻き戻そうとしている意志だった。

『鑑定結果:【回顧のレトロスペクト・キング】』

『正体:……アルスが第4部で「ざまぁ」の末に追放した、旧世代の権力者たちの思念集合体。……及び、アルスが一度も見向きもしなかった、前世の『本当の不遇な人々』の怨念』

「……そうか。……俺が救い、愛した女たちの影には……俺が鑑定することさえしなかった、無数の『救われないガラクタ』がいたんだな」

 アルスは、作業台に置いてあった「折れた聖剣の破片」と「焦げたスープの鍋底」、そして「古びた時計のゼンマイ」を一つに並べた。

 魔力はない。だが、ここには彼女たちの、そしてアルスの、泥まみれの「生きた証」がある。

「……アイリス! セレスティア! みんな!! ……その偽物の自分(過去)を、ここまで連れてこい!!」

 アルスの叫びに呼応するように、街の各地から「過去の幻影」を振り切ったヒロインたちが集結する。彼女たちの背後には、未だに彼女たちを呪おうとする黒い影が、一つの巨大な「異形の神」へと合体しながら迫っていた。

「……お前らは言ったな。……この不自由な世界は、ただのゴミ溜めだと。……だったら、鑑定してやるよ。……この『ゴミ溜め』が、どれほど愛おしくて、どれほど再構築のしがいがある場所かってことをな!!」

 アルスは、並べたガラクタに手をかざした。

 魔力ではない。

 数千年のループで培った「物の価値を見抜く力」と、今を生きる女たちの「執着」を繋ぎ合わせる。

「【真・概念再構築:不遇の凱旋ガラクタ・シンフォニー】!!」

 アルスの指先から放たれたのは、黄金でも漆黒でもない。

 日常の、どこにでもあるような「温かな灯火」の光。

第99話(ガラクタの凱旋、あるいは新時代の楔): アルスの放った光が、巨大な怨念の塊「回顧の王」を包み込む。それは破壊するのではなく、彼らの怨念を「街を動かす新しいエネルギー」へと再構築する試みだった。……しかし、その最中、かつてアルスが追放した「あの男」が、信じられない姿で姿を現し……。

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