第55話:王都進撃――聖女の蹂躙と、消えゆく『慈悲』の残滓
辺境の村は、一夜にして「生ける彫像」と「狂信者」の住まう黒い城郭へと変貌した。
アルスは、村の広場に降り立った天空要塞アルスガルドの「残骸」を、魔王の力で【漆黒の御座】へと再構築し、そこへ深く腰を下ろした。
「……王都が、動いたね」
アルスの【深淵鑑定】は、数百キロ先、王都を守る『七賢者』の一人が放った探知魔法を捉えていた。かつての彼なら、交渉や隠蔽を選んでいただろう。だが、今のアルスの指先は、迷いなく「抹殺」の紋章を描く。
「主様。……あの、貴方を汚らわしい無能と呼び、追放した者たちの都……。……私が、灰にして差し上げましょうか?」
セレスティアがアルスの膝元に跪き、その冷たい手を自らの頬に寄せた。
かつての聖女の純白の翼は、魔王の魔力に染まり、カラスのような濡れ羽色の漆黒へと堕ちている。彼女の瞳には、かつての救済の意思はなく、ただ「アルスの敵を効率よく屠る」ための殺戮計算だけが走っていた。
「……セレスティア。アイリス。……君たちに、先遣隊を任せる。……逃げる者は、石像に。……抗う者は、苗床(種)に。……すべて、俺の資源として再利用しろ」
「御意、我が主」
「仰せのままに。……アルス様の道を、血の絨毯で飾りましょう」
漆黒の翼を広げたセレスティアと、魔剣を抜いたアイリスが、音を置き去りにして王都の方角へと飛び去った。
数時間後。
王都の第一関門である『鉄壁の要塞』は、戦う間もなく沈黙した。
セレスティアが放った【堕天の審判】。
それはかつての広域回復魔法を「逆転再構築」したもので、触れた者の生命力を奪い、強制的にアルスへの「忠誠」を刻み込む呪詛。
「あ、あぁぁぁっ! 聖女様……聖女様ぁっ! 私の魂を、捧げさせてくださいぃっ!!」
王都の精鋭騎士たちが、自ら喉を掻き切り、その鮮血をセレスティアの足元に捧げる。
アイリスは、折れた大剣を持つ騎士たちを嘲笑い、その四肢を「再構築」で切り刻みながら、彼らを拠点を守るための異形の生物へと作り替えていった。
「……ひ、酷い。……なんて、なんてことを……っ」
王都の城壁の上。
かつてアルスを追放した勇者パーティのリーダーであり、聖騎士を自称する男・アーサーが、震える手で聖剣を握っていた。
「……酷い、か。……君たちが、俺を『不必要なバグ』として捨てた時から……この結末は、確定していたんだよ」
背後から響いた冷徹な声。
アーサーが振り向いた瞬間、そこには漆黒の外套を纏い、空間を無視して現れたアルスの姿があった。
「ア、アルス……っ! 貴様、魔王に魂を売ったのか!? 鑑定士の分際で!!」
「……鑑定士の分際、ね。……その言葉、久しぶりに聞いたよ」
アルスが指を鳴らす。
ドォォォォォォォン!!
アーサーが持つ聖剣が、一瞬で「ただの錆びた釘」へと再構築された。
「……ひっ、あ、あぁ……っ!?」
「……鑑定結果。……君の価値は、今の俺の『影』の糧にすらならない。……でも、せっかくだから……君のそのプライド、一番惨めな形で『再利用』してあげるよ」
アルスの影から伸びた黒い触手が、アーサーの身体を拘束し、その「誇り」という名の精神の核を、ゆっくりと、確実に握りつぶしていく。
『警告:王都の「希望」が消失。……絶望による再構築が、完了しました』
王都は、一滴の血を流すこともなく(あるいは、すべての血をアルスのために捧げ)、黒い霧の中に飲み込まれていった。
かつて彼を追い出した者たちの叫びは、今や魔王を称える不気味な聖歌へと書き換えられている。
「……くくっ。いいぞ、アルス。……世界は、もうお前の『玩具』だ。……次は、何を壊し、何を『愛でる』?」
隣でネルガルが、かつての勇者パーティの「魂」を凝縮した魔石を弄びながら囁いた。
魔王アルスの進撃。
世界から「自由」が消え、すべてがアルスの「管理下」に置かれた時、本当の絶望が、最も淫らで美しい形で花開く。




