魔物の数は多く、強い。使うんだ
ユリアンヌに剣を抜かせてから、すぐに回復ポーションをかけた。
どうやら四級レベルだったようで、腹に空いた穴が塞がっていく。
ヨン卿の呼吸も落ち着いてきた。
もう死ぬことはないが体力を回復させるために、しばらくは休ませる必要があろうあろう。
「傷は癒えた。先ほどの質問に答えてもらおう」
デュラーク男爵の手下が、この森にいた理由が判明していない。
それがわかるまでは尋問を止めるつもりはなかった。
「魔物を操って村を一つ滅ぼそうとしています」
リザードマンと取引していたのも、第四村の森で魔物を使っているのも、狙いは俺の村というわけか。
たった四つしかない村の一つを潰されてしまえば、経済的には大きな打撃を受けることになる。
さらにそれだけではなく、領民の心も離れるだろう。
外敵から守ってもらえない領主に従う意味があるのか?
そんな疑問が領内に広がるだろう。
「その後にデュラーク男爵が領民を煽って、反乱でもさせるつもりだったのか?」
自滅すれば領地は空白になるので乗っ取るチャンスはでてくるし、最高結果を望むなら、俺が死んでユリアンヌが生き残るパターンも考えているはず。
王家や他貴族の横やりを心配せず、勇者が注目しているジラール領を傀儡にできるからな。
その後は、ゆっくり領地内を調査できるし、面倒なら勇者と交渉するカードの一つとして使える。
「恐らくは……」
直前まで何も知らされなかったヨン卿は、断言できないか。
とはいえ、俺の予測が大きく外れてないと分かれば十分である。
「状況はわかったので、そろそろ交渉を――」
したかったんだが、魔物の叫び声が聞こえて中断した。
どうやら話し合いは、後回しにしなければいけないようだ。
「魔物を操っている方法は?」
「森の主を奴隷の首輪で制御して、配下の魔物を第四村に誘導しています」
魔物の種類は分からんが、この森に主がいるのか。
攻撃を無効化する人型の影を使えばできるかもしれん。
「随分と好きかってしてくれたじゃないか」
怒りは収まるどころか高まるばかりである。
さっさと領地を荒らしているバカどもを倒しに行きたいのだが、全員では移動できない。
ユリアンヌは動けないヨン卿の側に置いた方が良いだろう。
グイントもセシール商会のヤツらを見てもらう必要がある。
「アデーレ。俺と二人で行くぞ?」
「もちろんです!」
結局、最後に頼ってしまうのは最強キャラとして愛用していたアデーレだ。
彼女さえいれば、どんな困難があろうとも乗り越えられる自信がある。
「良い返事だ」
気合いは入っているようだし、あとは武器の問題を解決すれば大丈夫だろう。
荷袋からヒュドラの双剣を取り出すと、アデーレに投げ渡す。
「これは……」
「魔物の数は多く、強い。使うんだ」
一度は断られてしまったが、ヒュドラの双剣はアデーレが使うべき武器である。
紅い双剣では殲滅力が足りないのだ。
「ジャック様はどうするのですか?」
魔物の数は多いと予想されるし、俺が使っていた鉄製の双剣は壊れてしまった。
代わりの武器なんて持ってきてない。
「俺には、これがある」
だから危険なヴァンパイア・ソードを使うしかないのだ。
回復効果もあるので長期の戦いには使えるし、今回の戦いでは活躍してくれるはず。
精神を侵食するような効果に対しては、気合いと根性で耐えるしかないだろう。
俺なら勝てる。
「……分かりました。ヒュドラの双剣は私が使います。だからジャック様は、剣なんかに負けないでくださいね。もし意識を奪われたら許しません。徹底的に叩きのめして、取り戻しますから」
アデーレにボコボコにされるのは嫌だな。
ヴァンパイア・ソードに負けられない理由が一つ増えた。
「……ジャック様」
止めたいが、できない。
そんな感情が含まれていそうな声を、ユリアンヌが出した。
魔物と戦いたいと言っていたので、猪のような性格をしていると思ったのだが、ちゃんとわかっているじゃないか。
ユリアンヌに近づくと、肩に手を置く。
「俺は負けない。だから、ヨン卿を頼んだぞ」
まだ体力が回復しきってないので、もう少しだけ休ませる必要がある。
その間の護衛を依頼したのだ。
「私を独り身にさせないでくださいね」
気が早いな。
もう、結婚しているつもりでいる。
泣き出しそうなのを我慢しながら言われてしまったので、突っ込むようなことは出来ん。
仕方なく、頭を軽く撫でて返事をしてから離れた。
アデーレと合流して魔物の方へ向かおうとすると、グイントが立ちふさがる。
「その剣を手放してください。あまりにも危険ですっ!」
黒い靄を出しながら、涙声で言った。
「俺は大丈夫だ」
静止を無視して前に進む。
黒い靄が俺に触れて浸食して俺の心を惑わそうとしてくるが、気合いを入れれば何とでもなる。
ヴァンパイア・ソードに比べれば可愛いものだ。
「セシール商会のヤツらを逃がすなよ」
すれ違いざまに命令すると、グイントの横を通り過ぎていった。
ここまで言ったのだから、本当にヴァンパイア・ソードに勝たなければ格好がつかん。
「先行します!」
宣言するとアデーレが走り出したので、後を追う。
魔物の叫び声が近づいてきて、ゴブリンの姿が見えてくる。
魔物の中でも最弱であるため、尖兵として使われているのだろう。
この奥には、もっと強力な魔物たちがいるはず。
アデーレは数十匹もいるゴブリンを斬り刻んで、毒殺していく。
俺が参戦する暇すら与えず死体を量産した。
全部は倒せなかっただろうが、数はかなり減らせた。
残りはグイントやユリアンヌ、そして第四村を守っている冒険者どもに任せるとしよう。
俺たちは先を急ぐために、再び走り出した。




