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ジャック様ーーーー!

「男爵だって? お貴族様がこんな場所に来るわけないだろ」


 俺の言葉は信じてもらえなかったようで、アデーレは腹を抱えながら笑い出してしまった。


 薄らと目に涙を浮かべるほどである。


 そういえば貴族らしい服装ではなかったな。


 兵士、よくて騎士みたい装備をしているので勘違いするのはよくわかる。


 無礼者として斬り捨ててもいいのだが、アデーレは護衛として必須の人材だ。


 この勘違い程度で失うには惜しい。


 さて、どうやって信じてもらうか……。


「ジャック様ーーーー!」


 先ほどまで俺と一緒にいた三人の兵が、馬に乗ってこっちにきた。


 俺の前で止まると飛び降りて地面に膝をつく。


「我々は護衛なんですから、置いていかないでください。ケヴィン様に怒られてしまいます」


 主人である俺の命ではなくケヴィンを恐れてきたらしい。


 やはりヤツの影響力はバカにできん。


 領地の引き継ぎが落ち着いたら、対処を考えなければな。


「え、あんた……じゃなくて、ジャック様? って本当にお貴族様なんですか?」


 配下が現れたので、アデーレが男爵だと信じ始めたようだ。


 丁寧な口調に変わった。


 冒険者は脳筋ばかりだがアデーレは違うようだ。


「そのとおりだ。新しくジラール家当主になった、ジャックである。君の名前は?」


「え、あ、はい! アデーレです!」


「アデーレか。よい名前だ。遠目から戦いを見ていたが、剣の腕もすばらしいッ!」


 両手を挙げてオーバー気味に褒めたのだが、これには理由がある。


 彼女は女だからという理由だけで剣士として見下され、周囲から認められなかったのだ。


 双剣術を学んだ師匠は男女差別が強く、技術が大きく劣る同門の弟子が免許皆伝になったのに、アデーレはずっと下っ端のままだった。


 朝早く起きては雑巾がけをして床をキレイにし、夜は練習道具の整備や片付けまで押しつけられる。


 このエピソードだけでも辛いのだが、胸クソな展開はさらに続く。


 俺が最悪だと感じたのは師匠に言い寄られたことだろう。


 深夜一人で木刀を整備していたアデーレに、弟子を数人引き連れた師匠が襲いにかかったのだ。


 服を破かれ、泣いて叫んでも許されない。


 あと一歩で全てを失ってしまう。


 そんなとき、手に持っていた木刀で弟子を殴り殺してしまったのだ。


 動揺した師匠たちを木刀で叩きのめしてから服を着替えて、アデーレは身分を隠して旅に出る。色々とあって冒険者になり、この村にまでたどり着いたのだ。


 だから美しい見た目とはアデーレにとってトラウマを蘇らせるものでしかなく、褒められても不快でしかない。


 見た目に関する話題は、地雷ポイントなんだ。


 もし見た目を褒めてしまったら仲間にはならず、ジャックの元から去ってしまうので、初見のときは失敗してしまった。


 同人ゲームだからといって、やっていいことと悪いことがあるだろ! と、当時の俺は思わず叫んだこともあったな。


「ほ、本当でしょうか?」


「当然だ。一瞬の隙さえ作ればなんとかしてくれると思ったからこそ、拘束の魔法を使った。アデーレが二流程度の腕しかなければ、怖くて助けに来ることすらできなかっただろう」


「ありがとう……ございます……」


 涙を流しながらアデーレが礼を言った。


 ずっと認めて欲しかったことを、認めてもらえたんだ。


 感極まってしまったんだろうな。


 ふふふ……計算どおりである。


 第一印象は完璧といっても過言ではないだろう。


 もう少し好感度を上げておけば、アデーレの信頼は獲得できる。


 そうすれば俺が浪費生活をしても裏切ることはなく、守り続けてくれるだろう。


 義理堅く、真面目だからな。


 もしかしたら犬の要素が性格に反映されているのかも。


「アデーレには村を守ってくれた礼がしたい。我が屋敷に客人として招きたいのだが、いいか?」


「大したことではないので、お礼なんていりません!」


 ちッ。


 真面目すぎるだろ。


 素直に喜んで受け取れよ。


「アデーレ、君がしたことをちゃんと見るんだ」


 指さした場所は教会だ。


 大蜥蜴が全滅したことに気づいたようで、村人達は外に出て、抱き合いながら生き残った喜びを分かち合っていた。


「彼らが死ぬ運命を覆したのは君の剣術に他ならない。それを大したことがないだと? それは人生を賭して身につけた剣術を否定することにつながる。私はそんなこと許せないッ!」


 言い終わるのと同時にアデーレの両肩を掴んだ。


 少し体が強ばった気はするが、襲われたときの記憶が蘇ったのかもしれない。


「領民の恩人は私の恩人でもある。ここで礼をしなければ私は恩知らずと言われて周囲から批判されることだろう。どうか、助けると思って礼を受け取ってくれないか?」


 自分のためではなく俺のため。


 これがアデーレ向けの言い訳である。


 ゲームどおりの性格であれば納得するだろうし、そうでなければ俺の知識と現実にギャップがあることになる。


 もし後者であれば、アデーレを味方に引き込むこと自体が危険な可能性もあるので、計画を練り直す必要があるだろう。


「わかりました。謹んでお礼をうけとりますから、離れてもらえませんか?」


「すまん。女性に対して失礼な態度だったな」


 肩から手を話すと数歩後ろに下がる。


 貴族である俺が謝ったことで、アデーレは驚いた表情をしていた。


 剣術は認め、さらに尊重するような態度を取ったのだ。


 好感度は爆上がりのはず。


 アデーレの件はこれで解決したので、うざったい兵たちに命令でも出す。


「お前たちは村の被害状況をまとめてから帰還しろ」


「拝命いたしました! 命に代えてでも達成いたします!」


 なぜか三人とも目の輝きが強まっていた。


 やる気がある分には問題ないか。


 とりあえずアデーレを屋敷へ招待するために動くとしよう。

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