セラビミア:臭いなぁ
ジラール男爵は私の全て。
彼のためなら死んでも良いと思っている。
そんな存在だというのにメルートは精神を支配して、意思をねじ曲げた。
絶対に許せない。
自然と腕に力が入って、さらに首を締め付けていく。
「ぐ……っ」
顔色の悪くなったメルートが私の腕を掴んだ。引き剥がそうとしてくるけど、レベルマックスまで上げた私の体には傷の一つすらつけられない。
それほど、圧倒的な差がある。
「ジラール男爵をもてあそんだお前は、絶対に許さないから。精神……魂を消滅させてあげる」
ヴァンパイア・ソードを持っているジラール男爵の手に触れた。
呪いのせいで私は直接触れないけど、こうすれば動かせる。
メルートを見ると、顔色がさらに悪くなっていた。足をばたつかせているけど、力が弱まっている。
生命力の高いヴァンパイアとはいえ、そろそろ限界が近いみたい。本当はもっと苦しめて殺したいけど、ジラール男爵をヴァンパイア・ソードから解放してあげたいから、必要以上には傷つけない。
窒息死させてから、乗り移らせてあげる。
今回ばかりは、ちゃんと協力してあげるから安心してね。
ついに窒息死したみたいで、メルートの手足がだらりと落ちた。
股からは液体が流れ出ていてアンモニア臭がする。
「臭いなぁ」
そう思うでしょ? と、イングリッド令嬢の方を見ると、ガタガタと振るえて怯えていた。クリスト王子も同じみたい。
お互いに気持ちが通じ合って羨ましいな!
私もジラール男爵と、わかり合えるようになりたい!
好感度はかなり高めているし、あともう一歩だと思うんだよね。ヴァンパイア・ソードの呪いを解いたら、完全に惚れちゃうかも。
「うふふふ」
すぐにでも訪れる明るい未来を想像したら、笑い声が漏れちゃった。
「ひぃっ!」
私の声に反応してイングリッド令嬢が悲鳴を上げる。
失礼な女。メルートを呼び寄せるために存在を許していただけなのに、私の機嫌を損ねるなんて。
ジラール男爵とゴールインする前祝いとして、血祭りに上げようかな。
喜んでくれ……はしないか。さすがに、そのぐらいは分かる。
二人の扱いは後で考えるとして、今はメルートの方が優先度は高い。
息は止まっていて完全に死んでいる。
毒殺よりも傷は浅いはず。脳が完全に死滅する前に魂を移さなきゃ。
暖かいジラール男爵の手を動かして、ヴァンパイア・ソードをメルートの胸に軽く突き刺す。数センチほどの傷が出来ると、刀身が脈を打った。
ドクン、ドクン、ドクン。
幻聴だと思うけど、音が聞こえた。
血を吸い取るんじゃない。逆にヴァンパイア・ソードからメルートへ封じられてた魂が流れ込んでいる。
しばらくして脈動が止まった。
ジラール男爵から手を離すと、ヴァンパイア・ソードが床に落ちる。
ついに呪いから解放された!
首を掴んでいるメルートを投げ捨てる。体は動かない。
定着に時間がかかっているのかな。
封印されていたヴァンパイアの魂が、どう動くかわからないので油断はしない。私はともかく、弱いジラール男爵は守らないと。
剣を持って警戒を続けていると、メルートが立ち上がった。
猫背みたいな姿勢で私を見ている。頭痛がするのか、顔に手を当てていた。
「調子はどう?」
「悪くはない。ここはどこだ?」
「私の屋敷だよ。君の名前は?」
「カイ……ぐっ」
話している途中で膝をついた。
苦しいみたいで体を丸めている。
計画を替えて窒息死させたから、体に異変が起こった?
呪いは解除できているからどうでもいいんだけど、興味があるのですぐには殺さない。
不穏な気配を感じるので警戒は緩めず、様子を見ているとヴァンパイアはすーっと立ち上がった。
「セラビミア……ジラール男爵……よくも私を騙したな」
あれはメルートだ。ヴァンパイア・ソードは乗っ取りに失敗したみたい。
膨大な力を感じる。
この私に傷を付けられるぐらいは強そう。二つの魂が混ざり合ってパワーアップしたのかな? そんな設定は……一つだけあった。敵のレベルを吸い取るドレインだ。
ゲーム上では能力を吸収するという説明で終わらせていたけど、魂だけの存在にも使えたのかもしれない。
「どうしてメルートは無事なの?」
「剣から同族の気配は感じていた。何をされるか予想できていれば、対策ぐらいする」
「ふーん」
思っていたよりも頭が回るみたいだね。
陵辱され、子供を産み続け、復讐以外は何も考えられないと思っていたのに。
「それで、私と戦うつもり?」
強くなっているように見えるけど勝てるとは思うから、挑発するように言ってみた。
襲ってくるなら返り討ちにするだけなんだけど、メルートは冷静だった。
「今は戦わない」
「だったら大人しく捕まってくれないかな」
「断る。力を付けてから戻る。そんなに時間はかからないだろうから、待っていろ」
「逃がすと思う?」
ふっとメルートが笑うと霧になった。
人形のクセに、この私をバカにしたな!
絶対に許せないっ!
殺す。
『ライトニング』
全力で雷の魔法を使って攻撃すると霧が消滅した。
これで倒したはずなんだけど、メルートの気配は消えていない。
床を見ると僅かだけど隙間が開いている。
「ちっ、話している間に体を逃がしていたんだ」
私にバレないよう、体の一部を霧にして床の隙間から逃げていたみたい。全身を霧にしたときには、8割ぐらいは逃げた後だったと思う。
魔法で消し炭にしたのが本体の2割であれば、1日もあれば再生可能だ。
「すぐにでも再会しましょう」
気配が完全に消えてしまった。
メルートを取り逃がして腹立たしい。
再会したときは、きっちりと殺してあげる。




