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とりあえず王族の誰かにプロポーズしてもらおうかなぁ

「意中の男性を手に入れるのであれば、尽くすだけじゃなく寛容さも大事です。窮屈な思いをしたら他の女性に行ってしまうので、ある程度は許してあげるべきかと」

「ふーん。でもイングリットは、クリストフを独占するために誘拐したよね。説得力がないんだけど」

「私の場合は立場上、何をしても結婚は不可能でした。でも、セラビミア様は違いますよね?」

「まあね」


 仮に両思いだったとしても、貴族としての立場が許してくれなかったイングリット令嬢と違って、セラビミアは俺の心さえ掴めばすぐにでも結婚できる。


 状況が違うからこそ、強硬手段を取るなと言いたいのだろう。


 俺のために、このまま説得を続けてくれ。


「でもさ、ジラール男爵のために尽くしても、冷たい態度しかとらないんだよ? ちょっとムカつくよね」

「それはわかります」

「だよね」


 俺の首を掴んでいる指に力が入った。息が苦しい。


 足をばたつかせ、セラビミアの腕を握る。


「私に優しくしてくれたら解放するよ。どうする?」


 物理的に返事なんて不可能だ。何も言えない。


 意識がもうろうとしてきた。


「その顔、素敵」


 唇が近づいてきた。頬をペロリと舐められる。


 さらに耳たぶを甘噛みされてしまった。


「ねぇ、私を受け入れてよ」


 受け入れれば楽になるだろう。どんな危険だってはね除けてくれるはず。単純な戦闘能力だけみれば、アデーレを超えるのは間違いないのだが、俺は絶対に受け入れない。


 理由は単純明快だ。セラビミアを信じられないからだ。


 嫁にするのであれば、自分の信念を曲げてでも俺に従う相手じゃなければ嫌だ。


 命をかけてでも守るべきこだわりである。


「セラビミア様! それ以上はジラール男爵が死んでしまいます! 落ち着いてください!」


 恐怖を押し殺して、イングリット令嬢はセラビミアに飛びついた。


 匿ってくれる相手が死にかけているのだから、動かないわけにはいかないのだろう。


「脅しても相手の気持ちは動きません」

「ならどうしたらいいの?」

「押してもダメなときは引いてみるんです」


 興味を持ったようで、セラビミアの力が少し抜けた。


「男性は自分に惚れていると思った女性への扱いは、悪くなると聞いたことがあります。あえて、他からも言い寄られていることを見せつけることで、獲物を横取りされそうだと思わせ、追わせたくさせるんです」

「それは…………面白い発想だね」


 怒気を放っていたセラビミアが落ち着きを取り戻した。


 首を掴んでいた手を離す。


「ガハッ、ゴホォ、ゴホッ」


 新鮮な空気を求めて咳き込みながら呼吸をする。


 だいぶ意識がハッキリしてきた。なんとか破滅……いや、この場合は死亡フラグか。なんとか回避したようである。


 イングリット令嬢に助けられたな。


「私がモテればジラール男爵が嫉妬して追ってくる……うん、悪くないね」


 大事なことを忘れているぞ。


 仮にセラビミアが他の男に言い寄られたとしても歓迎こそすれ、戻って来いなんて思わない。


 もらってくれてありがとう、と感謝の気持ちを送るだけだ。


「とりあえず王族の誰かにプロポーズしてもらおうかなぁ。で、ジラール男爵が邪魔しに来てくれる。なんか良いよね!」


 ふと、昨晩の話を思いだした。革命編をやろうという提案だ。


 勇者と結婚して関係を強化できるのであれば、喜んで王族を差し出すだろう。プロポーズまでは順調に進む。そしてどうしようもない理由で、俺が邪魔をしなければいけなくなったら? 当然、王族のプライドはズタズタになる。


 下手すれば家の取り潰しだ。


 そして俺たちは国外追放される。反抗するとしたら革命編に突入するしかない。


 最悪な結末だ。セラビミアのプランは実現させてはいけない。


「その計画だが、俺が聞いた時点で演技だと分かるから意味は無いんじゃないか?」

「あ、確かに。そうだね」

「だろ? だから他の方法で気を引いてくれればいい。そうだなぁ、俺は何かするときに相談して一緒に決めるタイプの女性が好きだ。そういった性格になったら考えが変わるかもしれん」

「そうなんだ! ジラール男爵に好みなんてあったんだね!」


 呆れた顔をしたのは俺だけじゃなく、イングリット令嬢やクリストフ王子も同じだ。まさか好意を持っている相手が、どのようなタイプの女性が好きなのかすら知ろうとしなかったのがわかったのだからな。当然だろう。


「もし俺の妻になりたいのであれば、先ずは好みを知って、自らを変えてくれ」

「うん。そうするよ」


 やっと納得してくれたみたいだ。なんとか未来の危機も回避できた。心底安心する。


「余計な人はいないし、せっかくだから、これからジラール男爵へ行くルートを確認しようか」

「ま、まってくれ! どういうことだ!? 私を王都へ帰してくれ!」


 移動中、何も説明しなかったからか、クリストフ王子が口を挟んできた。


「ダメだよ。君はイングリットと永遠にアラクネの集落で暮らすんだ。絶対に戻れない」

「そんな……」

「私が全部、排除するから助けを期待しても無駄だよ」


 絶望したクリストフ王子は何も言えなくなった。


「戻れない? イングリット、どういうことだ?」


 いつの間にか意識を取り戻し、再生を終わらせたメルートが、鋭い目つきで睨んでいた。

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