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誰か、死にましたか?

 馬車がホテルの前に着いたので降りると、パーティー会場の方から夜空に向かう火柱が上がった。王都の外にいても気づけるほどバカでかい。


 あんなことできるのはセラビミアだけだ。


 派手に攻撃したようだが、メルートは殺してないよな……信じてるぞ……。


 事件と無関係を装うため、あえていつも通りの速度で歩き、部屋に戻るとルミエが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ」

「問題が発生した。ホテルを出る」

「かしこまりました。すぐに準備いたします」


 詳細を伝えずとも疑問を持たず命令に従ってくれる。素晴らしいメイドだ。


 まだ滞在する予定だったので部屋中に服が散らかっている。ルミエだけでは時間がかかってしまうので、俺やアデーレ、ユリアンヌも参加してバッグに荷物を詰め込む。


 作業を終えてホテルを出ると、入り口にルートヴィヒと娼婦のココットが立っていた。


 火柱を見て事件が発生したと察したようだ。


 当初の予定では一緒に領地へ戻ろうと思っていたのだが、イングリット令嬢を回収する仕事があるので計画を変えなければいけない。別行動するしかなさそうだ。


「ジャック様! 何が起こったんですか!?」

「貴族のパーティーに襲撃があったみたいだ。お前たちは無事か?」

「はい。我々はケガをしていませんが」


 ちらっとルートヴィヒが隣を見る。


「誰か、死にましたか?」


 暗い目をしながらココットが言った。


 そういえばこいつ、没落令嬢だったな。


 自分を蹴落とした貴族がどうなったのか気になっているのだろう。


「貴族を護衛していた騎士がケガしたところまでは見たが後は知らん。だが、あんな派手に暴れてるんだから、何人かは死んでるだろうな」


 暗い表情で笑いやがった。


 こいつ、相当性格が歪んでいるな。


 一瞬だけだが、領地に引き入れるの考え直した方が良いかもと思ってしまった。


「ルートヴィヒはルミエとココットを連れて王都から出ろ」


 金貨が数枚入った袋をルートヴィヒに投げ渡した。


 事件の裏側を知っているのは俺と妻の二人だけにしたいので、情報が漏洩しないよう分かれることにしたのだ。


「ジャック様はどうするのですか?」

「俺はやることがある。一仕事終えたら領地に戻るさ」

「かりこまりました! 姉さん、行こう!」


 何か言いたそうな顔をしていたが、最後は命令に従ってくれた。


 ルートヴィヒはルミエの手を取ると走り、ココットはその後を付いていく。娼館がある方なので、娼婦たちと合流して王都を脱出するつもりなんだろう。


 騒ぎが広がれば王都の門が閉ざされてしまうので、脱出には時間がかかりそうだなと思った。


「行くぞ」


 早く馬車を移動させなければ。


 荷物の入ったバッグを持ち、妻を引き連れて、御者席に近づくと声をかける。


「王都から出る!」

「それは……私の独断では決められません。セラビミア様に確認を取らないと」


 そういえば雇い主はセラビミアだった。遠出するには許可が必要だと寝言を言っている。


 門が閉まる前に脱出したいので、さっさと説得しよう。


「俺のために動いたと言えば、絶対に叱られることはない。安心しろ」

「本当ですか?」

「ジャック・ジラールの名にかけて誓おう」


 これは貴族がプライドをかけて約束するときに使う言葉だ。何か問題が起きても絶対に助ける。そういった意思が込められており、御者にも伝わったようである。


 強ばっていた表情が緩くなった。


「ジラール様のお言葉を信じます。ですから何かあったら……」

「助ける。俺に任せろ」

「かしこまりました。すぐに出ます」


 話はまとまった。


 客車に乗り込むとすぐに走り出す。


 騒ぎはまだ広まっていないようで王都から逃げようとする人はおらず、道は混んでいない。順調に進んで貴族用の門に付いた。


 警備を担当している兵が近づいてきたので、馬車が止まった。


「勇者セラビミア様の客人を乗せています」


 業者が堂々とした口ぶりで警備の兵に言った。


「名前は?」

「ジャック・ジラール男爵様とその奥様です」


 自己紹介した記憶は無いのに俺の爵位を知っていた。恐らくセラビミアが事前に教えていたのだろう。


 兵がチラリとこちらを見ると、馬車から離れてた。


 勇者の名前を出すだけで検査は省略されたようだ。


 すばらしい権力である。セラビミアの気持ちに応えるつもりはないが、今後も遠慮なく使わせてもらうぞ。


「旦那様が悪い顔をしている」

「カッコイイです!」


 妻たちに指摘されて窓ガラスに映る顔を見る。


 野盗のような下品な笑みを浮かべていた。


 * * *


 無事に王都を出てしばらくすると、馬車を止めて外に出る。イングリッド令嬢が来るのを待っているのだ。


 夜風が吹いて寒い。今日は天気が良いので星々の光が地上を照らし、夜だというのにある程度の明るさは確保できている。逃げてきたイングリット令嬢を見落とすようなことはないだろう。


「いつまで待ちますか?」


 暇だからか、ユリアンヌはあまり興味なさそうに聞いてきた。


 何もせずに待つのは苦痛なので話に付き合うか。


「約束したとおり夜が明けるまで。それ以上は待たない」

「時間が過ぎたら失敗したと見なして帰るんですね」

「じゃないと俺たちが危ない」


 こんな場所で馬車を止めて待っているのだ。絶対に怪しまれる。


 目撃者が出る前にすべてを終わらせたかった。


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