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ちょっと臭いです

 馬車に揺られて移動している。


 王都ほど離れていないので、体感で三十分もすればパーティいや、夜会と言った方が良いか?


 まぁ、とりあえずそんな会場に着いてしまった。


 馬車から降りると目の前にセラビミアの住む豪邸が見える。


 とりあえずデカい。


 見上げるほどだ。


 俺が住んでいる屋敷の五倍ぐらいはあるだろうか。


 ここが王都に来たときにだけ使う別邸なのだから驚きである。


 セラビミアは、いったいどのぐらいの資産を持っているのだろうか。


 あわよくば俺のために使わせてやりたい。


 惚れている弱みを利用して……って、何を考えているんだ。


 今以上にセラビミアを利用してしまうのは、リスクが高すぎる。


 引き際ぐらい俺だって分かっているのだ。


「行こうか」


 今日のために着飾っているユリアンヌとアデーレの手を握って歩き出す。


 入り口の前に立っている執事が頭を下げながらドアを開けたので中に入る。


 左右に分かれてメイドがずらりと並んでいて、道を作っている。


 俺の姿を見ると一斉に視線が集まった。


 手厚い歓迎だと思うが、少し気まずい。


「ジラール男爵と奥様でしょうか?」


「うむ」


 礼儀なんてよく分からないので、とりあえず偉そうに頷いてみた。


 ぱっと笑顔に変わったメイドが口を開く。


「お待ちしておりました。ご案内致します」


「うむ」


 同じことを繰り返して言ってしまったが、本当に何を言えば良いのか分からないのだから仕方がない。


 この世界に来てから一度も貴族の夜会に参加したことないんだから。


 そんな不慣れな姿を見ても馬鹿にするようなメイドがいないのは、セラビミアの教育が行き届いているからだろう。


 俺たちは気分を害することなく夜会の会場に入る。


 既に招待客が集まっていたようで、着飾った男女が談笑をしていた。


 テーブルにはシャンパンの入ったグラスや軽食が並べられて、自由に取れるようになっている。


 参加者全員が香水を付けているようで、会場はなんとも言えない臭いに包まれていた。


「ちょっと臭いです」


 鼻を押さえながらアデーレが辛そうな顔をしていた。


 獣人にとっては過酷な環境なんだろう。


 外で休んでおけと言いたいところではあるが、先ずは主催者に挨拶しなければ。


「ジラール男爵のご来場です!」


 会場まで案内したメイドが叫ぶと、招待された貴族どもがこちらを見る。


 見下すような目線ばかりだったが、すぐに驚きへと変わった。


「田舎者はパーティー会場に剣を持ち込む無作法者らしいわね!! 早くつまみ出してちょうだい!」


 腰にぶら下げているヴァンパイアソードを指さしながら、中年の女が叫んでいた。


 呪われているんだから仕方がないだろ、と言っても無駄だろうな。


 田舎男爵でしかない俺が正論を言っても、面子を潰されたと思われて状況は悪化するだけ。


 セラビミアに仕えている人たちは静止したまま。


 しばらくは様子を見ることにする。


「なぜ動かないのですか!」


 参加している貴族どもは賛同する声を上げているが、警備をしているであろう騎士や兵は駆けつけてこない。


 案内したメイドは眉を下げて困ったそぶりをしているだけ。


 この反応から、剣帯することは主催者の許可を得ていると分かっても良いのだが、どうやら非難している女は察しが悪いらしい。


 家名のおかげで貴族社会をなんとか生き延びた愚か者なんだろうな。


「早く誰かこの無作法者を処分しなさいッ!」

「では、このポエール男爵がやりましょう」


 また愚か者が一匹釣れた。


 服の上からでも体を鍛えていることが分かる青年だ。


 髪色は黒くオールバックをしている。


 ちょっとおでこが広めなので、将来はハゲてしまうだろうな。


「任せたわ」


 中年の女はねっちょりとした視線をポエール男爵に送っていた。


 これはあれか、不倫相手なのか?


 若い男を囲って金をばらまき快楽をむさぼるタイプの。


「お任せください。見苦しい男は排除いたします」


 ポエール男爵が俺に近づいてきた。


 ユリアンヌとアデーレを後ろに下げる。


 血気盛んな嫁だから戦いたがるだろうが、この場は俺に任せて欲しい。


「ジラール男爵なんて家名は聞いたことない。本当は貴族を語る平民なんだろ? 身分を偽ると死罪になるが、この場から消えてくれるのであれば不問としよう」


 なんだそれ。


 俺は貴族とすら認められてなかった。


 これが王都に巣くう貴族どもの考えというヤツか。


 よーく分かったよ。


「お前バカか? 俺は貴族で、正式に招待されたから来たんだよ」


 セラビミアからの招待状を取り出して、目の前で揺らす。


 勇者の紋章が入っているので誰が見ても本物だと分かる。


「嘘は良くない。大方、どこからか拾ってきたんだろ?」


「なわけないだろ。平民なら、こんな服装は用意できない。そろそろ俺が貴族だってのを認めろよ」


「金を持っている商人から借りれば平民でも用意できる。そんな服じゃ、招待された証明にはならないな。仮にもし貴族だったとして、我々が知らないのであれば田舎者だ。この場には相応しくないのでお帰りいただこう」


 だめだこいつ。


 話が通じない。


 ゲームですら登場しなかった男爵ごときが、ジラール家を馬鹿にするとは。


 セラビミアが知ったら確実に殺されるぞ。


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