全力で排除してやる
「無駄なのはお前の方だ。魅了だかなんだかわからんが、俺には効かんぞ」
前に一度、レックスの術は破っているんだが、どうやらレックスは覚えてないようだった。
抵抗されて驚いた顔をしている。
学習能力のないやつだな。
「新勇者は、これからどうするつもりだ?」
「魔物を操る人類の敵を殺すッ!!」
きりっとした表情をしながら、レックスは剣を向けてきた。
魔物をけしかけてきた犯人なのはセラビミアだが、その話をしても納得はしないだろう。
どうせ、ここで殺さなければ俺の身は破滅してしまうだろうし、ジャックらしく悪役になってみるのも良いか。
「人を惑わす能力を使い、勇者になったお前ほどではない」
痛いところを突いたようだ。
嗤ってみせるとレックスは顔を真っ赤にさせる。
「クソがッ!!」
一足で近づくと突きを放ってきた。
動きは速く、上位の冒険者と比べても遜色のないほどの技量もある。
だがな、勇者と名乗れるほどではない。
俺でも充分に対抗できるレベルだし、騎士のヨンだって対等には戦えるだろう。
結局の所、その程度のレベルでしかないのだ。
「足元が、お留守だぞ」
一歩横にずれて回避、足を出してレックスに当てると、バランスを崩して倒れてしまった。
『シャドウ・バインド』
影で体を拘束して動きにくくしてから、今度こそ頭を突き刺そうとする。
『アイス・ランス』
氷の槍が飛んでくるのが見えた。
後ろに跳んで回避する。
魔法使いのヴァーリアがレックスを助けるため、俺に向けて放ったようだ。
近くには剣を杖のように使い、立ち上がろうとしているベルタもいた。
瓦礫に潰されたと思っていたのだが、どうやら生きていたようだな。
運の良いヤツらである。
「セラビミア! 邪魔者を殺せ!」
命令した瞬間、ピクンと、体がはねた。
すぐに口が裂けるほどの笑みを浮かべる。
口裂け女という都市伝説を思い出してしまうぐらい、不気味で、近寄りがたい。
「もちろん!!」
笑い声を上げならベルタに斬りかかった。
持っていた剣でセラビミアの猛攻を受けているが、長くは保ちそうにない。
ヴァーリアは、誰を助けるべきか悩んでいるようである。
「俺は大丈夫だ!」
影から脱出して、立ち上がったレックスが叫んだ。
てっきり自分の身を優先すると思っていたので意外だった。
「いいのか? お前だけじゃ、俺に勝てないぞ?」
返事はない。
俺の言葉を無視して、レックスは剣を構えた。
「全力で排除してやる」
体内の魔力が高まっているようだ。
先ほどまでよりも、身体能力は強化されているように見える。
「勇者の力、とくと味わえ」
レックスの目が光ると意識が奪われそうになる。
手の甲に付いた模様が光り、すぐに戻るが、目の前に誰もいない。
背後から殺気を感じ取ったので振り返ると、レックスの姿があった。
抵抗されるとわかっていて、隙を作るために特殊能力を発動したのか。
突きを放たれていたようで、刀身が鎧を突き破り脇腹に刺さる。
喉から血が上って吐き出してしまった。
「ゴハァッ」
剣を引き抜いたレックスは、俺の首を刈り取ろうとして腕を上げた。
刺された箇所が熱い。
痛みで視界が歪む。
「死ね」
剣が振り下ろされた。
右腕が勝手に動いてヴァンパイア・ソードが受け止める。
助けがなくても何とかしたのに。
過保護なヤツだ。
「勇者の力ってこの程度なのか?」
驚いた顔をしたレックスが見えたので嗤ってやった。
プライドの高いヤツには、こういった態度が一番気に障るのだ。
徹底的に見下し、体も心もズタズタにしてやろう。
先に俺を攻撃し、破滅に導こうとしたんだから、徹底的に叩きのめしてやる。
「俺には遠く及ばないな」
ヴァンパイア・ソードから何かが入り込んでくる。
意識を奪い取ろうとしてきたので、気合いで抑えてながら、腕を振るう。
予想していたよりも力が入っていたようだ。
レックスの体ごと剣を弾き飛ばした。
「血をよこせ」
ヴァンパイアっぽい発言ではあるが、意識は正常である。
傷を治すのに必要なのだから言っただけなのだが、レックスは勘違いをしたようだ。
「お前、人間じゃないな! 魔族が化けていやがったのか!」
ゲーム内に登場した魔族とは、人と魔物の中間にいるような少数部族のことだった。
ヴァンパイア、セイレーン、ハーピー、アラクネなどが代表的な種族である。
差別用語なので俺の領地で魔族ということばを使うヤツはいなかったが、レックスは意識が違うようだ。
「違う」
起き上がろうとしたのでヴァンパイア・ソードを太ももに突き刺した。
刀身に彫られた溝が脈動し、血を吸い上げ、同時に腹にできた刺し傷が薄れていく。
「やめろっ!!」
今まで血を吸われていたヤツらは、力が抜けてしまい抵抗なんてしなかったのだが、レックスは剣を振ってきた。
速度はたいしたことなかったので回避はできたものの、ヴァンパイア・ソードは抜けてしまう。
無駄な抵抗をしやがって。
さっさと諦めて死を受け入れろよ。
=====
書籍化作業に時間を取られており、更新が不定期になっております。
申し訳ございません。
Amazonにて2巻の予約が始まっています!
購入していただけると更新を続けるモチベーションなりますので、よろしくお願いいたします!




