この世界を荒らして人間の本質を伝えるつもりか?
「それがお前のやりたいことなのか」
「うん。そうだね。邪魔する?」
空中都市に眠るらしい、数千の魔物を使えばセラビミアが倒せるかもしれない。
魔物側が負けたとしても空中都市の兵力がなくなるだけなので、ヴァルツァ王国を滅ぼす計画は遅れるだろう。
どちらにしろ悪い結果にはならない。
だが、そこまでして国を守りたいか? と問われれば、正直なところ、俺の領地さえ被害を受けなければ気にしない。
国への忠誠心なんてないからな。
守るべきものは全てジラール領にあるのだから、セラビミアの好きにしろなんて返事していいのかもしれない。
しかし、彼女はアデーレやユリアンヌを狙っている。
その一点だけで、俺の周りにいていい存在ではない。
「ああ。邪魔をする」
確固たる意思を持って言い切った。
お前の計画通りに進めさせないと。
「そう言うと思ったよ」
「だったらなぜ、遺跡の正体を話した? 隠しておけば俺が邪魔できなかったかもしれないぞ」
「そうだねー。もしかしたら止めて欲しかったのかも? それとも嫌われたくなかったからかな?」
冗談っぽく言ったセラビミアは、一人で先に行ってしまった。
意味ありげなことを言って同情を誘う作戦なのだろうが、俺は騙されないぞ。
今すぐにでも斬りかかってやりたいところではあるが、背後から襲っても反撃されて終わるだけだ。
焦らずチャンスが来るのを待つしかない。
目的地はセラビミアが知っているだろうから、黙って後を付いてく。
丘を降りて遺跡に近づくと、朽ちかけた門の前に立った。
重量のあるものがぶつかって、破壊されたんだろう。
分厚い鉄で作られた門は地面に転がっていて、彫り込まれている毒蛇の紋章ごと形は歪んでいる。
「この遺跡が空中に浮かぶのか?」
「違うよ。これは地上に住む人向けの場所。空中都市は別の所にあるから」
独り言に返事があるとは思わなかった。
本当に何も隠すつもりはないようである。
「こっちだよ」
またセラビミアが歩き出したので、俺も続く。
遺跡の中は外で見ていたより崩壊が進んでいて、壁がのこっている建物すらほとんどない状況だ。
病が流行って遺跡に住んでいた人たちが死んだと聞いたが、それだけでは説明が付かない。
「風化したと説明するには壊れすぎているな。何が起こったんだ?」
「住民が死んだ後に略奪があったんだよ。近隣の町から派遣された人たちが争い、富を奪い合ったんだ」
持ち主がいないのだから有効利用してやる、なんて思いながら、遺品を漁っていたことだろう。
なんとも気分が悪くなる話だな。
「人間の本質は世界が変わっても同じだよね。それなのに、汚い部分を隠そうとしていたのが気に入らなかった」
脈絡のない話ではあるが、セラビミアの考えを知る機会だし、付き合ってやるか。
「だから、ゲームを作ったのか?」
セラビミアは振り返り、手を後ろに回す。
やや前傾姿勢になりながら俺を見た。
「そうだよ。自分の欲望のために他人の物を奪う。それが人間の本質だって、伝えたかったんだ」
ゲームをプレイしていて、制作者は性癖が歪んでいるなと思っていたが、思想までとは思わなかった。
やはりセラビミアは何かがズレている。
価値観が全くあわない。
「この世界を荒らして人間の本質を伝えるつもりか?」
「転生した当初はそんなことを考えたときもあったけど、私が手を出すまでもなく、奪い合う世界になっていたから静観しようと思っていたんだ。でもね、私の設定を狂わしている存在がいると気づいて、動くことにしたんだ」
目を細めて俺を睨みつけると、セラビミアは話を続ける。
「最初は、不審な動きをするジラール男爵が犯人だと思っていたよ」
ジャックはゲームの主人公だったから、セラビミアは常に監視していたはず。
両親を昏睡させたあたりから、目を付けられていたんだろうな。
だから最初から敵対するような行動をしていたのか。
「でもね、すぐに違うと分かったから、仲間になってくれないかなって誘ったんだ」
「それにしては、強引すぎなかったか?」
「欲しいものは、どんな方法を使っても手に入れたいから。仕方がないよね」
「そんな言葉だけで済むわけないだろ」
だからといって、俺の大切なものを奪うと宣言しているヤツと、仲良くできるはずがない。
セラビミアは選択を間違えたが故に、俺を手に入れることは永遠に訪れないのだ。
これ以上の会話は不毛なので、そろそろ打ち切るか。
「お前の考えは分かった。案内を再開してくれ」
「はーい」
途中で話をぶった切ったのに、文句一つ言わない。
何を考えているかわからないと不気味に思いつつ、また一緒に歩き出す。
遺跡の中は、どこも瓦礫の山ばかり。
たまに人骨を見つけるが、風化していてほとんど原型を止めていない。
土と一体化しているようにも見えた。
「「…………」」
話すことなんてないので、お互いに無言である。
周囲も静かだから、風の吹く音ぐらいしか聞こえない。
時間にして三時間ほどだろうか。
そのぐらい歩くと、遺跡の中心につく。
小さいながらも城があった。
破壊なんてされてなく、原型が残っていて、かなり頑丈に作られていたことが分かる。
これなら中にあるものも無事だろう。
「ここは初代ジラールが住んでいた場所だよ。空中都市への入り口につながっている」
「入ろう」
さっさと空中都市とやらに行きたいので即答した。
「やる気があって良いね。ご案内いたしま~す!」
上機嫌なセラビミアが城に入っていく。
俺も付いていくことにした。
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