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新しい勇者様にはお気を付けください

 リーム公爵の屋敷にぶち込まれてから、一週間ほどが経過した。


 文官を煽っていたというのに拷問はされていない。


 地位が俺より低いので立場上できないというのもありそうだが、本気で真犯人を捕まえたいなどと思っているのだろう。


 食事も自宅より豪華だし、久々にのんびりしながら優雅な生活をしていたのだが、どうやら今日で終わりになるようである。


 先ほど分館の男から、新しい勇者が尋問に来ると教えてもらったのだ。


 俺が遊んでいた『悪徳貴族の生存戦略』には、セラビミア以外の勇者は出てこなかった。


 ゲームの知識は全く使えず行動は読めないが、上位貴族と同じ権力を持っているのは変わらない。


 田舎男爵を潰すなんて、赤子の手をひねるよりも簡単なはずだ。


 慎重に行動しよう。


「失礼いたします」


 ドアが開かれて部屋にメイドが入ってきた。


 腹が大きく膨れており、身ごもっていることが分かる。


 前に聞いてみたのだが、どうやらリーム公爵の子供らしく、似たような状況の女は十人ほどいるらしい。


 公爵ともあろう立場の人間が、正妻を作らずにいろんな女を孕ませていたこともあって、後継者問題がとんでもないことになっているようだ。


 グイントの時にも感じたことではあるが、ストーリーではなくキャラクターの設定が呪いに近い形で、暴走しているように感じる。


 これが世界の標準なのか、それとも誰かがゆがめているのか分からんが、俺も飲み込まれないように気をつけなければならんな。


「勇者レックス様がお呼びです。前当主の執務室にまで、お越しいただけませんか」

「わかった。すぐに行こう」


 立ち上がると歩いて部屋を出る。


 妊婦のメイドが追いつこうとして、早足になりそうだったので声をかける。


「腹がデカいんだから、ゆっくりでいい。体を労れ」


 驚いたような目をして立ち止まった。


 リーム公爵の戯れで弄ばれたこともあり、貴族から優しい言葉をかけられるなんて、思いもしなかったんだろうな。


「ありがとうございます」


 小さく頭を下げると、ゆっくりと歩き出した。


 背中を見ているとなんだか懐かしい気持ちになる。


 黙って歩き続けて階段を上り、メイドが足を滑らせた。


 落ちる前に抱きかかえると顔が近くに来る。


「大丈夫か?」


「はい。ありがとうございます」


「いつも助けられるとは限らない。気をつけるんだぞ」


 体をゆっくりと離して立たせる。


 メイドは俺のことをじっと見ていた。


「気になることでもあるのか?」


 黙ったままだ。


 即答しないのであれば無礼者だと叱咤しなければいけない場面ではあるが、妊婦にストレスをかけたくないので待つことにする。


 俺は意外と優しいのである。


「新しい勇者様にはお気を付けください」


「どういうことだ?」


「近くにいる人を狂わす、そんな魅力をもつかたです」


 魅了系の魔法を使えるということだろうか。


 そんな魔法は登場しなかったが、続編でセラビミアが出した可能性はある。


 もし魅了であれば目の前のメイドだって、疑わなければいけなくなるぞ。


 とまぁ、そんなことを考えても、結局のところ新勇者と会わなければいけないのだ。


「わかった。気をつけよう」


 メイドが何を企んでいるなんてどうでもいい。


 相手が何かを企んでいるのであれば、全てぶち破るしかないのである。


 すぐにでも消え去ってしまいそうな笑みを浮かべたメイドが、案内を再開した。


 階段を上りきって少し歩くと、ドアの前で止まる。


「ジラール男爵が来ております」


「入れろ」


「かしこまりました」


 メイドはドアを開けると横にずれて、頭を下げる。


 一人で部屋に入ると、ソファに座りながら足を組んでニヤニヤと嗤っている男がいた。


 金髪碧眼で顔は整っている。


 いや、整い過ぎていると言っても不思議ではないほどだ。


 嫉妬する気すらわかん。


 これは人を魅了すると、表現するのに値する容姿だな。


 ソファの後ろには、室内だというのにブレストプレートを着込んだ、女の戦士が一人いる。


 腰まで届くほどの長い青髪していて、見た目は整っているが他人に冷たいという印象を与える容姿だ。


 見たことはないが実力はありそうだな。


「あなたが噂の新しい勇者様でしょうか?」


「そうだ」


 意外にも歓迎してくれているのか、ソファに座っていた男が立ち上がると、手を差し出してきた。


「ジラール男爵、よく来てくれた」


「勇者様の依頼を断れる人はいませんよ」


 先ほどの警告が気になって近づくことは避けて、腰にぶら下がっているヴァンパイア・ソードを軽く叩く。


「帯剣しているため、離れた状態で話すことをお許しください」


 俺が呪われている剣を持っていることは、周知の事実となっている。


 解呪しようとした者は、逆に呪い殺されてる結果となったので、仕方なく周囲は所持を認めていた。


 血を吸う機能も知られてしまったので、吸血男爵なんてあだ名が広がるぐらいには、周囲から変な目で見られてしまっているが、今のところは気にしていない。


 評判なんて元から悪かったからな!


「話には聞いているよ。でもさ、剣一つで僕を殺せると思っているの? それって、ちょっとした侮辱だよね」


 笑いながら、新勇者のレックスから圧力が高まった。


 後ろにいる女戦士は腰にぶら下げた剣に手を置いているし、答えを間違えたら戦闘が始まりそうだ。


 クソッタレが! 勇者ってヤツらは、まともなのがいないなッ!!




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