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裏切り者は絶対に許さない

 徴税人の仕事は本当に早かったようで、隠し畑の全体の調査は終わっていた。


 なんと未報告だった畑の収穫量を含めると、税収は1.5倍にはなりそうだと記載されている。


 しかも森の中に隠されていたことで大蜥蜴には見つからず、荒らさなかったみたいだ。


 作物は順調に育っていて、もうすぐ収穫できる見込みらしい。


 食料が足りないと陳情を出したクセに、実際は生活には困らない食料があったのだ。


 何とも図々しい態度である。


 ゲームでは税が重すぎると領民が逃げ出す、反乱するといった行動はあったが、脱税はなかっ……いや、似たようなことはあったな。


 村人と徴税人の癒着だ。


『悪徳貴族の生存戦略』において徴税人の仕事は、村ごとに定められた税の徴収である。


 未払いが発生した場合は税を上乗せして取り立てるか、懲罰を行うことも可能である。


 税に対しては大きな権利を持っていることもあって、監視の目を緩めるとすぐに不正を働いてしまう困ったヤツらだった。


 ゲームだと賄賂の一言で終わっていたが、現実世界では隠し畑を見逃す代わりに金銭を得ていたという仕組みになったのかもしれない。


 村人全員を処罰してしまえば領地が傾くかもしれないので、村長の死で手打ちにしてやろうと思っていたのだが、どうやら制裁の範囲を広げる必要があるかもしれないな。


「どうされますか?」


 報告書の内容はケヴィンも目を通しているが、徴税人の裏切りには気づいていないはず。


「あまりにも報告が早すぎる。徴税人が不正を働いている可能性があるな」


「まさかッ!」


「よく考えてみろ。これほどの大規模な隠し畑があれば、住民の生活にも変化があったはずだ。それを金に汚い徴税人が気づかないとでも思うか?」


 税の未払いが発生すれば、徴税人の成績に大きく響く。


 両親であれば問答無用で首を飛ばしていただろう。


 物理的にな。


 ジラール領は常識外の重税をしていたこともあって、必死に集めていたはずだ。


 隠し畑という存在を上手く利用して帳尻を合わせていたのだろう。


「……気づかなければ、徴税人は失格ですね」


「だろうな」


 ケヴィンが断言するのであれば、適当に言ってみた俺の考えは間違ってなさそうである。


 あとはどのぐらい腐敗が進んでいるかを調査するべきだ。


「それと確認したいことが一つある。第一から第四までの村で、滞納者はどのぐらいいた?」


「ゼロです……」


 それはあり得ない。


 収穫量の9割を税として持っていかれるんだぞ?


 滞納する人間の一人や二人は発生するはずである。


 そういった人物が出てこないということは……。


「他の村も大規模な隠し畑があるな」


 ということになる。


 正規の畑の収穫をすべて持って行かれても生きていけるように、各村では脱税用の畑を用意しているのだろう。


 バカな両親は徴税人の報告を信じて、領民からは搾り取れるだけ絞りとっていると思っていたようだが、実際は徴税人の懐を潤す手伝いをしていたというわけだ。


 しかも、自分の評判を下げてまでしてな。


「裏切り者は絶対に許さない」


 俺の雰囲気が変わったことを察したアデーレの目が鋭くなる。


「ジャック様を裏切った人がいるんですか? 全員、殺します?」


 さっきはとんでもない暴走娘だと思っていたが、今は頼もしいと感じる。


 好感度を最大まで引き上げたこともあって、アデーレは俺に敵対する相手を許さないという目をしていた。


 この状態が続くのであれば、しばらくは裏切られる心配はなさそうだ。


「殺すのは後だ。先ずは状況の把握から始める」


 全村で脱税をしているという確信はあるが、証拠はない。


 強引に裁判をして判決を下してもいいのだが、領民からの信頼度が大きく下がってしまうだろう。


 今のジラール領なら、反乱のきっかけになりかねないぞ。


「ケヴィン、この件はお前が責任をもって調査しろ。王国法を犯すヤツは絶対に許さん」


「承知いたしました。まずは第三村にいる徴税人から調査を開始いたします」


「いいだろう。すべて任せる」


 これで隠し畑にまつわる一連の騒動は終わるだろう。


 ようやくリザードマンの問題に集中できる。


「ジャック様ーーーー!」


 俺の名前を叫びながらルートヴィヒがテントに入ってきた。


 こいつ、最初に出会った頃より馴れ馴れしくなってないか?


「ルートヴィヒ! ジャック様の前だ! 落ち着け!」


 ケヴィンに叱られてたルートヴィヒは、慌てて膝をついて頭を下げた。


「も、申し訳ございません! ですが緊急事態でして……!」


「何があった。言ってみろ」


「は、はい! 徴税人を隠し畑に案内していた村長が逃げ出しましたッ! 兵長を含めた二名が追っていましたが、途中でリザードマンに遭遇、戦闘をしている間に逃げ切られてしまい、現在も発見できておりません」


 魔物に殺されるぐらいなら、僅かな可能性にかけて逃げ出したのか。


 これは大失態だな。


 責任者である兵長に罰を与えなければならない。


「兵長は何をしている?」


「リザードマンとの戦闘で死亡しました」


 ……はッ!?


 マジで言ってるのかよ!!


 兵士の中でも戦闘能力はマシだったはず。


 二対一の戦いで死ぬはずないだろ!


「兵長がいたのに、お前たちはリザードマンに勝てなかったのか?」


 もしそうなら計画を大幅に変えなければならない。


 ったく、この領地は問題しかないぞ。


 俺が両親を殺さなければ、もう滅んでいたかもしれないな。

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