あの世で、息子に再会させてやるよ
「息子の仇だ、死ねぇぇ!!」
俺が追いかけてきたこともあって、息子が戦死したことには気づいているようだ。
叫びながら剣を振り下ろしてくる。
ブチブチと音をたてながらツタを引きちぎり、腕を自由にさせると、ヴァンパイア・ソードで受け流す。
トゲが肌に刺さって血は流れてしまったが、この程度ならかすり傷だ。
全力の攻撃が失敗してバランスを崩したみたいなので、動きの止まったデュラーク男爵の腹に蹴りをぶち込んだ。
「ゴフッ」
胃液をまき散らしながら吹き飛ぶと、みっともなく地面を転がって、うつ伏せになって止まる。
今度は俺が魔法を使う番だ。
『シャドウ・バインド』
デュラーク男爵の影が伸びて四肢を拘束した。
魔力を活性化させて逃げ出そうとしたので、動けるようになる前に攻撃しようとして、駆け寄ろうとする。
「ジャック様、危ないっ!」
横から矢が跳んできたが、ヒュドラの双剣を振るってアデーレが叩き落としてくれた。
視界外からの攻撃だったので危なかったぞ。
矢がきた方向を見ると、逃げ延びたデュラーク男爵の兵が二人いた。
金属製の鎧を着ているので精鋭部隊の生き残りだ。
近づくつもりはないようで、矢をつがえて再び攻撃しようとしている。
「雑魚は私に任せて下さい」
アデーレは俺を守るために駆け出す。
生き残った精鋭部隊の兵は、標的を彼女に変更した。
放たれた矢はヒュドラの双剣で叩き落としているので、ケガをするような心配は必要ないだろう。
これで戦いに専念できる。
正面を見ると、影の拘束から抜け出したデュラーク男爵が、グレートソードを杖のように使って立ち上がっていた。
「ようやく抜け出せたのか。のろまだな。あの世で息子に再会させてやるから、さっさとこいよ」
人差し指をクイクイと前後に動かして挑発する。
煽るために嗤ってみせた。
「若造のクセに生意気なことを言いやがって。身の程知らずがッ!」
顔に血管が浮き出るほど怒ったデュラーク男爵は、グレートソードを前に構える。
「俺の領地を荒らした上に、失敗。借金まみれになった男爵よりかはマシだと思うが?」
「てめぇ……」
「おっと、すまん。ベルモンド伯爵に裏切られた件が抜けていたな」
今度は声を出して嗤った。
ジラール領を荒らして、なけなしの金で鍛えた兵を殺されたんだ。
この程度で溜飲が下がるはずがない。
もっと、屈辱的な言葉をぶつけてやりたい気分である。
「ジラールの小僧が素直に死んでいれば、こんなことにならなかった!」
「優秀な息子に怯えて家督を譲れなかった、無能なデュラーク男爵自身が敗因だろ? 俺に責任をなすりつけないでくれ」
「この野郎ッ!! ふざけるなぁぁあああ!」
ついに我慢の限界を超えたようで、グレートソードを前に出しながら走り出した。
速度は、それほどでもない。
ずっと全力で走り続けていたので、魔力や体力が尽きかけているのだろう。
そろそろ殺してやろうとヴァンパイア・ソードを持つ手に力を入れると、近づいてきた切っ先が物理的に伸びた。
これがデュラーク男爵の奥の手か!
狙われたのは、体の中心部だ。
体をひねって回避を試みたが、胸に突き刺さってしまい痛みが走る。
幸いなことに肋骨に当たって止まったようで、肺にまでは到達していない。
「ふはははぁ! どうだ!」
散々煽った俺に攻撃を当てて上機嫌に嗤いながら、グレートソードを押し込んでこようとする。
手で刀身を握る。
皮膚を切り裂き血は流れたが、気にしない。
魔力を全開放して身体能力を強化すると、押し返して無理やり体から離す。
ヴァンパイア・ソードを振り上げて、伸びきったデュラーク男爵の右腕を斬り飛ばした。
「いだああああ!」
クルクルと右腕が宙に舞って俺の頭上に落ちきたので、ヴァンパイア・ソードで突き刺し、血を吸い上げる。
手と胸の傷が塞がった。
初代が愛用していただけあって、便利な武器だな。
「ば、化け物……」
デュラーク男爵は怯えた表情を浮かべていた。
ヴァンパイア・ソードの能力は、この世界において異端といえる能力なのだろう。
生き血をすする魔物のように見えたのかもしれん。
俺が一歩前に出ると、デュラーク男爵は数歩下がる。
「俺を殺すんじゃなかったのか?」
「…………」
左腕で傷口を押さえているようだが、血は止まらない。
無言のまま、デュラーク男爵がさらに一歩下がると、メイドにぶつかる。
「おお! メディアよ! いたのか! 助けてくれッ!」
戦えない女を盾にするつもりか?
この状況で命令に従うはずがないのに。
バカな男だ。
「何をすればよろしいのでしょうか?」
「先ずは血を止めてくれ。その後は、俺が逃げる時間を稼ぐんだ!」
デュラーク男爵が何を言い出すのか興味があって見ていたが、最低な命令をしていた。
あのメイド――メディアが戦えるとは思えない。
時間稼ぎなんて不可能だぞ。
「承知しました」
メディアはスカートをめくると、太ももにくくりつけたナイフを取り出した。
助けてもらえると思ったデュラーク男爵は笑顔になり――首にナイフが突き刺さる。
「ガファ、ゴフッ」
血を吐き出しながら力が抜けて、デュラーク男爵は膝をついた。
「なぜ、って顔をしていますね。最後に教えてあげます」
メディアの口がデュラーク男爵の耳に近づく。
「実は私、デトレフと付き合っていたんです」
「……ッ!?」
「牢獄に入れた後、デュラーク男爵に隠れて治療しましたが……出兵直前に死んでしまったんですよ」
細かいことは分からないが、どうやらメディアの男をデュラーク男爵が殺してしまったらしい。
相当な怨みが、溜まっていたんだろうな。
復讐の機会を待っていたメディアは、今が絶好の機会だと思って裏切ったらしい。
口をパクパクと動かしていたデュラーク男爵は、失血により顔色が悪くなっていく。
このまま死なせてやろうと思ったのだが、ヴァンパイア・ソードが『食べたい』とうるさい。
仕方がないので、デュラーク男爵の腹を突き刺して血を吸うことにした。
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