ジャック様は、どうされるので?
その日の夜、アデーレからの報告により、野盗の一人がデュラーク領で賞金首になっていることが分かった。
俺はちゃんとデュラーク領に持っていき、小銭をもらうように指示を出す。
少しでも金は増やしておきたいから、こういったことにも手は抜かないのだ。
◆◆◆
後処理はルートヴィヒに任せると、翌日の昼には屋敷へと戻った。
遊ぶ時間なんてないので執務室で仕事をしていると、ケヴィンがやってくる。
「お手紙が二つ、届いております」
手渡されたので封蝋を見る。
一つはフロワ家のものだから、ヨン卿からの手紙だろう。
もう一つは……勇者セラビミアからだ。
お前のせいで領地が狙われたぞと遠回しに伝えたので、その返信が来たみたいだ。
どちらも気になる内容ではあるが、まずはセラビミアから確認しよう。
封蝋を割って中身を見る。
短い挨拶から始まると、ベルモンド伯爵や王家に対して「ジラール領には手を出さないでくれ」と伝え、理解してもらったと書いてあった。
チクリと文句を言った効果が出たな。
俺を狙っている勇者セラビミアであれば、周囲をけん制するように動くと予想していたのだ。
だが、デュラーク男爵だけは手を引かないそうである。
どうやら話を聞いてもらえなかったようだ。
俺の領地を手に入れようとして嫌がらせに使った費用が多いらしく、なんと土地を担保にして王家から金を借りているらしい。
今手を引いたら借金は返済できず領地を取り上げられてしまうので、後に引けない状況だと書いてあった。
追加の借金は出来る状態ではないようで、本当に余裕がないようだ。
捨て身になった人は何をするか分からない怖さがあるので、保険をかけていたほうが良いかもしれん。
勇者セラビミアに追加の手紙を出すか。
勇者本来の仕事にもなるから、きっと引き受けてくれるだろうよ。
勇者セラビミアからの手紙をテーブルに置いて、顔を上げた。
「デュラーク男爵は、今後も俺の領地を狙い続けるらしい」
「ほぅ……」
ケヴィンの目がすーっと細くなった。
静かに怒っているようである。
「ジャック様は、どうされるので?」
これは俺を試す質問だな。
様子見という判断をするか、それとも攻めるような判断をするかで、ケヴィンからの評価が変わりそうだ。
代々ジラール家に仕えているケヴィンからすれば、デュラーク男爵は絶対に許せない相手なので、弱気な判断をすると評価は下がりそうだが、無理はできん。
大義名分が必要だろう。
逆にそれさえあれば徹底的に叩きのめせる。
「もう少し周辺の情報が欲しい。そういえばカイルから情報は引き出せたか?」
セシール商会の代表だった男を地下牢にぶち込んで拷問しているはずだ。
もし、何か決定的な情報を吐いていたら、戦いを仕掛ける理由は見つけられるかもしれん。
「デュラーク男爵が関わっていることぐらいしかわかっておりません。攻撃を仕掛ける理由には足りないかと」
一度、カイルの状態を見に行ったが、爪は全て剥がされて骨も折られていた。
背中の皮はなくなっていたので、痛みによって仰向けには寝られない状態である。
拷問に抜かりはないこと確認しているので、本当に証拠は残していないんだろう。
「アイツは使えない男だったな」
「おっしゃるとおりですね。そろそろ処分しますか?」
「セシール商会の金を全て奪い取ってから、デブ男と同じタイミングで殺せ」
「かしこまりました」
カイルの息子であるデブ男は、金を巻き上げるために生かしていたが、用が終われれば毒殺でもするつもりだ。
財産や家族を奪われた男が俺のことを恨んで、襲ってくる可能性があるからな。
潰すのであれば徹底的にやる。
これが我が家の家訓だ。
「仕方がない、当面はデュラーク男爵を自滅させる方針で進めよう」
「自滅? どういうことでしょうか?」
「アイツは王家に金を借りて首が回らないらしいぞ。商人や有力貴族なら気づいているだろうから、あと一押しすれば破滅するだろうよ」
笑みを浮かべながら言った。
きっと今の俺は悪役の顔をしていることだろう。
「なるほど……具体的な案はあるのですか?」
「大方針は決めているが、詳細はこれからだ」
他の情報と合わせて精査してから、本格的に考える予定だ。
「計画が決まるまでは兵を鍛え、領地の安定を優先する。ケヴィンは引き続き、屋敷内のことを任せたぞ」
「もちろんです。ここはジャック様が安心して過ごせる場にいたします」
表情は変わらないので分からないが、まあ及第点は取っているだろう。
ケヴィンがどのような指示をしているのかは、ルミエやメイド見習いにからも情報を得ているので問題はない。
しばらくは継続して使う予定だ。
続いてヨン卿からの手紙を見る。
妻――ヒルデがジラール領に来る予定が書かれていた。
「どうやらヒルデが二週間後に来るようだ。それまでに部屋や歓迎の用意をしなければならん」
「お部屋は、どこにいたしますか?」
「ふむ……ユリアンヌとは離れた場所にしてくれ。他はお前に任せる」
部屋が近ければお互いに行き来してしまい、共謀する可能性もある。
物理的に離して、コミュニケーションを取りにくくしておくべきだろうな。
屋敷の外に離れを作って押し込むことも考えたが、流石に冷遇しすぎたと思って実行には移さなかった。
「それでは、ルミエにも伝えて準備を進めたいと思います」
「任せたぞ」
頭を下げてからケヴィンは執務室を出て行った。
「ふぅ……」
力を抜いて背もたれに寄りかかる。
アイツと話すと疲れるな……。
「悪徳貴族の生存戦略」は、Amazon等で好評予約受付中です!
面白いなと感じていただけたのであれば、ご予約してもらえると更新のモチベーションにつながります!




