6話 躊躇しないって決めてた
この話を書き上げたいだけで、書きました
幸せな時間が永遠に続かないように、不幸だって永遠には続かない、僕はそれを知っている
――だから、ヒビキが重症を負って冒険者活動が出来なくなったと聞いても、僕は慌てなかった
全力ダッシュで駆けつけた病院は、ゲートに併設されていて、検疫を受けたりダンジョンに入って何かしらの症状が出た時に収容される施設だ……その一室にヒビキはいた
寝ながら点滴を打ってたみたいだけど、僕が扉を開けたら、身体を起こして明るい声で出迎えてくれた
「よっこなたそ、来てくれたのか、暇だから家からゲーム持って来てくれよ」
笑顔で言っているけど、無理してるのがバレバレだ、顔色は真っ白で最悪だし、ただ身体を起こしただけなのに身体を震わせている
僕は呼吸を整えると、感情をなくしたような顔でヒビキを無理やりベッドに寝かしつけて問い詰めた
「何があったの?」
「あー…………蘇生バグだと思う、新規ダンジョンで死んだら、内臓とかが変質してた」
蘇生バグ……それはダンジョンの中で死んだ時に発生する、肉体の変質だ
前にダンジョンは異世界だと言ったけど、稀にその世界と親和性が高過ぎたり、逆に低過ぎる人が居る
そんな人がそのダンジョンで死ぬと、蘇生の際に異世界が肉体を適応させようとするんだ
冒険者がダンジョンで死ぬと、入った時の状態に戻されて蘇生される、それは絶対のルール
でも適応させようとする力が発生すると、お互いのルールが反発しあって、身体の一部だけがその異世界の物に変質して蘇生させられる事があるんだ
「治るんだよね?」
「わっかんねーや」
思わず聞いてしまった僕に、ヒビキは精一杯のカラ元気で答えてくれた
「そう…………なら、僕がなんとかする」
ヒビキは龍人だ、とても高い回復能力を持ってる
でもそんな龍人でさえ、変質した身体を治せるとは思えない、一部とはいえ、身体を違うものに作り替えられたんだから
例え変質した部位を切り取って再生させたとしても、再生されるのは変質された違う物になるだろう…………自然治癒や回復魔法では治せない、出来るとしたら、それは回復魔法を超えたナニかしかない
そして……僕ならそれが出来る
「その必要はねーぞ」
そう決心したのに、ヒビキは僕を拒絶した
「………………必要ないって、どういう意味?」
凄く嫌な予感を胸に、言葉が吐き出された
「私は冒険者を引退するんだよ」
頭が真っ白になって、僕なら治せるって言えなかった
代わりに口に出たのは、どうでもいい言葉
「……引退して、どうするの?」
「ほら、私はゲボかわいいしトークも上手いですからね、ゲーム実況とかをする配信者になりますよ」
「治せると、言っても?」
「強い力を持ってる、神様なら治せるらしいな……」
「うん、だから…」
「それを頼むのに、どれだけお金と時間が必要なのか……こなたそなら知ってるよな?」
知ってるよ、魔法でも治せない怪我や病気の順番待ちで、入信してない人は年単位で待たされるって
冒険者は怪我や病気は当たり前だから、もしもの時の為に調べて、ヒビキに説明したのだって僕だ
「………………考えは変わらないんだね」
「ああ…………悪いなこなたそ、私は誰かの足手まといにだけは、なりたくねーんだわ」
ニッコリと笑って、後悔はしてないみたいな顔をしてるけどさー…………――無理してるのがバレバレだって言ってるでしょ!!
もう頭きた!そっちが話も聞かずに勝手にするなら、こっちだって話さずに勝手にやるからね!
「分かった、そこまで言うなら僕が動けないヒビキの代わりに、フォロライフに引退するって申請して来てあげる」
「わりーなこなたそ、最後まで世話かけちまってよー」
「いいよ……その代わり、引退式を準備するから、そっちには這ってでも出てもらうからね」
「ははは、こなたそは人使いが荒いなー、こっちは病人ですよ」
「知らないよ!下手打ったヒビキが悪いんだからね!言っとくけどこれは貸しだかんね、絶対に返してもらうよ!」
「ああ、とびっきりの貸しだ…………いつか絶対に返してやるよ」
僕が背を向けて部屋を出ると、入れ違いで大勢のフォロメンが駆けて来るのが見えた
でも僕は何も言わずにすれ違う、ただ、今やれる事をやる為に
フォロライフ本社に行って、引退の申請をした
心の片隅で、引き止められるかな?と淡い期待をしてたけど、アッサリと引退は承諾されてショックだった……ドライだよね、まぁ仕方ないんだけど
フォロライフだって会社なんだ、冒険者の配信から利益を得ているんだから、損得勘定で動くのは無理はない……そう自分を納得させたんだ
引退式も二ヶ月後に決まった
本来はもっと時間をかけて準備するものだけど、ヒビキの容態がいつ急変するかわからないから、僕が無理を言って急がせたんだ
それからの二ヶ月は、端的に言って地獄だった、僕だけでなくマネージャーさん達もだけど
だって、元々二ヶ月で準備するのも無茶なのに、ヒビキの引退式をやると告知したら、フォロメン全員が出席するって言って来たんだから
あははははは凄い人気だよね、流石ヒビキだと思ったよ
……もっとも、そのせいで地獄のスケジュールになったんだけど
どんな式にするかもヒビキに任せたかったんだけど、時間もなかったから、煮詰めるのに僕とフォロライフ運営も加わった
ヒビキはまともに動けないくせに、フォロメンが全員参加してくれるなら、ダンジョンでレイド戦やろうとか、天下一武道会を開こうとか言うんだもん、そりゃ止めるよ!
設営の時間も足りないから、前半はご馳走を並べての座談会、後半はフォロメン有志による一発芸大会になった
これだけ聞いたらショボイと思うかも知れないけど、フォロライフの大人気配信者が勢揃いしてやるんだよ、ショボくなるはずがないんだよ!
企画を決めたら、後はやるだけなんだけど……いやー凄い凄い、デスマーチってこういう事を言うんだろうね
会場の建設の為に整地や資材集めしたり、みんながやりたい一発芸の為に必要な設備を追加したり、準備を手伝ったり、仕掛けの発注をしたり、寄せ書きを頼んだり、作詞作曲をしたり、我慢できなくて泣きそうになったり……たり、たり、たり
毎日毎日が大変だけど、僕が無理を言ったからこうなったんだ、他のフォロメンのサポートくらいしないと申し訳が立たないよ
だから、くったくたになって家に帰るのが日常になっていたんだけど、扉を開けると、いつものようにヒビキが出迎えてくれた
安静にしなきゃならないのに、今日もご飯の準備をして待っててくれたみたいだ
「ただいまーヒビキ、まーた起きてたの?ご飯は出前取るから作らなくていいって言ったのに」
「暇なんだよなー、この頃は身体の調子も良いし、飯くらい作らせてくれよ」
「嘘おつ、昼間妹街ちゃんからDM来たけど、お昼ごはん吐いたらしいじゃん」
「なぜ知ってる!私にプライバシーはないのですか?」
「病人にそんな物はありません、部屋で寝てなさいよ、なんか消化に良いものを作ってやるからさー」
フォロメン大先輩の妹街ちゃんは、僕達が借りた部屋のお隣さんなんだけど、僕が留守の間はヒビキの面倒を頼んでいるんだ
大先輩に頼むなんて内心とっても心苦しいんだけど、ヒビキがヘルパーさんを雇うのを嫌がったんだよね……知らない人を家に入れたくないって、駄々こねられた
こっちは、内臓が変質してるヒビキが心配なのに、聞きはしねー!
「ちょっと戻しただけなのに、大袈裟じゃありませんか?」
「そんな寂しそうな顔しても駄目だかんね、ほら部屋で待ってな、一緒にご飯食べてあげるから」
言いながら台所へ向かおうとしたら、ヒビキは済まなそうな声を出した
「疲れてるだろうに、ごめんな……我ながら不甲斐ないねーよ」
「ん?別に疲れてないよ、会場の設置とかでフォロメンと一杯会えるから、むしろ元気が有り余ってるくらいだよ」
から元気で強がりを言ったら、ヒビキが苦笑した
「…………おめーはやっぱりスパダリだな」
「いい加減その意味教えてくんない?」
「こなたそにだけは絶対に教えません!」
「おい!」
「それより、鍋焼きうどん作ってくれよ、お肉いっぱいのやつ」
「鍋焼きうどんって……はぁー、仕方ないなー、作ってやるから寝てな」
「ありがとうな、こなたそ」
微笑むヒビキに胸が傷んだ
……ごめんねヒビキ、本当は今すぐにでも治してあげたいんだけど、もうちょっとだけ待ってて
―――
――
―
晴天に恵まれた引退式
フォロメンの協力もあって、会場は想定以上の大きさになった
オープニングセレモニーでは、有志によって作られたヒビキの巨大石像が公開されて、飛べるフォロメンによる魔法合戦が行われた
詳しい話を聞いて無かった僕は、最初、空中からヒビキの石像へ攻撃が行われてビビったんだけど……魔法を受けた石像は、その部分に色が付いていったんだ
味気ない石の肌が、どんどん色鮮やかに染まっていって、あっという間に元気に微笑むヒビキの彫像へと色を変えた
そんな粋な計らいで始まった引退式は、本当に楽しいものだった
前半の会談は、ヒビキ一人だけ一段高い席に座って、他のフォロメンは同期でテーブル席で食事を楽しみながら、順番になったらカメラに映し出されて会話をする方式だったのだけど
何故か運営さんから、僕はヒビキの隣に介護として座らされた……なんか高砂みたいだけど、これ披露宴じゃないからね!
リスナーさんも、ご結婚おめでとう!とスパチャを投げるのはよして!
兎に角、集まったフォロメンと順番に話すんだけど、ほとんどのフォロメンが笑顔でヒビキを見送ってくれた……何人かは泣いちゃったけどね
ヒビキが最後まで楽しく笑ってお別れしたいと言ってたから、みんな最後まで馬鹿な話をしながら、笑って話をしてくれたんだ
因みに僕は、会談の写真を撮りまくってたのとヒビキの世話をしてたから、別れの挨拶はしてない
本当は同期と一緒に言うのが普通だろうけど、僕の順番は引退式の最後にしているからなかったんだ
他のフォロメンやリスナーさんから疑問を持たれたけど、大事な話をしたいからって押し通した
前半だけで疲れ果てたヒビキを車椅子に乗せて、後半の一発芸大会の会場へと向かう
事前に何をやるのか聞いてたから、屋内では建物が吹っ飛ぶと思って、野外ステージを作ったんだ
客席もステージ前に作ったけど、安心安全の超強力バリアで守られている
そこへの道を、ヒビキはかわるばんこに車椅子を押されながら進んで行く
もう前半が終わったのか、そんな感慨を胸に秘めて、大勢のフォロメンに囲まれて笑っているヒビキを、僕は愛しそうに眺めて移動した
後半のフォロメンによる一発芸大会は圧巻だった!
冒険者として配信してるだけあって、みんな見栄えが良い派手な魔法やスキルを持っているんだよね
空を星空に変えて流星雨の中で歌ったり、海賊船を召喚してステージを海に沈めたり
建築した僕としては、ちょっとは加減してよと言いたくなる一発芸の数々が繰り広げられたんだ
最後は幸運宇崎先輩による、巨大な打ち上げ花火で締め括られたんだけど
このフォロメンによる一発芸を見れただけで、僕は本当にフォロライフに入れて良かったと思える程だったよ
リスナーさんも大喜びでさ、もう胸がいっぱいになって、泣きそうになっちゃった
そして、とうとう僕の出番がやって来た
これで引退式も終わりになる、閉会式とかはやらないよ、だって意味ないもん
車椅子に乗せたヒビキを押して、僕はステージに登る
僕がやるの会談で言えなかったお別れの言葉と、一発芸だ
「こなたそは何をやるんですか?」なんて、ワクワクしてるヒビキには悪いけど、そんな面白い芸じゃないんだよね
きっと怒ると思うけど、我慢して見ててね
「とりあえずは、会談で話せなかったお別れの挨拶かな……ヒビキ泣かないでよ」
「泣かせるつもりですか!」
大袈裟に驚くヒビキに寂しげに笑いかけると、僕はステージの中央でヒビキと向き合った
静かな空間だ
周りは草原なんだけど、虫の声一つ聞こえない
空には傾いた太陽が見えるだけで、雲一つない青空が見える
懐から一通の手紙を出すけど、見たくない
これを読んだら、全部終わってしまうのだから……
手紙を持ったまま、時間だけが過ぎていく
僕の苦しそうな顔に、観客席のフォロメンがざわつき始めた
何分くらい黙っていたのだろう、その沈黙にヒビキも心配そうな顔で僕を見ているのに気付いた
……駄目だなー僕は、最後の最期になって、終わらせたくないと思うだなんて
ヒビキが何かを言いかけたのと同時に、僕は手紙を開いて読み上げた
「ヒビキへ
こうして手紙を書くのは初めてだけど、最後に形に残しておきたくて書きました
ヒビキは覚えてるかな?最初に僕の手を握ってくれた日の事を……あれでね、僕は救われたんだよ」
あの日の僕を、ヒビキは死にかけてる捨て猫みたいだと言ったけど、本当にそうだったんだ
「僕はね、ヒビキと出会えなかったら、もうこの世界にいなかったと思う、だって僕は天使だからね、行こうと思えば天界へ行けるんだ
まともにご飯も食べれない極貧生活よりも、天界で安らかに暮らそうと思っていたんだ
冒険者になったのだって、ただ一目、憧れのフォロライフの冒険者さんに会いたいだけだったんだよ……僕みたいな筋力しか取り柄がない女の子に、ファンが付くとは思ってなかったからね
だから本当はさ、フォロライフに入れて先輩達を見られたら、そのまま満足して消えるつもりだったんだ」
僕の言葉に、ヒビキだけじゃなく、集まったフォロメン全員も目を見開いた
「でもさ、ヒビキが構い倒すから、そんなの考えは無くなったんだよ
ヒビキが格好良く僕達の前を突っ走って行ったから…………その背中に追い付きたくて、その隣に並びたくて、頑張ろうって思えたんだ」
「こなたそ……」
だからさ、身体を壊して弱々しくなったヒビキなんて認めない
僕が憧れてたのは、絶対強者のようなドヤ顔で飛ぶヒビキなんだから
「今の僕があるのは、全部ヒビキのお陰なんだ
だからずっと前に決めてたんだ、もしもヒビキに何かあったら、僕は躊躇しないって
ヒビキ今までありがとう、僕が消えても一生仲良しなのは変わらないからね、これからも冒険者配信を頑張って下さい
引退する、小林こなたより」
「「「「「は?」」」」」
「「「あっ!」」」
ヒビキを含めてほとんどのフォロメンは、僕の言葉の意味が分からなくて固まったけど
僕と同じ天使の先輩や、悪魔の先輩と同期は、僕がこれから何をやるのか察して、ステージに駆け出した
でも、客席はバリアで覆われているから、出ることが出来ずに顔を歪めた
先輩達はバリアを叩きながら、止めなさい!と叫んでいるけど、僕は止める気はない
ツカツカとステージの奥に行って置かれたボタンを押すと、クルリと回って、集まってくれていたフォロメンとリスナーさんに向かって、大きな声で別れの挨拶をした
「みんな、今日は僕の引退式に来てくれてありがとう!僕は今日居なくなるけど、ヒビキは治して行くから心配しないでね!」
「こなたそ……おめー…………何言ってるんだ」
ヒビキはステージ上の看板を見ながら、信じられないって顔で、僕に問い掛けて来た
仕掛けは上手く作動したみたいだ、大きく書かれた【夜空ヒビキ引退式】の看板が、【小林こなた引退式】へと変わっているんだから
「ヒビキには教えて無かったけど、天使は天界へ行くのと引き換えに、一度だけ奇跡が使えるんだよ」
大切な人にしか使えないは秘密、恥ずかしいからね
僕の場合は、ヒビキへの想いが奇跡を起こすんだ
「…………まさか、その奇跡ってやつで、私を治すつもりなのか」
「そうだよ、ごめんね遅くなっちゃって……でもさ、最後くらい、みんなの記憶に残る事をしたかったんだ……さよならヒビキ、僕はこの世界から居なくなるけど、これからは天界から見守っているからね」
淡々と言う僕に、ヒビキは車椅子を動かして急接近した
怒ってるなー、初めて見たよ、こんな顔のヒビキは
「私がいつ治してくれなんて頼んだ!こなたそが居なくなるくらだったら治さなくていい……治らなくていいんだ!」
そんな泣きそうな顔で怒るヒビキに、僕は苦笑するように微笑む
「うん、ヒビキは頼んでなんかいないよね」
「そうだよ、だから止めろよこなたそ……居なくなるなんて言うなよ」
「ごめんね」
涙を流しながら頼み込むヒビキを、僕は謝りながら優しく抱き締めた
そして、そんなヒビキの温もりを感じながら――僕は最後の言葉を送る
「これは僕の我儘なんだ、本当は泣きたくなるくらい辛いのに、それを表に出さずに笑っている、そんなヒビキなんて見たくないっていう、僕の我儘なんだ………………だからさ、治させてよ、僕が見たいのは、元気いっぱいに冒険者をやってるヒビキなんだから」
言い終えると同時に奇跡を発動させた
決意は力となり、僕の背中のプラスチックのオモチャみたいな羽が砕け散って、中から大きな白い翼が現れた
片翼だけでも三メートルはありそうな巨大な翼、この大きさが僕のヒビキへの想いの強さでもある
「やめろよ、やめてくれよ」と泣くヒビキの言葉を無視しながら、巨大な翼を動かして僕ごとヒビキを包まこんでやる
こうして抱き締めていると、鼓動が聞こえるね、ヒビキの優しい鼓動が
白銀の光を放ち始めた翼が、羽根を撒き散らしながら少しづつ小さくなっていく
奇跡が発動しているんだ、僕の溜め込んだ想いを糧に、翼は輝きながらヒビキを癒やしている
とても綺麗なのに、舞い散る羽根はとても切なくて、まるでお祭りの終わりに上がった花火のようだ…………でもさ、舞い散る花火の残り火は、確実にヒビキの鼓動を力強くしてくれてるんだよね
ならさ、僕はその切なさが嬉しいよ
「こなたそ、お前……身体が……」
羽が短くなる程、僕の身体も少しづつ輝き出した
なんとなく分かる、天界が僕を召喚する準備をしているみたいだ
「何でこんな事をするんだよ……これが天使の無償の愛だとでも言うのですか」
ヒビキの言葉に僕は苦笑する、そんなはずないじゃんと思いながら、小さく首を振って否定した
「無償のはずが無いじゃん…………これは全部、ヒビキが僕にくれた物のお返しなんだから」
生きるのに疲れて冒険者になった日、「しょうがねーなー、私が一緒に居てやんよ」とヒビキが言ってくれたその時から
ヒビキは誰かと一緒にご飯を食べれる安らぎをくれた
くだらないお喋りが、こんなにも楽しかったものだと教えてくれた
一緒に歩いて、一緒に住んでくれて、一緒に笑ってくれて……僕がどれだけ救われたか知らないでしょ?
――だからさ、これは全部、ヒビキが僕の心を満たしてくれたお礼なんだよ
「お返ししなきゃならないのは、私の方だ……勝手に部屋に入って飯を作らせたり、無理やりダンジョンへ連れてって振り回したのに……」
それはどれも素敵な思い出だね
そっと抱き締めていた手を解き、僕はヒビキから身を離す
奇跡の手応えはバッチリだ、蘇生バグで青白かった顔も、元の元気なヒビキに戻ってる
良かった、これで心残りはなくなったよ
「ねぇ、ヒビキ」
「なんだよ……こなたそ……」
鼻声になったヒビキが僕を見る
翼が無くなり、もう今にもこの世界から弾き出されそうになった僕を、ヒビキは涙で一杯の目で見詰めている
そんなヒビキに、僕は配信用のチョーカーカメラを外し手渡しながら、ずっと言えなかった言葉を送った
「大好きだよヒビキ」
満面の笑顔でお別れを言えた瞬間、僕の身体はこの世界から消え去った
一瞬で天界まで行くのかと思ってたのに、違うみたいだ
僕は今雲の中に居る、まるで雲で作られたトンネルを、僕は猛スピードで上に向かって落ちている
もうフォロメンの声も聞こえない、リスナーさんのコメントも見えない
やりたかった事を成し得たのに、笑顔が曇って……心が重い
本当は分かってたんだ、こんな事をしてもヒビキは喜ばないって
だってあいつ、迷惑掛けたくないからフォロライフを引退するって言う奴だよ、自己犠牲で助けられても喜ぶはずがないじゃん
……でもさ、僕は本当に嫌だったんだ
憧れだったドラゴンが弱くなった事よりも…………ヒビキが泣くのを我慢して強がってた事が
だから治した、ありがた迷惑だって分かっていたけど、ヒビキを助けたくて止まらなかったんだ
「……たそ……聞こ……か……」
遥か下から声が聞こえた
もう雲しか見えないのに、あの世界から消えたのに、聞こえるはずがない声が聞こえた
「私は……諦めないぞ!……こなたそ!絶対に、絶対に、迎えに行くからな!ずっと一緒に居てやると約束したんですから!!!!!!!!!!!」
天界へと運ばれているのに、ヒビキの言葉が聞こえた…………ドラゴンの底力かな?それとも、これも奇跡?
驚きで固まった僕は、頬を伝う熱いものに気が付いた
最後まで泣かないつもりだったのに、この不意打ちは卑怯だよ
あーあ、やっぱりヒビキには敵わないや
こんな事、絶対に言うつもりなかったのに
僕は我慢できなくなって、声が届くと信じて、ヒビキへ向かって叫んでいた
「待ってるからね!例え何百年掛かっても、絶対に迎えに来てよ!!」
ゲートを使えば、無限にあるどの世界にだって行ける
だから理論上は僕が行く天界とだって繋がるはずだ、そしたら僕だって移民としてヒビキが居る世界に帰れる
問題は一つだけ…………確立が無限分の1だから、ヒビキが来れる可能性がゼロなだけだ
でもさ、僕は知ってるんだ
幸せな時間が永遠に続かないように、不幸だって永遠には続かないって
だからさ、待ってるよヒビキ!どれだけ絶望的な可能性だったとしても、ヒビキなら来てくれるって信じてるからね!
もちろん僕だって諦めない、だってヒビキが迎えに来るって言ってるんだもん、僕の方から行ってビックリさせるくらいの気持ちでやってやるんだから!
天界へと落ちていく、それはこなたの錯覚でした
でもヒビキの声で、それは駆け上がるに変わったんです




