第二章-③
何冊かの本を抱えて店に戻った時、町の向こうの地平線に太陽が半分ほど沈んだところだった。
「なんだか早いですねぇ」
リィナは紅い夕焼けに目を細めて呟いた。今日は一日、教会にこもって作業をしていたのだ。時間の感覚が少し狂ってしまっているようで、なんだか不思議な気分になる。
しかし、そう考えていられたのも少しの間。リィナはハッと我に返り、
「そうだ。晩御飯の支度をしないといけませんね」
いくら用事が立て込んでいるとはいえ、食事を抜くのはよくない。リィナは店へ歩く足を少し早めながら、今日の献立はどうしましょうか、などとのんきに考えていた。
何の事は無い、武器職人の弟子は常に師匠の献立にも気を遣わなければいけないからだ。
「ただ今戻りました」
「おお~お帰りぃ~」
「お帰りなさい」
店に帰ると、そこにはレムとロロが向かい合う形で座っていた。
「おや、ロロさん。こんな遅くまで、大丈夫ですか?」
「おや。ひょっとして、僕はさっさと退散したほうがよいでしょうか?」
「い、いえいえ。決してそういうことでは……」
「はは、分かってますよ」
ロロはそう言って肩をすくめ、
「でも、無理を言って長居させてもらっているのに、申し訳ないです。やっぱり、リィナさんは優しい方ですね」
「…………」
リィナはむすっ、と唇を尖らせて、
「ロロさんは、少し意地の悪い方ですね」
「はは、慣れっこですよ。こんな性分なもので、ご容赦ください」
「うふふ、ロロくんはやっぱりいい性格してるよねぇ」
レムはのんきに笑うが、それで納得いかないような不思議な気持ちになるのがリィナだった。
不機嫌そうに本を机にどかっ、と置いて、つかつかと台所に向かう。
「今日のご飯は何が良いですか?」
少しぶっきらぼうに尋ねるリィナに、レムは笑いながら答えた。
「ん~と、今日もちょっと夜遅くなりそうだからぁ、何か元気になるの~」
「分かりました」
短く告げて、リィナは料理の用意をするためにかまどに火をおこし始めた。
それからは流れるように、ぱぱっと料理を済ませてゆく。
石造りの保冷室から取り出した野菜を細切りにし、油を少し加えて炒める。この野菜はレムが山に行く時にたびたびとってくるもので、健康にも良い薬草のようなものだ。
それをいかにうまく料理するかはリィナにかかっている訳だが、その心配には及ばない。伊達に八年、こうして毎日厨房に立っている訳ではないのだ。
あっという間に料理は終わり、机に運んでいく。
「おお~、相変わらず美味しそうだねぇ」
レムが目を輝かせる一方で、ロロも目を丸くして感心の表情を見せていた。
「本当だ……へぇ、リィナさん、料理もなさるのですね」
「え、ええ。こう見えて、これしか取り柄が無いものですから……」
「ふふ、家事はリィナにまかせっきりにしてるからね~。そりゃあ上達するってもんだよ」
えっへん、と胸を張るレム。
「いや、お師匠様の手柄じゃないですよ? 私の日々の努力のたまものです」
「それをさせてるのは私なので、私の手柄ってことで~」
「どういう理屈ですか」
「上司って言うのは、得てしてそういうものなんだよ~。さ、分かったら働く働く」
ひらひらというレムに、ついにリィナは反論しないのだった。代わりにはぁ、と溜息を小さくついて、料理を運ぶことに戻る。
「苦労してるんですね」
思わずロロもそう漏らしてしまうほどだった。
「ええ、苦労してるんです」
「よければ手伝いましょうか? 作るまで行かなくても、運ぶくらいなら」
「いえ、ロロさんはお客様ですから。どうぞお掛けになっていてください」
苦笑しながら返すほかない。ロロは少し居心地が悪そうに、椅子に座って待っていた。
と言っても、そもそも運ぶ量はそこまで多くも無い。リィナ一人だけでも、すぐに食卓に料理を並べ終わった。
山菜炒めと、簡単に焼いたパン。なんとも質素な食事だが、これがリィナとレムの日常だった。
食べる量に困るほど貧窮している訳ではなく、むしろ騎士団という一大勢力を相手に商売を行っているので、懐はその辺の店よりも潤っている。だが、二人とも小食を好んでいるという理由で、こんな生活が当たり前になっていた。余計に食べるのは、身体によくないと分かっているからだ。
「ふふん、先人の知恵という奴だよぉ。必要なものを必要なだけ摂る。そうしてれば、人間は満足なのだ」
「東国の発想ですね」
ふと、ロロが口を開いた。
「あちらを旅していた時に、そんな話を聞いたことがあります。向こうの人はとにかく節制を重んじてますからね」
「ロロさん、詳しいのですね」
「ずっと旅をしてきましたから。先々で、いろんな人と触れあって、いろんな考え方に出会いました。凄く興味深い体験でしたよ」
紅い目を細めて、懐かしむようにロロは呟いた。
「楽しかった……ですけど、それでも探しているものには、なかなか出会えないんですよね」
「……」
思わず押し黙ってしまう。
やはり、魔武器というのはそこまで遠い存在なのだと、思い知らされる様だった。リィナの心に、少しだけ不安が生まれる。
今日から始めた書物の解読作業も、いくらかかるか分かったものではないのだ。いったい、いつになれば手が届くだろうか。
ぐ~……。
そんな暗い思考は、そんな音で中断された。
音の方向に目をやると、レムが「ぶー」と不機嫌そうに、しかし疲れたような表情をしていた。
「まずは食べようよー」
「はいはい、そうですね」
リィナは苦笑交じりに椅子に座り、
「では、早速食べちゃいましょう。ロロさんも、遠慮なさらず」
「恐れ入ります……」
申し訳なさげに目を伏せるロロに、リィナはふふっ、と笑いかけた。
「食卓が賑やかになるんですから、むしろありがたいくらいですよ」
「そうだよぉ。ロロくんも疲れてるだろうし、今のうちに体力つけちゃいな」
「……もう」
ロロはふと、それまでに無い明るい笑顔を見せ、
「そんな事言われたら、断れないじゃないですか」
食事は人が集まると、話が盛り上がる。
本当はそこにお酒があれば、とはレムの言葉。しかしリィナは国の法律でまだ飲酒できる年齢ではないので、その誘いに乗ることはできなかった。レムはそれをたびたび嘆いていたが、そうでなくとも話はそれなりに盛り上がるものだった。
特にそれは――旅の人間がいると、なおさら顕著だ。
「僕はここから、本当にずっとずっと東から来たんですよ」
「ソレイユよりも、ですか?」
「はい、そこから国を四つほど横切って」
「四つも、ですか?」
食べる手を思わず止めて、リィナは目を見開く。
国を四つ横切る。ロロの口調は、ちょっとした苦労話でもするようなものだったが、話だけ聞けばかなりの長旅であり、それだけ危険も多い。そんな旅をするのは、とんでもないことだ。
「でも、馬などを使ったりは……?」
「いえ、僕は馬には乗れませんから……そこまで器用じゃないですし、お金も無かったので」
「もごっもごふぁっふぇふごふ」
「お師匠様、飲みこんでから喋りましょうね」
リィナの言葉にレムはごっくん、という大きな飲みこみの音で答えた。
「じゃあ、ロロくんはどうやってここまで?」
「歩いてきたんですよ。それなりに時間はかかりましたけど」
「歩いて……って、どれだけ歩いてきたんですか!?」
がた、と食器が揺れる。リィナは思わず立ち上がってしまって、
「……し、失礼」
顔を真っ赤にしてもう一度座った。
「はは、リィナもまだまだ若いねぇ」
「だ、だって……! 四つ国を渡るだなんて、馬で休まずに駆けても、何十日かかるか……」
「それだけ時間をかけて歩いてきたんですよ。もうずっと、この旅を続けているもので」
ロロの口調は、まるで冗談でも言うように軽やかだった。
「本当に苦労してますよ、僕の友人にはね」
「然りですよ……そんな長旅を続けてきたなんて、知りませんでした」
「むぅ~、いくらロロくんが若くても、それは無茶かもしれないねぇ」
レムも珍しく重々しい溜息をついて、神妙に呟いた。
しかし、ロロは今では笑い話だとでも言わんばかりに笑顔で、
「確かに、楽な道じゃ無かったですよ。歩かないといけないし、目的の魔武器は見つからないし……どこかの戦争に巻き込まれそうになったことだってありますよ。けれど、今でもなんとかこうして無事でいるわけです」
「はぁ……」
溜息みたいにリィナは声を上げた。ロロはそれを見て「ごめんなさい」と申し訳なさそうに苦笑し、
「食事どきにするような話じゃないかもしれませんね。また別の機会にお話ししますよ」
それは、逆にロロは壮絶な旅路を送ってきたことを物語っている。
リィナは改めて、目の前にいる紅い目の青年のことが分からなくなった。そこまでして、どうして彼は旅を続けるのだろうか。
彼にとって魔武器とは、そこまで深い意味をもつものなのだろうか。
「ロロくん、ロロくん」
隣でレムが、もふもふと山菜を頬張りながら言った。
「じゃあ、ロロくんの道中での面白い話を聞かせておくれよぉ」
「えぇ、面白い話ですか?」
「むむぅ、そこまで長い旅ならひとつやふたつ……」
すると、レムは横目でリィナをちらりとみやって、ニヤっと笑う。
「……?」
リィナが首をかしげていると、レムは「ふふん」と笑って、
「途中で、女の人を引っかけてみたりとか……あるんじゃないのぉ?」
「なっ――」
無意味に顔を赤くするリィナ。
「い、今の意味深な視線とその言葉に、どういう関係があるんですかっ」
「んん~? 何のことやら、年寄りにはさっぱりだよぉ~」
「ぐぐ……!」
はめられた。リィナは悔しさと恥ずかしさで、ますます真っ赤になって俯いた。
「お師匠様は、ほんっとうに、嫌な人です……!」
「若い、若いよぉ。まだまだだねぇリィナ……で、どうなんだい? ロロくん?」
リィナを無視した問いに、ロロはこの上ない爽やかな笑顔で、
「そんな事あるわけないじゃないですか。僕、意外と人付き合いは苦手なんですよ」
「へぇ、そうなのかい? ロロくんだったら、言い寄ってくる女の人がいてもおかしくないと思うんだけどねぇ」
「随分と物好きな女性だと思いますよ、それは」
ロロは笑うでもなく、不思議そうに呟いた。
「現に、僕の友人にも変わり者の女の子は多かったですしね……そもそも、いわゆる『まともな人』は僕の周りにいなかった気がしますよ」
「ほほぅ?」
「僕に魔武器を探して来い、って言ったのも、その友人なんですけど……まぁ、その話もちょっと置いておきましょうか」
ロロはそう言って傍らのお茶を飲みこんでから、
「そうですねぇ……道中では、いろいろな事がありましたよ。例えば、大きな都市の教会に立ち寄ってみたりもしました」
「むむ? 教会?」
「ここから東で、大きな教会と言うと……ソレイユには無いはずですから、もっと東の方ですね」
東に隣接するソレイユ自治国は、その名の通り王政を持たず、国民達で自治をおこなっている。宗教も土着したものを信仰していて、トリニティ教団の不況も行き届いていない。
「そういえば、ソレイユの人達はとても独特の文化を持っていて素敵でした。まさしく、別世界って感じでしたよ」
「ほう……」
「ん~、確かにあそこの人達は面白いからねぇ。私達とは全然、違う生活をしてるから」
むぐむぐ、とレムが呟く。
「ロロくんも、さぞ戸惑ったことだろうねぇ」
「そんな事ないですよ? むしろ異文化に触れることは楽しいことですから」
「好奇心旺盛だねぇ」
「ははは、そうじゃないとやってられないですよ、こんな旅」
珍しく乱暴な言葉を使うロロに、リィナは少し驚いた。
もとい、とロロは話を元に戻し、
「やっぱり、大きな教会には興味深い資料がたくさんあって、いい勉強になりましたよ。神話時代の戦記とか、その当時の人々の暮らしをつづった歴史書とか……流石に魔武器の情報までは、探し出せませんでしたが……」
「まぁ、教会の総本山はここから西の方だからねぇ。規模が大きくても、末端のほうに資料の質を求めるのは酷かなぁ」
「そうでしょうか?」
ふと、リィナは口を挟んでしまう。
「魔武器って、あちこちに伝承が残ってるじゃないですか? つまり、それだけ各地に散らばってるのなら……逆に、教会の中心部には無い情報も集まってるんじゃないでしょうか?」
「ほほう……一理あるねぇ」
「そうなんですよね。僕もそれを期待して、あちこちの教会をしらみつぶしに探ってたんですけど……やっぱり、簡単に残っている訳じゃないみたいです」
苦笑するロロに、リィナも「そうですね」と頷く。
「神話や戦記は大量に残っているし、その中に魔武器の記述らしきものを見つけることも出来ましたけど……やっぱり、魔武器そのものの現在の在り処を探るとなると、手のつけようが無いですからね」
「だからこそ、しらみつぶしに見て回ったりしてたんですけどね。人の世は、そう上手くいかないようで」
「そうですよねぇ……」
もくもく、と野菜を頬張るリィナ。
「不思議なものです。探しているものって、探しているうちは見つからないんですよね」
「……はい?」
不意の呟きに、ロロが目を丸くする。リィナはゆったりと微笑んで、
「昔、母から教えてもらったんですよ。一旦無くした者は、血眼になって探しても、探している間は絶対に見つからない。そのくせ、探すのを諦めてそれを忘れようとした時になって、ひょいと顔をのぞかせる」
「まぁ~ったくその通りだよ」
レムもうんうん、と頷いて、
「この町に来てから、何度となく無くした小銭の一枚、二枚……」
「そのせいでお師匠様に禁酒を言い渡したんですよね。いい思い出です」
「私はもう思い出したくも無いよぉ~……うう、リィナ。お酒ちょうだい」
「お酒なんて、客人の前で失礼でしょう」
「いえいえ、お構いなく。お酒なら僕も、少しは呑めますから」
「ロロさん、うちのお師匠様を甘やかさないでください。こう見えて年寄りなんですから」
「ぶ~」
レムはいたって不機嫌そうに唇を尖らせて、それから唐突に笑顔になり、
「ごちそうさまっ」
ぱん、と手を合わせて高らかに言った。皿の上の料理は綺麗に平らげられている。
「ん~、今日もリィナの料理は美味しかったよ。お酒があればもっと美味しかったけど」
「何と言われても、お酒はしばらく買いませんよ。高いんですから」
きっぱりとリィナに言い放たれ、レムは「ううう~……」とうなだれる。
「お酒ぇ~。お酒ぇ~」
「我慢してください。ほらほら、暇ならお皿を下げてください。桶の水につけておいてくださいね」
「は~い……」
皿を重ねて、すごすごと台所に消えていくレムの背中は、いつもより大分小さく見えた。
「やっぱり、面白い人ですね、レムさん」
ロロがリィナにそう告げるも、その顔にはにやにや、とした笑みが浮かんでいる。
「からかわないでください。いろいろ苦労が多いのです」
「そこにもうひとつ、僕が大きな苦労を持ちこんできたわけですからね」
「ロロさんのそれは苦労に入りません」
リィナは首をかしげるロロをしっかりと見据え、
「ロロさんが私達に持ち込んできた『依頼』ですから。全うするのが私達の役目です」
「…………」
「それに、私にとっても貴重な勉強の機会です。ロロさんにもしっかり、協力してもらいますからね」
リィナの言葉に、ロロは懐かしむように目を閉じて、
「本当に、リィナさんは仕事が好きなんですね」
「ええ、それはもう。私の誇りですから」
くすくす。
「ですから、ロロさんの依頼も、きっちりこなしてみせます。……と、いっても未熟者ですから、ロロさんにお師匠様、ラウルさんの協力が必須ですけど……」
「……リィナさん」
優しい声に顔を上げると、紅い目の青年は、優しく微笑んでいた。
「図々しいですけど、よろしくお願いします」
「はい」
○
「では、今日の成果を報告し合おう~」
夕食を終え、まっさらになった食卓に三人が座る。レムののんびりとした宣言に、リィナとロロの表情が引き締まる。
「じゃあ、リィナから」
「はい」
リィナはしっかりと返事をして、
「教会の書庫で、主に神話や軍記をラウルさんとひっくり返しています。その中で、魔武器の物と思しき記述を見つけました」
「おお!」
レムが思わず声を上げる。
「どんなのだい?」
「えと……確か……」
リィナは記憶を探りながら、なぞるように言った。
「天使の鍛えた剣が、風を纏って悪魔を滅す――という旨の記述だったと思います」
ぴくり、とロロの眉がわずかに動いた。
「風……ですか?」
「は、はい。天界大戦での、人と悪魔の戦いを描いていた伝記だったので……恐らく、魔武器に関するものだと思っていいと思います」
「それで? 他には何か見つかったかい?」
「う~ん……それが」
「……やっぱり、詳しいことまでは何も描かれていなかったですか」
「はい……」
しゅん、と肩をすくめるリィナに、ロロも申し訳なさそうな顔をした。
「むぅ~。教会の蔵書なら、何かあると思ったんだけどねぇ……」
腕組みしたレムが、難しい顔で唸っている。
「すみません、今日一日ではこの情報が限界でした」
「ふむむ……了解だよぉ。リィナは引き続き、ラウルちゃんと一緒に情報収集に当たって頂戴」
「分かりました」
やはり、今後もやるべきことは地道な作業だ。リィナは遠大な道を歩もうとしているが、道なき道を進む訳ではない。それだけでも僥倖。
「お師匠様たちは、どうでしたか?」
「うむ、ロロくんのこれまでの情報を聞いてみて、それから私といろいろ話し合ってみたんだけどねぇ」
「僕が旅の道中で得た見聞は、多くても具体性に欠けているようで……」
ロロは真剣な表情で顎に手をあて、
「一本の剣が切り裂いた、という二つに割れた山であったり、槍が穿ったという大穴であったり。『魔剣』が封じられているという洞窟や、現物を保管しているという人の家にも行ってみました。ですが……」
「どれも信憑性に欠けるものばかりらしくてねぇ。伝承の残る土地にも確証を得られる手がかりはないし、現物があるっていう話もだいたい贋作だったみたい」
「かと言って書物などには、そういった伝承が残っていることも無く……結局、多くの場合はそんな風に魔武器そのものに繋がる手掛かりは無かったです」
「ふむむ……」
いよいよもって八方ふさがりだ。リィナは金髪をかき上げて、
「お師匠様、どうしましょう?」
「う~む……」
「このままだと、いよいよ八方ふさがりのままで進展が無い可能性も……」
「……何かしら、新しい手がかりがあれば良いんだけどねぇ。となると、一番手っ取り早いのは……」
「書物をひっくり返すこと、ですか」
「ですね」
ロロも頷く。レムが流れを引き取って、
「うん、そうだねぇ。じゃあ、担当はこのままで行こう。リィナは教会で、私とロロくんで家に残って調べてみるよ。もし用事があったら、各自で行動するってことで。良いかな?」
「異論なしです」
「僕もそれでお願いします」
「決まりだね」
レムはそう言って笑うと、ふわわぁ、と大きな欠伸をした。
「それじゃあ、今日はこれでおしまい~。解散っ。お疲れ様~」
「お疲れ様です……」
「ありがとうございました」
それを皮切りに、ぷっつりと緊張の糸はほどける。レムはうつらうつら、と部屋まで戻ろうと立ち上がり、リィナは大きく背伸びをする。ロロも外套を羽織り直して、出口へ向けて歩き出す。
「ロロさん、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。では、おやすみなさい」
「明日も頑張りましょう」
無言で頷くロロが店を出るのを見送って、リィナも自分の部屋に戻った。
「おやすみなさい、お師匠様」
「夜更かししないでね~」
レムと別れ、リィナは自分の部屋に戻って倒れ込むようにベッドに横になった。
体中が鈍く痛む。本を読むことはかなりの重労働だったらしい。おまけにそれを、わずかな一文字の手がかりも見逃すまい、と集中していればなおさらだ。
「ふわわぁ」
レムと似た大きな欠伸をして、リィナは眠りに就こうとした。
「明日も頑張らないと……」
そう呟いた瞬間、不意に、ロロの言葉が脳裏をよぎった。
――本当に、リィナさんは仕事が好きなんですね。
「……とうぜんです」
朦朧とする意識の中で、リィナは呟いた。
「私は、職人、なんですから……」
それを最後に、今度こそ、リィナの意識は闇に落ちて行った。




