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聖者のお務め  作者: まちどり
14/197

14.周囲探索(12.8)

 数多ある作品の中から選んでいただきありがとうございます。

 <(_ _)>


 森に近付かない程度で周囲を散策する。


 『教会には近付かないで』とは正しい判断だな。暖かい陽気なのが、その建物からは冷たく刺すような気を感じる。一人で立ち寄れば、何か良くないものに取り込まれそうな雰囲気だ。忠告通り、今は無視する。


 住宅の裏の方に小屋が大小3つ。厩舎と鶏小屋?と物置小屋だな。厩舎と鶏小屋は荒らされて酷い状態だ。使えるように掃除して、馬はここに連れてこよう。鶏は全滅か。お?これは……玉子だ。1個だけ無事だったんだな。アスタロトは食べることが好きなようだから、これを見た時の反応が楽しみだ。さて、片付けでもするか。




 後片付けと掃除で厩舎と鶏小屋がいい感じになったのと同時に、俺も汗と埃でどろどろになっていた。さすがにこのままで建物の中に入るのは憚るので、井戸の水で軽く汗を流す…のを躊躇する程度には冷たいなぁ。ま、手早く流してさっさと中に入ろう。寝室に朝使った手拭きがあるはず。


 と、水垢離をしていると、冷たかった水が仄かに温かくなる。つるぎを見るとほわほわと反応する。

「剣、ありがとう。お陰で風邪を引かずに済む」

 流し終わると、今度は身体と服を乾かしてくれた。アスタロトに似て優しい奴だ。お礼に布で磨こうと、寝室まで手拭きを取りに行く。彼の様子も見ておきたい。あぁ、ぐっすりと眠っているな。起きている時とまた印象が違うが、きれいでかわいいことには変わりはない。ずっと見ていたいが俺の気配で起こしては申し訳ないので、また後で、と退室した。


 昼の時間はとっくに過ぎたが、先に剣をピカピカに磨く。剣は何か不安なのか心配そうにふわふわと語っていたが

「お前を綺麗に磨き上げたら、安心して飯が食える」

というと大人しくなった。

「俺もロトのようにお前の言葉がわかるといいんだがな。まぁ、長い付き合いになるんだろうし、今も何となくだが気持ちがわかるから、その内、だな。これからもよろしく頼む」

 剣もほわんと同意した。


 さて、飯だ。朝の具だくさんスープを剣に温め直してもらう。上機嫌だな。こっちまで嬉しくなる。一人前とちょっとの量だったのは、朝、俺が大量に食ったからか。

「そういえば、剣は食事というか力の補充はどうしているんだ?」

 剣はほわほわと反応する。たぶん、大丈夫と言っているようだが

「もう少し詳しくわかると良いのだがな。いや、俺が精進すれば良い話だ」

 剣はほわっと反応した。頑張れ、とでも言ったのだろう。


 傍目で見たら、独り言を言ってる変な奴なんだろうなぁ。だがここには俺と剣と、アスタロトしかいない!そう思うと、食糧問題さえ解決出来れば、ここは天国にも勝る場所となる可能性もあるのだな。


 食器等を片付けて、台所と食品庫を探索する。さっきのスープに入っていた、芋と玉ねぎと干し肉、干し茸、乾燥野菜……。これだけあれば二人で二週間は過ごせそうだ。もっともそんなに長い間ここに留まるかどうかは疑問だが。


 時間が経つにつれ、わからないことが積み重なっていく。が、ふとアスタロトの言葉を思い出した。


「まずは自分が生きることが第一で、どうせだったら楽しく暮らしたい」


 彼のこの言葉を聞いた時、逞しいというか格好いいというか……凄いなと純粋に感じた。自分というものをしっかり持っているというか。

 初対面の時もそうだ。いきなり訳もわからず不穏な空間に一人ぽつんと置かれて、だがその後に来た強面の男に「落ち着いてお話ししましょう」なんて、何故そんなに優しく暖かい対応が出来る?俺では絶対無理だ。思い付きすらしない。……人としての器が大きいのだろうな。依り代に選ばれる程に。

 その楽しい暮らしには俺の存在も含まれていると思いたい。一緒に居ることを願うのならば、俺もせめて自分が出来ることを誠実にやっていこう。


 住宅の探索を進める。中規模の村長の館位の規模か。アレが言うところの人間共の拠点だな。常時詰めているのは2~3人という所で、今回は俺の捕獲のために多くの人を連れて来た、という感じだろう。それにしても物資が少ないな。服の跡から推測すると、呼び出された所からこの拠点まで、少なくとも70人くらいは居たのではないか?近くに転移門のような物があるのだとすると厄介だな。


 アスタロトを一人にしているのが急に不安に感じた。彼の結界のおかげで侵入出来る者はいないだろうに。


 寝室の扉を開くと仄かに甘い香りがした。不安な気持ちが瞬時に消えて、なんとなく嬉しくなる。自然と笑みがこぼれる、と言うと微笑ましいのだろうが、現実はむさ苦しいおっさんがにやけているだけだな。誰が見ている訳でもないから気にしないが、ちょっと不気味だろう。などと思いつつ、彼の様子を見てみる。


 はぁ。相変わらず かわいい。ずっと見ていられるなぁ。ん?先程見た時と寝姿が変わらない?寝返りを打たないのか打てないのか。どちらにしても寝ていて苦しくはないのだろうか。しかしせっかく眠っているのを起こしてしまうのもどうかと思うし。と逡巡を巡らしていると

「なんだっけ?」

と彼が呟いた。


「お、目が覚めたか?」


 まだしっかりと目が覚めた感じではないな。アスタロトの頬に掛かった髪を払うと

「美味しい温州ミカンの酸っぱ味が強いの」

と呟く。

「うんしゅう…はわからんが、お腹が空いているんだな」

「……おはよ?」


 空腹を感じるのは、生きている証拠だ。彼の頭を撫でながら、彼がちゃんと生き物として存在しているという事実に今更ながら感動する。


「じゃあ、夢の中での邂逅、とか言うと格好良すぎか」

「何か夢に出てきたのか?」

 誰だそんな羨ましいことする奴は。

「魔神ちゃん改め分身体さん。私と混ざる予定だったと言ってたから、今は違うのかな」


 アスタロトはよいしょと身体を起こすと、俺と目を合わせた。


「好きにやって良し。人間共は気にするなって」

「好きにやって良し?」

「私とガンダロフがこの世界で幸せに過ごしてくれればそれでいいって。倫理観とかは任せる、だっけ」

「なんだそれは……分身体とはアレか。放任も度が過ぎないか?」

「『アレ』呼ばわりはなんか悲しいな。たぶん私の一部だよ。混ざってないだけで」

 自分が非難されたように感じたのだろうか、少ししょんぼりとしている。

「そうか……そうだな。済まなかった」


 俺にとってアスタロトとアレは全くの別物だったのだが、彼の中では違うらしい。確かに鞘と剣帯を作ってくれたり、俺があの場所にいた理由を教えてくれたり。何よりあのままでは消えて無くなっていたであろう彼を取り戻す術を調えてくれたのは、たぶんアレ、分身体だ。


 アスタロトはベッドから降りて窓際から外を見ている。何を見ているのだろう。


「『幸せ』に過ごす。『幸せ』って」

 ぽつりと呟くと、両手の平を合わせて目を伏せ何か呟いている。陽の柔らかい光が当たって、神秘的な絵画を見ているよう。そのまま別の、俺の知らない場所にいってしまうのではと不安になる。そんな訳無いのに。彼の合わせた両手を挟み包むように俺は両手を重ねた。暖かい。甘い花の香りが漂う。


「ガンダロフの『幸せ』は?」

 アスタロトが顔を上げて聞いてくる。黒い透き通った瞳の奥に無数の星が煌めく。

「今、手の中にある」

 身体の奥から熱いモノが湧き出して全身を巡り、顔も身体も熱くなる。釣られたのか、彼の顔も赤く染まっていく。そしてはにかんだような笑顔で

「じゃあ、なくさないようにお互い気を付けようね」


 無意識に抱き締めていた。離したくない。離さない。誰にも渡さない。俺の、俺だけのかわいい人。甘い香りが濃くなってきて頭の頂点が痺れてくる。好きだ。


「ずっと一緒にいる」


 読了、ありがとうございます。

 <(_ _)>

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