13.お姫様抱っこ(12.3)
数多ある作品の中から選んでいただきありがとうございます。
<(_ _)>
「だから巻き込んで悪いのだけど」
アスタロトは顔を上げて俺と目を合わせる。先程よりは落ち着いたか?
「私が聞いた声、そのまま話していい?こんなに嫌な気持ちになるとか胸の奥がグラグラする程気持ち悪いのとか、もしかしたら私がおかしいのかもしれないし」
もしそうだとしても、彼が激怒する程、不愉快な思いをしたことに変わりはないだろうが。
「俺も、何が君の逆鱗に触れたのか知りたい。嫌な思いをさせるが、話して欲しい」
彼の瞳が少し陰る。言葉を口にする以前にそのことに触れることにすら凄い嫌悪感があるのだろう。しかし覚悟を決めたのか、目を伏せてふぅ~っと息を吐き出すと静かに話し始めた。
「『やっとここまで来たぜ~。聖女ちゃん、かわいい子だといいなぁ』…ここまでは特に何も思わなかったんだけどね」
彼はもう一度息を吐き出した。
「…『クソジジィ達の玩具にされちまうのは悔しいが、その内俺も種付けくらいやらせてもらうか』……」
『玩具』とは、召喚した人間のことか?俺が何故あの場所にいたのかを説明したアレは、今回は外の世界から選んだと言っていた。では、それ以前はこの世界の者を召喚していたということになるが……。
「人間ではないのかもしれんな。同じ『人』として扱うつもりは微塵も感じられない」
ただ、同じ人種でも他人を家畜か道具のように扱う奴等は存在するかもしれんがな。
彼は俯いたまま、低い声で話す。
「人間とは違うモノだとしても、生き物を『おもちゃ』呼ばわりするその精神が嫌い」
「……もし、俺があのまま呪いに縛られてしまってたら」
「それは無い。私が許さない。世界が望んだとしても、私は許さない」
アスタロトは淡々と、だが硬く低い声で冷たく言い放つ。もしかしたらと思ってはいたが、彼がこんなにも激怒していたのは俺の身を案じてのことだったのか?それは自惚れ過ぎなのではとそれ以上は考えるのを止めていたが、俺が玩具扱いされるかもしれなかったのを今、はっきりと『許さない』と言ってくれた!
腹の奥底から熱いものが湧いてきて身体中を駆け巡る。熱い。あまりの嬉しさと身体の火照りで叫びだしそうだ。俺はアスタロトを膝の上に乗せて抱き締めた。俺のかわいい人。あまりの怒りの所為か彼の身体は冷え切っていて、胸がチクリと痛む。が、それ以上に嬉しさと愛しさが勝って、熱が収まらない。
やがて俺の熱が伝わったのか、冷えて硬くなっていたアスタロトの身体が暖かく柔らかくなってきた。甘い香りが漂う。あぁ、彼の香りだ。もう『好き』が止まらない。
彼の身体が十分暖かくなった頃合いで声を掛ける。
「俺は非道い奴だな」
「なんで?」
「君が『許さない』って言ったことが凄く嬉しい。君はこんなに怒っているのに……心無い言葉で傷ついたというのに」
彼の身体が何かに反応したように熱くなってくる。甘い香りが濃く強く漂う。はぁ、暖かくてかわいくて気持ちいい。食べてしまいたい。いや、それは駄目だろう!今はそんな場合じゃないし、無理強いはしたくない。俺自身の熱が収まるよう、じっと静かに息をする。
しばらくして腕を緩めると、アスタロトも緊張が解けたのか、ほぉ~~っと息を吐いて呟いた。
「なんだか、嫌な気持ちだとか怒ってたのとか、全部ぶっ飛んじゃった」
「そ、そうか。それは…良かった?」
「うん、ありがとう」
彼は力が抜けてしまったのか、俺の肩に頭を預けてくてっとしている。
「疲れた。眠い」
膝から降りる気は全く無さそうだ。なんて無防備な……試されてるのか?はぁ。しっかりと休ませた方が良いな、お互いのために。
「余りよく眠れなかったんじゃないのか?」
俺は彼の後頭部を撫でながら訊く。触り心地が良い。彼も気持ち良さげに目を細める。
「眠ったよ、少しわぁ~っ」
そのままアスタロトを横抱きにして立ち上がる。これがいわゆる『お姫様抱っこ』か。彼がびっくりして首に抱きつく。顔が近い。恥ずかしくて直視出来ないが、うむ、悪くない。そのまま俺が寝ていたベッドへと向かう。
「眠気、吹き飛びましたので降ろしていただいてもよろしいでしょうか?」
耳元で囁くようにお願いされる。くすぐったくて顔がにやける。
「またすぐ眠くなる。君の用意したベッドはとても寝心地が良かったから」
大人しく運ばれていくので観念したらしい。と思ったら
「ガンダロフにお願いがあります」
「ん?俺に出来ることであれば何でも」
頼られるのは嬉しい。彼はむにむにと何かを小声で呟いたが、ふぅっと息を吐いて話し始めた。
「1つめ、教会には近づかないで」
「教会があるのか」
「うん、地下が危険地帯。私が起きてから一緒に行こう?」
「あぁ、わかった」
教会は後回しだ。
「2つめ、馬さん達がテントにいると思うから、面倒見て欲しい」
先程の話にもあったな、馬。
「あぁ」
「3つめ、朝ごはんのスープ、お腹空いたらちゃんと食べて。取って置いても悪くなるし、無くなったらまた作るし」
どれだけ寝入ってしまうかわからない、ということか。そうだな、いろいろ無茶をしているだろうからな。
「うん、それだけか?」
「4つめ、森の方には行かないで。狼さん達が群れてる。ここは結界を張ってあるからたぶんもう来ないけど」
この周囲に結界を張ったのか。相変わらず凄いことをさらっと言う。
「あぁ、気を付けておく」
何か会話でもしたのか、剣がほわほわと反応する。すると彼は満足したのか、目を閉じてふぅ~~~と息を吐くと、そのまま眠ってしまった。
だから、無防備過ぎないか?かわいいし、信頼されている証拠だと思うから凄く嬉しいが。頑張れ、俺の理性!……はぁ…。
アスタロトをベッドに寝かせてから、応接間に戻る。さっきぶん投げられたノートを回収しておかないと。それから馬の様子を見に行こう。
外に出る。もう随分日が高い。周囲は所々馬が襲われた跡が残る。死体は全て狼が持って行ったのだろう。テントは……あれか。洞窟内で見た物と同仕様だ。テント前に飼い葉と水が用意されてある。あまり汚れた感じは無い。が、直射日光は良くないな。テントの出入口は開けてあり、そこから中を覗く。いた。馬2頭、黒毛と栗毛。栗毛の腹が随分大きい。俺がテントに近付いた時から警戒していたのだろう、2頭とも目が合う。
「ちょっと中に入らせてもらうぞ。」
飼い葉と水が入った桶をとりあえずテントの中の出入口近くに移動させる。配置場所は後で考えよう。
2頭が居る場所と反対側、テーブル等が寄せてある方に行く。大雑把に寄せてあるだけで壊れてはいないようだな。衝立の奥は簡易ではあるが、机と椅子とベッド。お、ペンとインク壺がある。他に有用な物は無さそうだ。彼の指摘通り、こいつらの物資は少ないように感じる。やはり魔法的な方法で収納しているのだろう。……食糧が見つからないのは痛いな。ん?旅行鞄か。それにしては小さいが……開かない。そう重くはないが、ここに置いておこう。後で彼と相談だな。『開ける』一択だろうが。
馬の様子をもう一度よく見る。警戒・緊張はそう強くはないな。怪我はアスタロトが魔法で治癒したと言っていたからおそらく大丈夫。
「また、後でくる」
と声を掛けて外に出た。
森に近付かない程度で周囲を散策する。
読了、ありがとうございます。
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