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勇者と聖女のとりかえばや ~聖女が勇者で勇者が聖女!?~  作者: 星野 優杞
勇者アキレアと聖女フリージア
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星降る花畑の時計塔

最終回です!!ブックマークや評価、ありがとうございました!!

本当は昨日終わるかな?と思ってたんですが、想像以上に長くなりました……。

そして最終回の今回も長めです。魔王戦後日談って感じになっております。

真っ暗な空にはキラキラと星が輝いている。

足もとに咲くピンクや薄紫の花は仄かに光っている。


「じゃあ、私たちはこの辺にいるから、2人で登ってくるといいよ。」


アキレアがそう言って微笑んだ。


「行ってらっしゃいませ。」

「うん。……なんで俺もここにいるんだろうね?もうただのダブルデートでよくない?俺をつき合わせる意味ある?」


ライが何か言っているが、久しぶりの外出の機会なんだから皆で来たいだろう?


「じゃあ行こうか、フリージア。」

「ああ。」


まだその名前には少し慣れていないけれど、俺はアストロンに手を引かれて、半透明の水色の時計台を登ることにした。


「うぅ……。スカートってかわいいけど動きづらいよな。」


時計台を登るのに、スカートなんて履いてくるんじゃなかったと後悔する。


「じゃあ僕が運んであげるよ。」

「うわっ!!」


いきなり抱き上げるのは驚くからやめて欲しい。いや、ここ最近しょっちゅう抱き上げられるから微妙に慣れてきてしまっているが……。

文句を言う前にアストロンは俺を抱き上げたまま上機嫌で時計塔を登っていく。

ここは約半年前に見張りのおじさんに、半年後に来るのをおすすめされたあの時計塔だ。


(アストロンに初めて好きって言われたところ。)


あの時のことを思い出して思わず口元を手で覆ってしまう。一連のことを思い出すと今でも恥ずかしくなる。


半屋外の最上階でアストロンはようやく俺を降ろしてくれた。


「良いものってなんだろうな。」

「うーん。とりあえずさっきより星が近くなった気はするかな。」


夜だから暗くて海とかは見えないけれど、アキレア達がいるであろう花畑はピンクや薄紫に光っていて、風で揺れる感じがとても綺麗だった。


「なんだかこうしてると、あの日城の庭園で踊ったことを思いださない?」

「ああ、あったな。そんなことも。」


あの日の俺は、夜の暗さの中で見る同じくらいの身長のアストロンが男性っぽくってドキドキした。

そしていつか、彼が他のもっと女性らしい女性の手をとるのだろうと苦しくなっていた。


今のアストロンは俺より身長が高い。見上げなきゃいけないのは正直今でも少し悔しい。

アストロンはわざとらしくにっこり笑った。そしてそのまま頭を下げ、俺に手を差し伸べる。


「一緒に踊ってくれませんか。」


それは、あの時と同じ言葉。


俺はあの時とは違う。

ちゃんとフリージアで、そしてこれからもずっと彼の傍にいる権利を得ている。

それなのに


(相変わらず緊張するのはなんでだ?!)


いや、当たり前と言ってしまえば当たり前かもしれない。

好きな人の手をとるのはいつになっても緊張するものじゃないか?


まあ、あの時と変わらず、アストロンの手をとらないなんていう選択肢はないのだけれど。


手を重ねれば、花開くようにアストロンが表情を崩した。きっと俺の顔も同じように緩んでいるに違いない。

つい先日行った婚約発表の時に踊った曲のメロディーを口ずさみながらステップを踏む。




「勇者と聖女は、私の命令により、入れ替わっていたのだ!!」


そう大々的に宣言したのは王様である。

魔王の手から勇者と聖女を守り、魔王を欺くために、王様が命令をしたと宣言したのだ。

俺とアキレアはもちろん焦ったが王様は


「今代の魔王を倒し、悪のオーラを払ったのだ。……このくらいはさせて欲しい。」


と言って譲らなかった。少し無理がある気もしたけれど、理由と、魔王を倒したという事実に民衆は納得し、俺達の入れ替わりはそういう策だったのだと認められることになった。




操られていた生徒たちは操られていたことを覚えていなかった。

学校で意識を失い、気がついたら国に保護されていたという認識らしい。


「なんか妙に腹部が痛い気がする……。」

「気のせい気のせい。」


クラスメイト達が何かそんなことを言っていたが、アストロンとアキレアが気のせいだと言い聞かせていた。そんな彼らは俺とアキレアの入れ替わりを知って、最初こそ驚いたものの


「いや、何か納得したわ。」

「アキレア……いや、フリージアなのか?まあ、すごく優しかったし」

「うん。聖女って言われてもそれはそれで納得って感じ。」

「逆にフリージア様……アキレア様の冷こ……冷静さにも納得!!」


と妙に納得していた。そして


「あー!つまり学校内の噂はフリージアと王子の噂だったわけか!」

「それなら納得だな!!」

「うん。納得納得!!」


と例の噂についても勝手に納得していた。

おい、俺はまだ納得していない案件なんだが、勝手に納得するんじゃない。




一応例の噂についてはホワイトレースが説明してくれて、謝罪もしてくれた。

まあ事情は分かったけれど……


「結局アストロンはちゃんと俺が好きなのか?」

「好きだよ!!好きに決まってる!!」

「いや、でも俺結局勇者じゃないし、アキレアでもないし……。」


言い淀む俺の手をアストロンは両手でつかんだ。


「ねえ、フリージア。」

「うっ。」


今までアキレアにしか本名で呼ばれてなかったからすごく心臓に悪い。アストロンは真っすぐ俺を見つめて言った。


「僕は君がアキレアでも、フリージアでも、勇者でも聖女でも、中身が君であれば良いんだ。呼び名が変わっても、見た目が変わっても、僕の世界を切り開いてくれたのは確かに君なんだから。」

「アストロン。」

「どんな君でも好きだよ。だからフリージア、僕とずっと一緒に生きてくれませんか?」

「っ俺も、アストロンが――――――――」




魔王だった彼はどうしたのかというと


「認識阻害の魔法を使い続けるのも問題だしね。」


彼は学校をやめることにした。

あの後、どうにか意識を取り戻した彼は普通の人間だった。

それまでの記憶も感情もある。

けれど悪のオーラはもう存在しないし、彼が生きていても悪のオーラが溢れてくることも無さそうだった。


回復室の先生も先生をやめるそうだ。

悪のオーラによる行動や魔王の罪を裁くことができるのかと言われれば、答えは否だ。

ただ、これからも学園にいることが許されるのかというと、流石に……という話でもあるらしい。


スキラと先生は元居た孤児院に戻り、孤児院を支えるために尽力することになった。

一応監視がつくらしいが、多分監視がいなくても、もう何もできないだろう。


「フリージア。ありがとう。俺のこと、普通に生きられるようにしてくれて。」

「うん。スキラ先輩、お元気で。」

「もしも王子にうんざりしたら何時でも俺のところに来て良いよ。ずっと好きだから。」


別れ際にスキラ先輩はそんなことを言った。

その瞬間アストロンが俺と先輩の間に割って入ってくる。


「まだ諦めてなかったんですか?」

「想い続けるのは、俺の自由だと思うけど。」


スキラ先輩は少しだけ挑発的に笑った。それからクスっと笑って


「まあ安心してよ。フリージアがどれだけアストロン王子のことが好きなのか、文字通り痛いほど良く知ってるから。」


と胸に手を当てた。


「うっ……。」


先輩の胸を貫いたのはアストロンへの恋心が込められた剣で、

蘇生の時にアストロンの魔力を分けてもらって、

アストロンへの贈り物でその効果をアップさせたことが頭を過る。

なんか先輩には諸々伝わっているようだ。


「だからフリージア。幸せになってね。」

「っはい!」


スキラ先輩は穏やかに俺の幸せを願ってくれた。




「王子とフリージア様の婚約式で、私とアキレアの婚約発表も一緒に行いましょう!」


ホワイトレースはアキレアのことをアキレアと呼ぶようになった。

何か魔王戦の後いつの間にかくっついたようで、俺としては幼馴染と双子の兄弟の色恋話に衝撃を受けていたんだが、何故かライには呆れられてしまった。

ちなみにホワイトレースはアキレアのことを聖女様とか勇者様とか呼んでいて、フリージアと呼んだことがないらしい。ホワイトレース曰く


「何かフリージアって名前は微妙にしっくりこなかったんですよね。」


とのこと。俺をアキレア様と呼んでいたのは良いのだろうか……。




「とりあえずフリージアって呼んで良いかな?」


ライが俺にそう尋ねてきた。まあ、アキレアじゃないからアッキーじゃないんだろうけど。


「あだ名じゃないんだな?」


お前ってあだ名をつけて距離を縮めるタイプじゃなかったか?そう思って首を傾げると、ライは口元を引きつらせた。


「ねえねえ、せっかくだから、あだ名は僕だけに呼ばせてよ。」

「わわっ。」


後ろから飛びついてきたアストロンに驚く。

俺がフリージアでもアッキーでもアストロンのこういうところは変わらない。だけど最近はさらに


「2人っきりの時に、フリージアのあだ名、僕だけが呼びたいな。」


少し低い声で耳元で囁くから質が悪い!!


「分かった!!うん!ライ!お前はフリージアで頼む!」

「うん。」


ライが苦笑いしながらそう答えた。




くるくると踊りながら、そんなことを思いだしていると


「何考えてるの?」


と尋ねられた。

うーん。何と言うか、色んな事を考えてたんだけど


「アストロンと婚約者になるまでのこと?」


そう答えたらアストロンがむせた。

とりあえず区切りも良かったので踊るのをやめて、背中をさする。


「それにしても、良いものってなんなんだろうな?」

「まあ星はキレイだけどね。」


確かに星はキレイだけど、それ以外に夜にこの塔に登る利点があまり分からない。

景色だけなら昼間の方が良い気もするし。

それにわざわざ、半年前のあの日、半年後を指定して意味が―――――


「あっ!」

「え?」


アストロンが声を空を見て声をあげる。俺もそれにつられて空を見た。


「わあっ!!」


そして俺達が見たのは、数多の星が流れる光景。

空にいくつもの光の線が描かれては消えていく。


ピンクや薄紫に光る花畑。

そこにある半透明の水色の時計塔。

その上で俺は、世界で一番好きな人と、流れる星を見た。


「フリージアと一緒に見る世界は、本当に、驚くくらい綺麗だ。」

「……俺もアストロンと一緒だから、この光景がこんなに綺麗に見えるのかもな。」


アストロンの方を見たら、アストロンも俺を見ていた。

アストロンの瞳の中にも流れ星が見えた。


「フリージア、ジア。僕、ジアのことが好きだよ。世界中の誰よりも、ううん、世界よりもジアのことを選んじゃうくらい、ジアのことが好きだ。」


あの日この場所で、俺が応えられなかった言葉をアストロンが紡ぐ。

アッキーではなく、ジアだけど。


呼び名はどっちでもいいのだと、

中身が俺ならそれで良いのだと、

目の前にいる彼が教えてくれた。


勇者じゃなくても、

聖女じゃなくても、

アッキーでもジアでも、

アキレアでもフリージアでも、


アストロンは俺を好きだと言ってくれる。


そして俺も


「俺も、アストロンが好きだ。」


あの日、こたえられなかったこの場所で、ちゃんとこたえることができた。


最終回でした。最後までお付き合いいただきありがとうございました!


男装女子も書きたいし、女装男子も書きたいな……と思って、頭に浮かんだのが古典のとりかえばやでした。そこから勇者と聖女を入れ替えてみようとなってこの話に……。想像以上に長くなりました。

ところどころグダッたり、説明が足りなかったりしたかもしれませんが、男装女子も女装男子も書けたので個人的には結構満足しています……。

何気に今回のフリージアのお相手であるアストロンは、私が書いた中で一番押せ押せ系のキャラだった気がしています。……どうして私が書く王族系のキャラは何かヤバい系のキャラが多いのか……。


また今年中にもう一作品くらいかけたら良いな……と思ったりしてます。

機会があれば、またよろしくお願いします。

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