岩の城は砂の城01
馬車は深い森を抜け、土の剥き出しになった道に停まっている。数十メートルも走れば舗装された道に出るのだが、馬車がそこに停まってから一時間は経つ。
もうすぐ夜明けだ。暗い夜の帳を降ろし、明るい太陽が顔を見せるはずだった。
「本当にお身体は大丈夫ですか?」
淡い黄色や桃色、淡い青色など様々な色を組み合わせたパステルカラーのドレスに身を包んだティーナは頬杖を突いて馬車の中から外を見ていたが、視線だけを向かいに向けた。今にも泣きそうな顔でララが行儀よく手を揃えて座っている。
「そんな顔をしないで、ララ。……極力レリアンを手伝い、彼に気づかれないよう食事に毒を多く入れてほしいと頼んだのはわたくしよ。ちゃんと遂行してくれたララのおかげで彼らの心を大きく揺さぶり、信頼を得ることが出来たわ。貴方が責任を負う必要は全くないのよ」
「しかしっ」
ティーナは優しく微笑んで唇に人差し指をつけた。それ以上は何も言うなということである。ララは喉から出かかった言葉を何とか飲み込み、唇を噛んだ。それを確認したティーナは口の端を上げて笑い、再び窓の外へ視線を投げた。
しばらく馬車の中には沈黙が降りた。その沈黙を破ったのはララだった。
「……今頃あの中では決着がついているのではありませんか?」
探るように緑色の瞳を向ける。
「何かしらの区切りにはなるでしょうね。けれど、これはそんなに甘い話ではないと思うのよ」
ティーナの物言いにララは眉をひそめた。
「今回の作戦であのけだもの男を殺そうとした人物が分かりますよね? そして、ティーナ様はけだもの男の影武者を殺した人物を知っていらっしゃる。それで解決するのではないですか?」
「さぁどうかしらね。そんなに簡単に全てが終わるなら、あの人は十年以上あんなところに閉じ込められていないとわたくしは思うわ。……あの方は、あそこを出なければ安全なのよ。いつか崩れる砂の城でも、城は城なの。お互いを信頼していないぶん、お互いにけん制し合ってあの城の中では誰も殺せない。だからこそ、彼はずっと生きてこられたのよ」
目を上げる。
ティーナの目には森の木々の中から突き出している山が映っている。黒い岩でできた岩山である。二時間ほど前にティーナはあの岩山から出て来た。
ルフェールの隠れていたところは建物ではなく、山を切り抜いて作られた空間であった。それも、かつて大戦があった時代に捕虜や囚人の収容場所として作られたものだった。
ティーナは目を細めた。空の裾の色が変わり始め、岩山の輪郭が浮かび上がって来た。
もうすぐ朝陽が差すだろう。そうすればこの真っ暗闇の岩山にも多少なりとも光が入るはずだった。




