監獄の花風呂02
「なっ!? てめぇなんでここに!」
湯船につかるルフェールとジョックスの目が合った。ルフェールはきょとんとした顔で、たった今ジョックスがした質問に答えようと口を開いた。
「不審者よジョックス! 殴って!! 骨を五、六本折るのよ! わたくしの裸を見た罪は重いわ!!」
しかしそれをティーナの叫び声が制した。
「姫様の裸を見たのかこの野郎!」
ジョックスは青筋を立て、迷うことなく湯船の中に飛び込んでルフェールを捕まえようとした。大きな水飛沫が上がる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいジョックス! 何がどうなってるんですかこれ! わっ!?」
べしゃっ
遅れてやってきたレリアンがジョックスを止めようとしたが、ものの見事に滑って転んだ。どうやら濡れた岩の上に散らばっていた花を踏んだらしい。ティーナとジョックスは思わず気を取られる。その隙にルフェールは素早い動きでジョックスを交わし、あろうことかティーナの後ろに隠れた。拳を作った腕を振り上げ、殴ろうとしたジョックスは思いとどまった。
「きゃぁっ触らないでっ! あっちに行きなさい!」
肩を掴むルフェールをはがそうとティーナは暴れた。片手で胸を押さえながらもう片方の手をばたつかせる。水飛沫が上がるので目は閉じていた。
「暴れると危ないよ……!」
ルフェールはなんとかティーナの攻撃を避けていたが、避けきれず側頭部にティーナの腕が当たった。
「わっ!」
「きゃっ!」
ばしゃーん!
ふらついたルフェールはティーナを巻き込み、お湯の中に沈んだ。
「ぷはっ!」
一旦沈んだルフェールはすぐさま自力で顔を上げた。もとより湯船は深くない。すぐに上がって来られる深さだ。しかし小柄なティーナには難しかったらしく、ティーナはルフェールよりも長く潜っていた。
背中から沈んだということや、泳げないということも原因だったかもしれない。とにかくティーナは突然お湯の中に頭から沈んでしまったことに対して軽くパニック状態になっていた。
無我夢中で近くにあるものに縋ってようやく水面から顔を出す。
「はぁっ!! げほごほっ! ふぇぇっこわかっ!?!?!?」
ティーナは誰かの胸に抱き着いていた。腰回りは細い割にちゃんと引き締まった筋肉がついている。
はっとして顔を上げてみると、真っ赤な目を大きく見開いたルフェールの顔があった。
「……柔らかい」
ぼそりとルフェールが感想を漏らす。
「きゃぁぁぁ!」
ばちーん!
「痛い」
ティーナは渾身の力でルフェールの頬をぶち、すぐさま距離を取って身体を隠した。
「てめぇ触ったな!?」
「触りましたね!?」
「全身の骨を折って!!!」
「ティーナが抱き着いてきたのに……」
それぞれが思い思いの言葉を叫ぶ。ジョックスはルフェールを殴ろうと拳を振り回し、ルフェールは危機を察して逃げ、レリアンは湯船に入って後ろからジョックスを羽交い絞めにした。混沌とした状態であった。大惨事である。
「いやこれは酷い有様だ。悲劇も喜劇もビックリだね」
そこへ登場したのがセロであった。
「君たち、無礼にもほどがあるよ。一番に考えてあげるべきは、彼女のことだ」
言ってセロは手にしていた布でティーナをくるみ、身体を丸ごと包み込むようにして抱き上げた。あまりの驚きと混乱でひんひんと泣いていたティーナの涙は引っ込み、大きな薄い茶色の目からほろりと残りの涙が零れた。
「セロ……」
すん、と鼻をすすり、ティーナはセロに腕を回して顔を首元に埋めた。それを見たジョックスは少なからずショックを受けてその場で止まり、自動的にレリアンも止まることになった。追いかけられることのなくなったルフェールも立ち止まり、じいっとセロとティーナを見上げた。
「全員不合格」
セロはにっこりと笑って言った。けれどもその顔は全く笑っていないように見えた。




