ベルの尋問03
「いや、首の辺りを毒針で刺されたようだ。小さな傷跡と、その周りの皮膚が毒に侵されて変色しているのを見た」
「そう……可哀想に。毒針は見つかったの?」
ティーナは身体を元に戻し、手を揃えて足の上に置いた。
「見つかっていない。回収されたようだ」
「それならどこかから飛ばしたというのは考えにくいわね……」
「どうだろう。離れたところから飛ばして毒針を刺し、気づかれないように回収することも出来ないわけではないからな」
「そうよね。そうするとあの会場にいた全員が怪しいということになってしまうわ。貴方たちが調べるのでしょう? 大変ね」
ベルは思わず頷いた。
「そうだな。……君がやったのではないなら、その必要がある」
空色の目を向けるとティーナは頬を膨らませた。
「さっきから言っているでしょう。わたくしは潔白よ!」
「毒針を刺した人物とそれを回収した人物がいるのならば、君は随分と怪しくなる。君にはあの態度の悪い従者がいるからな。死体に触ったのも、あいつが最初だった」
ベルの目が鋭くなる。ティーナは肩を落とした。
「それはそうだわ。傍から見れば怪しいのも認めるわ」
ベルは何度か瞬いた。
「……認めるのか? 意外だな……」
「事実だもの。確かにわたくしたちは怪しいわ。最後にあの方とダンスをしたのはわたくしで、最初に亡くなったあの方に触ったのはわたくしの使用人よ。わたくしが貴方たちの立場なら、真っ先に疑うわ。……状況だけを見ればね」
「状況だけを見れば?」
ベルの片眉が上がる。ティーナはゆっくりと頷いて前のめりになった。
「あの会場だけのことを整理すれば怪しいのはわたくしたちよ。けれど、きっと、この事件はあの会場だけで完結するものではないはずよ」
「どういうことだ?」
「あの会場で人を殺すのは簡単じゃないわ。あんなにたくさんの人がいたのよ。それもあそこに入れるのは招待状を持っている、貴族や王族だけ。つまりこれは行き当たりばったりの、被害者は誰でも良い殺人計画ではないということよ。念入りにあの方を殺す計画を練ったはずなのよ。それには動機が必要で、殺人計画が実行された後のことも考えたはずだわ。あの日の、あの会場だけで完結していることじゃないわ。その前後から考えなくてはいけないのよ」
ベルはじっと床を見つめたまま何かを考え始めた。眉間にしわを寄せ、口を結び、組んだ指を小刻みに動かしている。
「わたくしは田舎の貴族。ベルがわたくしのことを知らないように、わたくしも王都のことはおろかその周辺のことでさえ知らないわ。ほとんど誰とも交流のないわたくしが、仮面をつけている人たちの中で目的の人物を特定し、殺すことはほとんど不可能よ。そもそもわたくしにはメリットがないわ。亡くなった方が誰かも知らない。亡くなった方の敵となる人物と面識もないわたくしが、どうして殺人計画なんてするのかしら。それにこうして疑われてすぐに捕まってしまうような計画を立てると思う?」
ベルは答えなかった。ティーナの薄い茶色の目から視線を反らし、床を見つめたまま、指を組んで合わせた親指をつけたり離したりしていた。
「ねぇ、ベル」
空色の瞳にティーナの姿が映る。
「教えてくれないかしら。殺された人は誰なの? そして、この城の主……ベルたちにわたくしを調べるよう命じたのは誰なの?」
沈黙。
数秒、数十秒、ベルは口を閉ざしたままだった。ティーナはベルが口を開くのを黙って待った。
「……それは言えない。言えば君は……ティーナは、殺されてしまう」
ややあって答えたベルの声は鉛のように重かった。




