最終話
「んん!?」
強引なキスに、勢いが余って歯と歯があたり、王子がその顔を驚愕に染めるのが分かる。
どうしようもなく、粗雑なキスだった。
……良く理解できているからこそ、私は羞恥を覚えずにはいられない。
周囲の貴族達からも、私に対する驚愕の目が注がれていて、その事実がさらに羞恥を煽る。
それでも。
「なぜ、なのですか」
その羞恥を覚悟しても、ライフォード様に伝えなければならないことが、私にはあった。
「───なぜ、今私に答えを求めないのですか」
羞恥で熱い顔。
それを隠さずに顔を見上げ、私が告げた言葉にライフォード様の動きが止まる。
次の瞬間、私の言葉の意味を理解したライフォード様の顔が、朱に染まった。
「っ!?」
動揺を目にし私は、ようやくライフォード様が気づいてくれたことを悟る。
ライフォード様の告白に対する答え──それこそがこのキスであることを。
一拍ののち、ライフォード様は呆れたような口調で、口を開いた。
「………君は想像できない行動を取る」
それは、まるで私を咎めるような言葉だった。
だが、真っ赤になった顔を手で覆い隠しながらのライフォード様を見て、私は確信する。
この言葉は、照れ隠しでしか無いのだと。
瞬間、私の胸に溢れ出したのは、達成感だった。
ようやくライフォード様に、一矢報いることが出来たという。
その想いのままに、未だ熱が引かない顔のまま、私はライフォード様へと笑いかける。
「覚えておいてください。私はやられたら、やり返さずにはいられない主義なんですわ。──だから、結婚したら覚悟してくださいね」
ライフォード様が悔しそうに顔を歪め、しかし直ぐにその顔を笑みに変えた。
「本当に、敵わないな」
そして、私達はもう一度唇を交わした。
先ほどとは違う、優しい口付けを。
◇◆◇
こうして、私はライフォード様と婚約した。
けれど、この時の私は知らない。
ライフォード様と伯爵令嬢(しかも他の貴族の元婚約者)である私の婚約を認めない人間が存在し、それを撃退しなければならなくなること。
撃退しているうちにライフォード様は国王、私は王妃となること。
そして、私たちが治めたその時代が、王国の最盛期と呼ばれるようになることを。
この時の私は、知る由もなかった………
これで、「裏切り者、そう呼ばれた令嬢は」本編完結になります。
今までありがとうございました!
ただ、また番外編を更新したいのと、続編(ライフォードに嫁いでから編)を書いてみたいと思っています。今回、話が単調と言われた反省を活かし、次回は書ききれたら更新したいと思っているので、お気長に待って頂けると幸いです!




