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第42話

マーリス目線です。

「……私のために、《仮面の淑女》を作った?」


私がそうして口を開けたのは、サラリアが去ってからかなり時間が経った後だった。


今まで私は、サラリアに対して八つ当たりと分かりながら怒りを覚えていた。

それは、ライフォード様という本物を見てから抱いてきた劣等感からの怒り。


今まで優れていると無条件に思っていた自分など、ただの勘違いした凡人にでしかない、そのことを私はライフォード様との出会いで気づかされた。

だからこそ、《仮面の淑女》をサラリアが作ったと聞いた時──彼女もそのライフォード様と同じ天才だと気づいた時、私は八つ当たりと分かりながら怒りが抑えられなかった。


……今までサラリアに劣等感を抱いていたからこそ尚更。


その怒りを私は、そのままサラリアへとぶつけた。

恐らくこの先、ライフォード様との輝かしい未来が待っているサラリアを、裏切り者であるかのように思い込んで。



──それが、どうしようもなく愚かな行為であることに気づかずに。



「あの、《仮面の淑女》を私のために作っただと?ライフォード様と婚姻が出来るほどの力を得るためではなく?」


私は呆然と、そう言葉を漏らす。


その時になってようやく。本当にようやく私は理解しようとしていた。


サラリアは本当に天才だったのであること。

それも、自分など比にならない程の。


にも関わらずサラリアは、本気で私のような凡人、いや愚者のために力を尽くそうとしていた。

それこそ、全身全霊を掛けて。



──そして、それを潰したのが他ならぬ自分だということを。



「は、はは、そういうことか……」


それを理解すると同時に、何故サラリアがこの場所で《仮面の淑女》を明かしたのも理解して、私は乾いた笑い声をあげた。

私なんかの冤罪を晴らす程度、サラリアなら《仮面の淑女》という立場を使わずにでも簡単にできただろう。


けれど、私との関係を全て払拭するために、サラリアは《仮面の淑女》という、身分を明かしたのだろう。

私との全てを吹っ切るために。


「っ!」


それを理解した途端、私の頭の中に蘇ってきたのは、在りし日のサラリアとの思い出だった。

その当時は、煩わしいとしか思っていなかったサラリアの小言。

けれど、私のためにサラリアが《仮面の淑女》という組織を作り上げたことを知る今だから分かる。


──その小言は、本気で私の夢を叶えようと考えているからこそのものであることが。


「私はなんて………」


取り返しがつかないことを理解した瞬間、私の口から言葉が漏れ出る。

その先を、これ以上惨めになる訳にはいかないと、私は唇を強く噛み締めて胸の奥底に押し込む。

自らの手で全てを投げ捨てた私には、過去を羨む資格さえ無いのだから。



……最早、後悔は手遅れ以外の何者でもなかった。

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