第2章 森の異変 2 天
私たちが駆けつけると、直立豚魔獣がキレイに円形に並んで倒されていた。
その中心に2つの人影。
気絶している女性にコロが寄り添って、予想通りにどうしていいのか分からずにオロオロしていた。
私たちが近づくと、『気絶してた……』と見たらわかる状況を呟かれた。
まったく、奥手過ぎるよね。
直立豚魔獣の死体がキレイに円形に並んでいるのも、返り血が気絶してる彼女にかからないよう、気をつかいながら倒したからだろう。
仕方なしに私が彼女にケガが無いのは私が確認した。
コロとサイラスは直立豚魔獣の解体をしていた。
直立豚魔獣は使える素材は少ない方だけど、革は一般的な加工品に、肉は食肉になる。
普通なら血の臭いで近寄ってくる魔獣を警戒して誰かが見張りに立たないといけないところだけど、見通しが良い本来は安全な平原で、私が地図画面を使って近くに魔獣がいれば警報が出るようにしてるから安全確保はできている。
警報も万能じゃないんだけどね。
今の状況なら余程特殊な魔獣が出てこない限り大丈夫。
解体が終わって不要部分を土に埋めるところまでやっても目が覚めそうにないので、サイラスが抱えてすぐ近くの宿場町まで運んでいるところでやっと目が覚めた。
目が覚めると同時に宿場町の防御壁前で『犯される』と叫んでくれたので周りから私たちが不審者みたいに見られたけど、説明したらちゃんと理解してくれた。
……サイラスに抱えさせたのは失敗だったよね。
抱かれ心地もきっと魔獣並みだったんだろうね。
「私はアビーと言います。そこの宿場町の宿屋の娘です。
あの、命を救っていただいたお礼にはまったく足りないと思いますが、あの、うちの宿屋は父がケガをして休業中なんですけど、でも私、頑張ってもてなさせていただきますので、うちに泊まっていただけませんか?」
落ち着いた頃、そんな申し出をされた。
「えっと……」
私はサイラスとコロを見る。
コロはどうでもいいって感じの顔をしてたけど、サイラスは小さく頷いた。
礼を受けるにしても受けないにしてもどうぜ宿には泊まらないといけないしね。
「でもご迷惑でしょ?ケガをしてる方もおられるんですよね?」
「いえ!そんなことありません!恩人をそのまま返したって聞いたら父に怒られます!」
「でも、たいしたことしてないから」
「いえ!」
「でもね、そこまでしてもらったら私も気を使ってしまうわ……」
「そんな!恩返しさせてください」
「困ったわね」
「……でも……」
「嬢ちゃん、遊ぶなよ」
半笑いのサイラスにツッコミを入れられてしまった。
ちょっと反応が可愛くて遊んじゃっただけじゃない。
たぶん私と同い年くらいだと思うけど、このアビーちゃんは素朴な感じがして反応が可愛い。
「アビー嬢ちゃんだっけか?
この嬢ちゃんの相手をまともにしようとするなよ。母親譲りの性格の悪さだからな。こんな見た目でも腹の中は真っ黒だぞ。見た目に騙されるなよ」
「サイラス……さん、人聞きの悪いこと言わないでください」
「いい加減にオレの名前の後の変な間をやめてくれ。
アビー嬢ちゃん、あのな、この性悪魔女は最初からあんたの申し出を受けるつもりだったんだよ。ふざけてただけだ」
まだ慣れてないんだから仕方ないじゃない。
私くらいの年齢の女性が親と子くらい年が上の人間を呼び捨てにしてると目立つからって、旅に出える前に『サイラスさん』と『さん』を付けて呼ぶことに決めていた。
でも、違和感あって、ついつい呼び捨てにしかけるから、意識して付けようとすると変な間が空いちゃうんだよね。
「え?」
アビーちゃんが不思議そうな顔をして私を見つめ、サイラスがニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
結局、私たちはアビーちゃんの宿屋にお世話になることになった。
宿場町カトレアに入り、アビーちゃんの案内で宿屋に向かう。
宿屋は門から真っ直ぐ伸びた本通り沿いにあった。
小さいけれど立地も良くて、店構えも入りやすそうな感じだった。
中に入ると、数十人入るくらいの食堂があって、奥の階段から2、3階の客室に上がれるらしい。
私には未体験の種類の宿屋だね。
ここ数日はあまり人と会わずに部屋で食事ができる高めの宿屋か、練習を兼ねた野営だったからねー。
会話や行動に支障が無い程度の認識阻害の魔法を使ってるから、私たちを確実に知ってる人以外は私たちのことは気が付かないだろうけど、商業都市の近くじゃあまり効果が無さそうだったからね。
あの街とその周辺には私たちの顔と名前をしっかりと知ってる人が多すぎる。
大会優勝者のコロと、聖騎士で元騎士団長のサイラス、人昇精霊の私。
この中じゃ、私が一番顔を知られてないんじゃないかな?
コロとサイラスは街をウロウロしてるのが普通だから、顔見知り以外でも近くで顔を見たことがある人も多いんだよね。
でも、ここまで商業都市から離れた場所ならたぶん大丈夫だろう。
確信ないけど。
宿屋に入ってからコロのシッポが大きく揺れ始めた。
コロのお母さんのお店より少し狭いくらいの宿屋の食堂。
そこを見たあたりからこの数日いつもよりさらに悪くなっていた目つきが普段くらいに戻った。
私はそれを見て、コロが言い出すことを予測できた。
「お願いします!数日で良いのでここで料理させてください!」
それは見事な土下座だった。
……土下座までは予測できなかったわ……。
アビーちゃんがいきなりの出来事に固まってる。
サイラスは一瞬だけ驚いて、その後は爆笑してる。
私は、呆れた顔をしてたと思う。
主がケガで不在の、すぐに料理ができる食堂。
そんなものをコロが見たらこうなるよね……。
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