さん 凄い
「私の名前は奴隷ちゃんです」
「いや、絶対にウソだ」
そんなワケあるか。
「もちろんウソです。私の名前はユウヘグって言います。ユウって呼んでくれたら嬉しいと思っていると思います」
「そうか。俺はラステムっていう名前だ。ラステムって呼んでくれ」
「分かりました。ラス」
どうも俺は、奴隷という言葉の意味をはき違えていたらしい。
もしくは、お手伝いちゃんという言葉の。
(誰がお手伝いちゃんですか)
(そのやり取りはさっきやったばっかりだ)
たぶん、そうじゃなきゃ、そうじゃない限り、この事態に説明がつかない。
生意気が過ぎている。
生意気が過ぎ過ぎている。
「冗談ですよ。ラステムさん。ラステムさんです。ええ、あなたはラステムさんであります。ラステムさん以外の何者でもありません。ラステム、ラステム、ラステム。良い名前ですね。このラステム風情め」
なんだ、冗談だったのか。
そうか、そうか、まあ、この年齢の子供だからな、冗談の一つや二つ、言いたくなるのかもしれない。
言いたくなる年頃なのかもしれない。
ならば俺は、寛容で優しさに満ち満ちたこの俺は、笑ってやるのが正解か。
いや、そうではなく。
そうではなく。
そうではなく。
そうではなく。
「おい、お前、最後何つった」
「良い名前ですねと言いました。それ以外には有り得ません。良い名前ですねと言ったんです」
「本当か?」
「ユウへグの名前に誓って、本当です」
だ、そうだ。
ユウへグの名前がどれほど重いものなのかを、俺は知らないが。
きっと、重いんだろう。
であるならば俺は、聞き違いをしたっぽい。
いけない、いけない。
ただの早とちりだったか。
風情?
とか、なんとか、そんなことを言われたような気がしてしまった。
言うはずないよな、初対面の大人に向かって、そんなこと。
こんな子供だし。
「で、君、ええと、ユウ」
「はいはい、何でしょう」
「質問に答えてくれ」
「何なりとお訊きください」
「料理はできる?」
「はい、できます」
「洗濯は?」
「つつがなく」
「掃除とかはどうだ?」
「無問題です」
なんとまあ。
「へえ、凄いね、君。若いのに」
俺のこの年の頃は、せいぜい、鼻水を垂らすしか能がなかったような。
今の子供って、しっかりしとる。
「前の主人の下で、ほとんど覚えました、そういうのは」
前の主人。
ああ、そう言えば、そうだった。
そうだった。
スッカリ忘れていた。
「亡くなられたんだよな」
単なる持病――と、俺は聞いている。
「はい。でも、寿命と言えば、寿命でした。とても残念です」
「だよな。気持ちは分かる。俺も、親とは幼い自分に死に別れて、しばらくは泣いていたよ」
「あんなにも広い家だったのに、残念です」
「不謹慎」
俺の共感を返せ。
言い直す必要、どこにもなかったろ。




